見出し画像

ノラ・ジョーンズ:Norah Jones "Visions"

今年の3月の初めにノラ・ジョーンズがアルバム "Visions" をリリースした。

去年から Pod Cast でいろいろなミュージシャンとの共演を配信したり、年末にはアイスランドの新進女性ボーカル・レイヴェイとのクリスマスソングをリリースしたりして耳にする機会が増えてきた。ただそれだけに単独のアルバムはまだまだ先なのだろうな、となんとなく思っていて、このアルバムがリリースされたときは少々驚いた。

どちらかというと力が抜けた感じの12曲でトータル45分、シンプルで軽めのアレンジでノラの音楽の様々な面を聴かせる。原点に返りながら円熟の魅力も聴かせる印象で、すでに名作の評判も高いようだ。

プロデュースはリオン・マイケルズで、ほぼ全てのパートをリオンとノラの二人でレコーディングしたということだ。ノラがギターかキーボードを自身の演奏で歌を歌い、リオンがドラムスを叩いたという。それにコーラスや曲によっては管楽器も加わって適度な厚みを持たせながら過剰なところがない。

そのように作られたからだろう、いつもどおりのノラ・ジョーンズの楽曲にプラスして、全体的に楽で自由な感じを、より感じさせる。

ノラ・ジョーンズの歌は、ジャズとポップス、ソウルやカントリーっぽいところもあり、一聴してスタンダードのようで、どこかレトロな懐かしさを感じさせながらも、どのジャンルにも収まらない新しさと拡がりを感じさせる。まさにノラ・ジョーンズの音楽としかいいようがない魅力があると思う。2002年のデビュー・アルバム "Come Away with Me” がグラミーで8冠というのが当時の音楽シーンに与えた驚きを教えてくれる。今、改めて調べてみると、これまでに約2800万枚のセールスを記録している。 (List of best-selling albums - Wikipedia)

ハスキーで内省的で、癒しをも感じさせる声が印象的だ。2004年の2nd, "Feels Like Home," 2007年の 3rd "Not Too Late," 2009年の "The Fall,"とほぼ2年おきにアルバムをリリースして、当時、私もこれらのアルバムを買い求め、よく聴いた。

ただ、後のほうのアルバムになるにしたがい、雰囲気が私にはちょっと重たい感じもあって、The Fallのあたりからあまり聴いていなかった。

そういえば、2011年に死去したアップルの創業者のスティーヴ・ジョブズのメモリアルで、ボブ・ディランの "Forever Young"を歌っている。

デジタル世代でありながらアコースティックで懐かしさも感じさせる。iTunesが有料の音楽ダウンロードサービスを始めたのが 2003年だったから、ちょうど時代の申し子というところもあったかもしれない。

さて、"Visions," 彼女としては久しぶりの大ヒットとなりそうだ。ビルボードによれば、アルバムセールスでいきなり Top 10、Jazz chartで No.1 ということだ。 

最近、レイヴェイやサマラ・ジョイ、あるいはギタリストならばパスクァーレ・グラッソといった、ルーツに根差し懐かしさを感じさせながらも、単にリバイバルやコピーではない、今の時代の自分たちの音楽として作り楽しく聴かせるミュージシャンが出てきていると思う。ノラ・ジョーンズの音楽はもともとそんな要素があり、彼女の新作は、期せずして、そんな時代の雰囲気にのってタイムリーにリリースされたと思う。


■追補

1.つい数日前に YouTube で Nora Jones がレコード店を訪れて選んだレコードを紹介する動画があがっていて大変興味深かった。

一枚目がエチオピアの作曲家にしてピアニストの修道女、Emahoy Tsegué-Maryam Guèbrou (エマホイ・ツェゲ=マリアム・ゴブルー) のピアノ・ソロアルバムだ。紹介された曲は "The Last Tears of Deceased," まったく知らないミュージシャンだったので、Spotify で検索し、ネットでも調べてみた。

この数年の間、よく聴いていたということだ。デジタルプラットフォームの功罪はいろいろあると思うが、自分がまったく知らなかった昔の名盤を気軽に見つけて聴くことができるのが非常に良いところだ。

2枚目が、Blossom Dearie の1957年のアルバムで、紹介された曲が "'Deed I Do", "More than You Know"

次が、若手の女性シンガーソングライター、Brittany Howard (ブリタニー・ハワード) の今年のアルバム "What Now." 

他に "Superstition" が収録された Stevie Wonderの "Talking Book, " Les McCann, R.E.M., Dolly Parton, Tony Bennette と Bill Evans の "Album" 曲は "Young and Foolish" が紹介され、幅広い音楽嗜好が伺える。


2.記事を書くごとに、記憶が怪しく、あやふやなところも多々あると感じ、できるだけ、事実確認など含めて改めて調べるようにしている。すると、やはり、それまで思い込みで間違って憶えていたこともあれば、まったく知らなかったことなど発見も多い。このように毎週、好きな音楽の記事を書いていて本当に良かったと思う。

今回は、ノラ・ジョーンズのデビュー・アルバムのセールスに驚いたほか、1枚目、2枚目のアルバムまでは、バンドのメンバーの作詞作曲がほとんどで、自身で作詞作曲を本格的に手掛けたのは3枚目のアルバムからだという。これには少々驚いた。

そう思うと、ノラ・ジョーンズを発掘したBlue Note の当時社長は驚くべき慧眼の持ち主だ。つまり、才能と将来の成功を見抜いただけでなく、彼女の作風におどろくほどマッチした適切なバンドメンバーやミュージシャン、プロデューサやエンジニアをあてたのだから。

また、このデビュー・アルバム "Come Away with Me” に一曲だけではあるが、私のイチオシで好きなギタリスト ビル・フリゼルが参加している。これも今日まで気が付かないでいた。


■ 関連 note 記事


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?