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スペイン風邪

「スペイン風邪」という言葉には子供の頃からなじみがあった。祖父がそれに罹り倒れたと聞いているからだ。部落では食えず、祖父は神戸に出稼ぎに行っていたそうだ。その神戸でスペイン風邪にかかり倒れた。仕事先から電報を受けた曾祖父が引き取りに行った。出稼ぎせざるを得ない階層の人間は、病に倒れれば満足な医療を受けることもなく引き取りを強いられる。それが祖父や曾祖父の生きた世界だ。いまなら神戸から在所までは山陽本線ー姫新線という鉄道を使う。だがその当時はまだすべてが開通していなかった。曾祖父は神戸から姫路まで汽車を使い、その先は病に倒れた祖父を背負い歩いて家まで連れて帰ったそうだ。地図で測ると現在の道路でおよそ80キロ。当時はどのようなルートだったのか。50歳くらいの年齢になっていた曾祖父が20歳ほどの祖父を背負い、何日をかけて歩いたのか。いまとなっては知ることもできない。

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