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アート・ガーファンクル:Art Garfunkel "Scissors Cut"

ポール・サイモンのことを書こうと思うと先に、アート・ガーファンクルのことを書いておかないと落ち着かない。サイモンとガーファンクル (S&G) のアート・ガーファンクルのことだ。

先週からいくらかソロ・アルバムを聴いていた。特に、1981年の "Scissor's Cut" (シザース・カット)を30年ちょいぶりだろうか、何度か聴いてみた。ジャケットはモノクロの写真で、聖歌隊の少年のような生真面目そうな顔でまっすくにこちらを見つめる目が印象的だ。

改めて、いいアルバムだと思う。当時ヒットした "A Heart In New York"は軽快でいい。自殺した恋人への思いと喪失感を歌ったというタイトル曲の "Scissors Cut" も印象的なサビととともに切なく美しく、アルバム全体の基調を決めている。

Scissors cut, paper covers rock
Breaks the shining scissor
You hurt me
I hurt her and she goes and we will miss her

"Scissors cut" written by Jimmy Webb

訳は次のような感じだろうか。

鋏は紙をカットし、紙は岩を包み、岩は輝く鋏を壊す
君は私を傷つけ
私は彼女を傷づけ、彼女は行ってしまう
そして私達は彼女を思い寂しくなるだろう

"Scissors cut" written by Jimmy Webb

6曲目の "Bright Eyes"は 映画「ウオーターシップダウンのウサギたち」のテーマ曲にもなった。私は映画は見ていないのだけれども原作は大好きで小学生のころからの愛読書なので思い入れは深い。

アルバムの中でアクセントをつけるアップテンポな "Hang On In" は、先週からしばらくこの曲が頭で鳴っている。

S&G のときの "A Hazy Shade of Winter" (冬の散歩道)を思いださせる。

そういえば、アルバムScissors Cut は日本語タイトルは 「シザース・カット ~ 北風のラストレター」となっていた。やはりマーケティングとして軽く連想されるようにしたのだろうか。


1941年生まれのポール・サイモンとアート・ガーファンクルは小学校からの幼馴染で、中学・高校と一緒に音楽活動を始めた。トム・アンド・ジェリーというグループ名で、デビュー曲の "Hey, School Girl" がちょっとヒットしたのだった。

今の時代はいい。YouTube で検索したら出てきた。この年になって初めて聴くことができて感無量だ。

ロックの殿堂入りの式典で、ポール・サイモンは「アーティは近所で一番の歌声だった」とユーモラスに言っている。

この動画では最初にジェームズ・テイラーが二人の来歴をユーモラスに紹介している。ジョークなど聴き取りにくい部分もあるが、このスピーチはファンの人は聴くべきだろう。

続くアート・ガーファンクルのスピーチはどちらかというと短く優等生的なコメントではあるが、冒頭の自虐的ジョークが笑わせる。7'09"あたり、調子よく話を始めたもののすぐに一瞬口をつぐんでマイクをじっと睨み、マイクの高さを調整しつつ、こう言う。

It's mic height, … that's what split up this group..

身長の差が二人の喧嘩のもとではなかっただろうけれども、しかし、音楽の志向の違い、作曲・アレンジの能力の違い、ボーカルの魅力の違い、見た目の違いから来る無邪気なファンの勝手な評価、あまりに非対称なそれらの違いをうまく象徴的に表していて、ひょっとしたらアート・ガーファンクルはプライベートではこの類の自虐ジョークを度々言っていたのかもしれない。

大ヒットとなったアルバムの「明日に架ける橋」のあと、解散宣言もないまま、それぞれの道を歩むことになったけれども、それまででも仲たがいはしょっちゅうで「犬猿の仲」と言われるほど仲が悪いのは有名だ。式典でも、そのころから何度も喧嘩して別れては一緒になりをくりかえした、そのことをポール・サイモンが簡単に言及している。

TV番組でのインタビューなどでもポール・サイモンが独特の皮肉でアート・ガーファンクルをいじるのを度々聞く。再結成コンサートも喧嘩がたえず大変だという噂だ。しかし、もはや夫婦あるいは家族といってもいいだろう二人の関係は私達第三者が入り込めるものではないと思われる。

2003年の good morning America のインタビューとライブはいい。

ライブは 4'25"から、Bookends から Old Friends。公園のベンチに座る老人を見て、70歳になるなんてとても不思議だ、という曲だ。1968年のヒット曲だから当時彼らは27歳だった。このライブはそれから35年後で62歳、しかし、ポール・サイモンのギターと二人のハーモニーは変わらず素晴らしい。 Homeward Bound (早く家に帰りたい) 、Scarborough Fair (スカボロー・フェア)、とS&Gのヒット曲が続く。アート・ガーファンクルは、スカボローフェアが一番好きだと、別のTV番組のインタビューで言っていたと思う。

しかし、再結成してもすぐに決裂する。音楽ビジネスとしてはS&Gの復活は望まれたことだろうし、何度か再結成が実現したのは、そういった周囲の仕掛けたことなのだろう。しかし、S&Gの再結成は、誰よりもアート・ガーファンクルが望んでいたかもしれないと思う。やはり他のソングライターの曲ではどこか物足りず、かといって自分で作詞作曲はとてもできない。アート・ガーファンクルは、自分の素晴らしい声を存分に活かせる S&G 時代のポール・サイモンの曲を愛していて、同じテイストの曲を一生歌っていたいと切に願っていたのかもしれない、と勝手に想像している。


「天使の声」とも言われるアート・ガーファンクルの声を存分に聴ける曲というと、S&Gの "For Emily, Whenever I May Find Her," を挙げることになるだろう。活動休止後の1972年のアルバム "Greatest Hits" に収められているライブ盤が圧巻だ。ポール・サイモンのギターも素晴らしい。

しかし、1968年の "Bookends", 1970年の "Bridge Over Troubled Water" を聴けば聴くほど、ポール・サイモンはすでにそれまでとは違う音楽を求めてアート・ガーファンクルから離れ始めているように感じる。その後、変遷を続けるポール・サイモンの音楽、とくに"Graceland"を経て1990年以降に彼がたどり着いていく境地を聴けば、二人の志向性はまったく異なると思われ、仕方ないことなのだろう。

インタビューでポール・サイモンが度々言う "ego" 「我(が)」というのはそういうことが大きいのではないかと思う。

アート・ガーファンクルのソロ・アルバムはあまり聴いていないが、Scissors Cut の他には "Watermark"が好きだ。

いつごろだろう、綺麗なジャケ写に惹かれて輸入盤で購入した。紙の質があまりよくなくいかにも輸入盤という雰囲気で、そんなところも気に入っていたし、実際、よく聴いたと思う。7曲目 "[What a] Wonderful World" に、ポール・サイモンとジェームズ・テイラーが参加していてアルバムの目玉だが、全編リラックスしたAORを楽しむことができる。


アート・ガーファンクルは 2011年に声を失ってしまったらしい。往年の声はもう出ない。それから2017年までギタリストの Tab Laven とライブ活動をしていたということだ。(Art Garfunkel Official Website

もしかしたら、声を失うことによって、自分のこだわりを捨てて純粋に好きな歌を自由に歌える、そういった落ち着いた境地にたどり着いたのかもしれない。そうであったらいいと願う。


Art Garfunkel Official Website



■関連 note 記事
Paul Simon の記事は、アルバムごとに思いのたけを綴っていく予定だ。おそらく全記事、2500文字超、しかも語り足りない、そんな個人的な記事になるはずである。

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