アストラッド・ジルベルト:Astrud Gilbert "Look To The Rainbow"
「世界の歌姫たち」という我ながらベタな名前だなと思うマガジンを作って、愛している女性シンガーばかり、愛している思いのたけを週1、火曜日に投稿している。23回目の今回は、太平洋を渡ってブラジルから、アストラッド・ジルベルト。
37年前くらいだったか、ジャズを聴き始めたころ、ギル・エヴァンズ・オーケストラが好きになってよく聴いた。だから、アストラッド・ジルベルトもスタン・ゲッツとの共演盤 "Getz /Gilberto" より先に、ギル・エヴァンズとの "Look to the Rainbow" を聴いた。
3曲目の"Felicidado" やブラジルの民俗楽器・ビリンバウ(民族楽器コイズミの解説)の音から始まる "Berimbau," もちょっと不思議なバックの演奏とともにたっぷり楽しめる。2曲目の Once Upon A Summertime や4曲目の"I Will Wait For You," など、寂しく、もの哀しい感じでいいし、タイトル曲の "Look To The Rainbow," 軽快な "Bim Bom"も楽しく聴ける。全編、ギル・エヴァンズのアレンジの不思議な雰囲気の和声とアストラッド・ジルベルトの豊かな声が、溶け合わないままでいて、なんともいえず合っている、少し不思議なアルバムだ。
決して明るい元気のある声でもないし、声量や歌唱力で圧倒する、という感じでもない。かといってアンニュイ、というわけでもない。そして、これがブラジル音楽でボサノバなのだ、と書くと、「おいおい、ちょっと違うよ」という声があがりそうにも思う (*1)。
デビューは 1963年の "Getz / Gilberto" そのタイトルどおり、ジョアン・ジルベルトとアストラッド・ジルベルトのジルベルト夫妻と、ジャズのサックスプレーヤー;スタン・ゲッツとの共演盤だ。
有名なアントニオ・カルロス・ジョビンの「イパネマの娘」が一曲目だ。
アストラッド・ジルベルトは英語が堪能だったらしく、英語でボサノバを歌い米国はじめ世界で売れた。いいレコーディングがたくさんある。
1965年のアルバムもいい感じだ。"Água de Beber"「おいしい水」が2曲目にある。
Walter Wanderley との1967年のアルバム、"A Certain Smile, A Certain Sadness" もいい。たとえば、"Summer Samba (So Nice)"。
バイーア州出身ということかが、バイーア州の独特のリズム楽器の感じはなく、その地方の音楽に私が触れたのは少し遅れてアストラッド・ジルベルトからではなかった(*2)。もちろん、ボサノバの女王とも呼ばれる人だし、ブラジル音楽の要素はたっぷりだけれども、むしろ、ジャズ・シンガーというほうがしっくりくるかもしれない。
1988年のライブを YouTube で楽しむことができる。
新しい録音がないのが、なんとも残念だが、いいベスト盤がたくさん出ている。
大学に入ったばかりのころ、CDショップでふと出会って購入して以来37年になるが、ちょっと仕事がしんどくてツラい時期の週末には、"Look to the Rainbow" を聴いて、心を洗い流してもらったことが度々あった。今回、この記事を書くにあたって、改めて、他のアルバムも端から聴いてみて、その声に癒されていた。
しかし、やはり、ギル・エヴァンズのアンサンブルも相まって異色の一枚ではあるが、"Look to the Rainbow" を私がどれだけ愛しているか、再確認したのであった。
(2023年 6月6日追記)
ついさきほど、アストラッド・ジルベルドが2023年6月5日に亡くなったことを知った。とても悲しい。
R.I.P…
■ 注記
(*1)
実は、ブラジルの歌姫を選ぼうと思ったらアストラッド・ジルベルトしか思いつかなかったのだ。エリス・レジーナにしようか、それともイリアーヌ・イリアスか、とも思ったのだけれど、私自身の思い入れからすると、アストラッドだ。ジャズ畑ではなく、もっとブラジル代表っぽい人にしたいと思ったのだが、女性のミュージシャンが不思議と思い浮かばない。
ブラジル音楽で好きなのを挙げてみよ、と言われると、男性ミュージシャンに偏る。一番好きなのはミルトン・ナシメント、イヴァン・リンス、トニーニョ・オルタ、ペドロ・マルティンス、ミシェル・ピポキーニャ、そして人類史上最強のギタリスト・ヤマンドゥ・コスタ。
(*2)
バイーアの音楽に初めて触れたのは、1990年のポール・サイモンのリズム・オブ・ザ・セインツ、そして、1991-1992年のラリー・コリエルのライブ・フロム・バイーア。
ライブ・フロム・バイーアはあまりバイーア色は強くないかもしれない。ブラジルのベーシストがメチャメチャ上手いけれども。
ジャズの一大イベントとして一世を風靡したライブ・アンダー・ザ・スカイのTV放送の映像が私の手元には秘蔵のDVDにコピーされているが、YouTubeにあがっている。ラリー・コリエルの、いつもの強引な熱のこもったソロが堪能できる。
■ 関連 マガジン
1. 好きでよく聴いているミュージシャンを紹介。毎週木曜日に更新中。ギタリスト多め、たまに懐メロ。
2. 愛している女性シンガーに特化したのが、我ながらベタな名前だと思うが「世界の歌姫たち」。こちらはさらに愛している思いのたけのみの記事ばかり、週一、毎週火曜日に新しい記事を書いている。懐メロ多め。
3. いずれも、耳もあまりよくないし、知識も少ない、語彙力もない、なので、基本YouTubeやSpotifyのリンク貼り付けと「好きだー」「愛している」というだけの記事ばかりになっているし、そうなっていく。
「なんだ、超有名どころばかりじゃないか。やっぱり音楽のこと何もわかってないんじゃないの」という批判は甘んじて受ける。
私本人が楽しく書いていることだけは間違いない、それだけは伝わるだろう。
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