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ロバート・グラスパー:Robert Glasper "Black Radio"

ロバート・グラスパーのことを知ったきっかけは、Facebookの友人から教えてもらってのことだと記憶している。柔らかくてリリカルなピアノとヒップホップの要素がブレンドされている感じがよく、ピアノを中心にゆったりとした暗めで内省的な音作りとともに新鮮だった。

最近、3週間ほど前、ノラ・ジョーンズのポッドキャスト番組 "Norah Jones Playing Along" に登場していたのを聴いて、少し久しぶりだったが、改めてしみじみいいと思った。

この曲 "Let It Ride" は、2013年リリースの "Black Radio 2" に収められている。

過剰なところが一切なく淡々とした印象で、この曲が特にいい、と取り上げるのは難しいが、仕事のBGM で流しておくのにもいいかもしれない。

ロバート・グラスパーについて、いい紹介はないかとネットをあたったところ、次のサイトが詳しく興味深かった。

これらヒップホップとR&Bにジャズが融合したような楽曲を、打ち込みやサンプリング、ループに頼らず、生演奏で表現するというスタイルが新しく、周囲に大きな影響を与えたという。

だから、ライブの姿はジャズのスタンダードを演奏する印象だ。ジャージにトレードマークともいえるニット帽で淡々と演奏する姿も楽曲のスタイルやイメージによく合っている。

2014年のNPRの Tiny Desk Concert の動画は YouTube でも視聴できる。

冒頭、電話の受話器を取ってみせたり、ちょっとした茶目っ気も魅せる。

これまで聴いていなかったのだが、今回、この記事を書くにあたって2006年のメジャーデビューアルバム "Canvas" を聴いてみた。

流麗でメリハリのあるソロで正統派ジャズを聴かせる素晴らしいアルバムだと思う。サックスが加わったタイトル曲 "Canvas"はとても気に入った。不思議な感覚のメロディーと和声を感じさせるテーマが印象的だ。

エレピを弾くハービーハンコックの名曲 "Riot"もいい。こちらもサックスのソロもかっこよく楽しめる。このようなスタンダードの曲を聴くと他の人と違った感覚を感じるように思う。そういえば、全編、よく聴いているうちに「あれ、この人どこかちょっと違うぞ」と感じるところがないだろうか。

コーラスが加わり抒情的な7曲目 "Chant"、10曲目 "I Remember" がその後のグラスパーの音楽への展開を暗示しているような楽曲に思えて面白い。

さて、私が初めて聴いたのは、グラミーのR&B部門で最優秀アルバム賞を獲得した 2012年リリースの "Black Radio"だった。

ハービーハンコックが "Future Shock" で切り開いた境地を、現代的に収めて綺麗に落ち着かせた感じ、といったら、かなり失礼な言い方になるかもしれないが、私の受けた最初の印象だった。それが聴いているうちにじわじわと良さが染み込んでくる。

上の Rolling Stone の記事によれば、全ての曲が生演奏、ほとんどの曲がワンテイクで収録されたらしい。そう聞くと耳を疑って驚く人が多いだろう。


2曲目の "Afro Blue" が気に入ってよく聴いた。落ち着いた声が印象的な女性ボーカルは Erykah Badu。

2013年の International Jazz Day で、テリ・リン・キャリントン (ds) やエスペランザ・スポールディング (vo)という私が大ファンの二人を迎えての演奏を動画で視聴できる。フルートの音色も合っていていいアレンジだ。


2022年に "Black Radio III" がリリースされている。Wikipedia (Black Radio III - Wikipedia) によれば、商業的にはイマイチだったらしいが、評価は高く、グラミーのR&B ベストアルバムを受賞している、

多くのゲストミュージシャンがクレジットされているが私には馴染みがない人・グループばかりだ。とはいえ、Black Radio シリーズのテイストで高い完成度の仕上がりだと思う。

Q-Tipとエスペランザ・スポールディングが参加している4曲目は、マシンぽい感じとエスペランザ・スポールディングの張りのあって浮遊感ある声が、他とすこし違う雰囲気を醸していると思う。オリジナルの楽曲の中で急に懐かしいメロディーが流れてきたと思ったら 7曲目 "Everybody Wants To Rule the World" ティアーズ・フォー・フィアーズの1985年のヒット曲だ。

ジェニファー・ハドソン (*1) をボーカルに迎えた11曲目 "Out of My Hands" はソウルフルな声がリズムにのって楽しく聴ける佳曲だ。


あまりしっかり聴けていないのだが、なかでも2曲目の "Black Superhero"が今のところ気に入っている。


このアルバムもいつものロバート・グラスパーという感じがしないでもなくあまり変化がないように思うかもしれない。聴いているうちに少しづつ染み込んでくるのだろう。そして、気が付くと、いつの間にか新しい境地に立っている、そんな洗練されたミュージシャンだと思う。


■注記

(*1) ジェニファー・ハドソン、まったく私としたことが知らなかったのだが、スプリームスをモデルにした映画「ドリーム・ガール」でエフィ・ホワイト役、2021年の映画「リスペクト」でアレサ・フランクリン役を務めたという実力派だ。



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