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ジュリアン・ラージ:Julian Lage "Speak To Me"

現代のジャズ・ギタリストの最高峰とも呼ばれるジュリアン・ラージ (Julian Lage)。今年、ついこの間、新しいアルバム "Speak to Me" がリリースされた。

少し不思議な感じを残す2分ほどの小品 "Hymnal" からスタート。アルバム全体のイントロといった感じだ。続いて明るい勢いのあるギターのシャッフルから始まる "Northern Shuffle" 、ピアノとドラムスがリズムをきざみ、楽しいギターのソロ演奏がいい。目立たないが効果的に入るサックスとキーボードも彩をそえる。この曲ではサックスもソロを聴かせるが、朗々とメロディーを奏でると言う感じではない。絵で言うならば、筆を走らせてモノの形を描くというのではなく、筆を振ってインクを落としてモノの印象を描くという感じかもしれない。後半にテンポを落としてピアノも含め自由に演奏するところが私好みだ。

3曲目はアコースティックギターで、どこか懐かしい感じもあるカントリーの雰囲気がある "Omission." ゆったりと雄大な光景を思い浮かべることのできる演奏だ。

この曲では、ピアノはなく、Julian Lage (g), Jorge Roeder (b), Dave King (ds),  Patrick Warren (key), Keys Levon Henry (sax) のバンドだが、ベースのホルヘ・ローダーも渋くていい演奏だし、ドラムスは余計な音やおかずもなく、シンプルで楽しそうに演奏している。

4曲目はエレクトリックギターがつぶやくようなスローな "Serenade"、タイトルに相応しいロマンチックな曲だ。

5曲目 "Myself Around You" はギターのソロ。人々を驚かすようなテクニックや曲の構成ではないが、早いパッセージも和音も終始丁寧でしなやかな演奏だ。とはいえ口当たりがいいだけの単純な曲ではなく、時折はいる不協和音やメロディにはっとさせられる。

6曲目の "South Mountain" キーボードの演奏か、それともカリンバのような楽器を使っているのか、また違ったイントロが耳をひく。すぐにアコースティックギターでの和音主体の演奏だが、こちらもバックのキーボードとサックスとの音とリズムの組み合わせが複雑でギターの明るい和音とに不安な響きが加わり味わい深く、奥行きが深い。後半になるにしたがい曲が解体されていき、フリーな演奏となりサックスやキーボードがつぶやくように終わる。

そして、タイトル曲の "Speak to Me"、一転してテンポよく映画にでも使われそうな明快なテーマと曲構成だ。曲は最後まで解体されることなく演奏され、終わる。

アコースティックギターでのカントリー調でテンションの効いた和音がお洒落な "Two and One", 単純なテーマながらピアノが加わってフリーな "Vanishing Points", エレクトリックギターでしなやかに歌うようなテーマと流麗で熱のはいったソロの演奏を聴かせる "Tiburon", ゆったりとした "As It Weres"もなかなかいい。柔らかい音の中にそこはかとなく不安を感じさせるメロディがぞくっとさせる。

アルバムがリリースされる前に先行してリリースされていたシングルが 12曲目 "76" と 13曲目の"Nothing Happens Here" とでラストの2曲を飾る。

"76"はアップテンポなイントロから聴かせる。テーマで聴かせるアコースティックギターの演奏とドラムスのリズムはストレートだが、バックのサックスとピアノが何かが起こる期待感をいっぱいにさせる。

YouTubeにあがってるライブ演奏を視聴した。ちょっと破壊的なピアノ演奏でさらに曲の魅力が上がっている。テーマの期待感どおり、中ほどからのピアノソロが曲を解体してフリーにしていく様がかっこいい。

そして、寄り添うようなピアノとクラリネットが素晴らしい "Nothing Happens Here."

このアルバムの全曲には参加していないが、クリス・デイヴィスのピアノがいい演奏で存在感がある。

全体として一聴するとギター演奏が前面に出ていて、懐かしめの和音やどこかで聴いたことがあるようなメロディだし、大向こうを唸らせるような強烈な何かはない。が、よく聴いてみるとそうでもなく、バックの演奏とアレンジも含めて、奥行きが深い音作りで聴いていて飽きない。

以前から好きで聴いていたものの、ますます好きになった新作だ。


■関連 note 記事
ホルヘ・ローダーといえば、去年末にソフィア・レイとデュオでアルバムをリリースし、これが素晴らしかった。

■追補
クリス・デイヴィスはカナダ出身の女流のピアニストだ。今回初めて知ったのだが、2010年にアルバム・デビュー、Spotify で見ると 10 枚のフルアルバムをリリースしている。最新のアルバムがヴィレッジ・ヴァンガードでのライブで、たった今、1曲目の "Alice in the Congo" を聴いているがこれがなかなかよい。

ギターがジュリアン・ラージでここでの演奏も自由でいい。ドラムスがテリ・リン・キャリントンだ。

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