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春を始めるのに最良の日

こんなふうに暖かくて青空の日には、決まって走り出したくなる。
長い冬を越えて、ようやく出会えた春を両手いっぱいに受け止めたくなる。

わたしの育った町は、曇り空が多い。閉鎖的でずっと居心地が悪かった。
だから、わたしは晴れた春の日が好き。毎日続く雪の日を耐えていたから。分厚いコートなんていらないから。パステルカラーが許される季節だから。花粉は飛んでも、大嫌いな虫はまだ飛ばないから。花粉症のお父さんの機嫌は悪かったけど、そんなこと関係ない。わたしはあの町にいたころから、晴れた春の日が好きだった。

10年前、大学に行けると決まった春。
ようやくわたしの長い冬が終わりを迎えると、ようやく自由になれると心底喜んだ。ずっと耐えていた。ついに、わたしはわたしが行きたい場所に行ける。東京に行って、やりたいことをやって、自由になる。
18歳のわたしは自由になれると、本気で思っていた。

でも違った。

東京に行くことだけが目標だったわたしは、その後のやりたいことがいまいち具体的に描けなかった。将来なりたい職業を聞かれても、バカにされないようにといつもその場しのぎ。それでも現状には満足できないことが多くて、なのに大抵のシーンで一歩踏み出す勇気を持てない。

あれから10年が経つ。
28歳のわたしは、やっぱり自分に嘘をつきたくない。自分がおかしいとわかっていることは、やりたくない。

だから、わたしは決めた。
ちょっとだけ、余計なことをしてみようって。せっかく春が来たんだから、柄に似合わず駆け出そうって小さな決意をする。春の風を受けたわたしは、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、自分の毎日を変えてみたいと思った。

だって今日は、春を始めるのに最良の日だから。

読んでもらえてうれしいです!とにかくありがとうと伝えたい!