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デザインは情報を伝達するもの

皆さんは一人の生活者として何かを選択する際にどのような基準で選んでいるのでしょう?生活者は、自分に関係がありそうなコトに反応します。好きなもの、楽しそうなこと、便利そうなもの、等々。しかしそういったモノは多かれ少なかれ競合となるモノが生活者の身の回りを取り囲んでいます。そんな中で貴方は何かを選んでいると思うのですが、そこには何らかの理由があり、その理由と製品のメッセージが重なっているからこその選択ではなかったでしょうか。もちろんブランドイメージというものも影響したでしょう。このブランドは○○に強いから信頼できる。とい言った具合に。

掃除機を例にしてみると

たとえば、掃除機を探しているとしましょう。どの程度吸うのかはモーターの性能で比較すればほとんど変わらないかもしれません。しかし「吸引力が変わらない、ただひとつの掃除機」というフレーズを耳にしたことがあると思いますが、このダイソンのブランドメッセージによってサイクロン式の掃除機の中での選択肢として優位なポジションを確保していることでしょう。(実際には国産の掃除機の方が吸引力は高いそうです)そして、そのフレーズを記憶している者にとってダイソンの掃除機のデザインがふさわしいものであるからこそ選択すると言うことですね。

ブランドの役割についてはここでは割愛しますが、ダイソンの掃除機を例にデザインの話を進めましょう。まず、ダイソンの掃除機を思い浮かべてください。ダイソンの掃除機には、サイクロン方式という吸入した空気とゴミを高速回転による遠心分離によって選別することで、従来の紙パックのようにゴミと空気を分離するフィルターを不要としています。その為フィルターが不要だから当然フィルターの目詰まりは起こらない=吸引力が変わらないという独自性の高い価値をもたらしている為、そのサイクロン方式の機構が外観上の特徴となっています。サイクロンそのものを見せて理解をしてもらおうというデザインですね。

メッセージを伝える役割

「サイクロン機構が見えるデザイン」→ 「吸引力が変わらない」という製品が伝えるメッセージに相関性があるからこそ(相関性を伝え続けてきたからこそ)ダイソンの掃除機を選択する。仮にダイソンの掃除機がこのサイクロン機構が見えないようなデザインになっていたら相関性が見えずに多くの購入者は他のものを選択したことでしょう。また、競合製品がことごとくダイソンの掃除機と同様の構成でサイクロン機構を視覚化している理由はサイクロンという記号を作ったのがダイソンであり、それを模倣する方が凌駕する構成を見つけ更にゼロから訴求するよりも効率的であるからと考えるべきでしょう。しかし、本物が欲しいと考える人にとって「サイクロン機構を発明したダイソン」というブランド資産は効果的に働きます。このようにブランドは何かを選択する際にその選択における多種多様な競合の中から意思決定を簡略化させ選択を容易にするものです。そして、デザインはその簡略化された意思決定要因に沿ったメッセージを伝える役割を担っています。

メッセージと生活者の価値観

もう少し踏み込んでデザインの話を続けると、ダイソンの掃除機を選択する生活者価値観の背景には、「先進性」「知的」「洗練」という優先度の高い志向が存在していると考えられます。ターゲットになりそうな生活者を軽くペルソナしてみると、ドイツ車(AudiかBMW)に乗り(又は好き)、デジタル機器に関心が高く新しいものは試したいたち。ハイブランド好きで、デザインに対する興味関心も高い。向上心、自己実現意欲が強く、優越感を感じることが好き。そして可処分所得が多い。ザッとこんな感じでしょうか。

そして彼ら&彼女ら向けのデザインには、先の「先進性」「知的」「洗練」を感じさせる必要があります。ダイソンの掃除機に話を戻して、これらを感じさせる為の因果関係を説明してみましょう。先ずそれぞれの言葉の定義ですが、「先進性」は「比較対象よりも進んでいる」としましょう。次に「知的」は、額面通り「賢そう」とします。最後に「洗練」について、「洗う」:余計なものを取り除くということ、「練る」:意図的に変化させ仕上げること、この二つを組み合わせから「余計なものを排除し仕上げること=垢抜けている」と定義しておきましょう。

キャラクター

さて、ざっくりとこの3つのイメージを組み合わせてみると、「他よりも進んでいて賢こそうで垢抜けている」となり、あるキャラクターが見えてきます。その為3つの言葉を単独で理解するよりもイメージがわいてくるのではないでしょうか?何でしたら、このキャラクターを有名人などにあてはめて連想してみると楽しいかもしれません。そしてこのキャラクターがデザインで伝えるべき重要な骨格となります。

キャラクターの中身

では次にこの骨格と言えるキャラクターを更に具体的に伝えるにはどうすれば良いのでしょうか?それには、3つの言葉の関係性を考える必要があります。「先進性」はこの言葉だけでは他者よりも進んでいれば良いという意味になります。仮に進みすぎた考え方であっても間違いではありません。次に「知的」の定義は賢そうでしたね。仮に「ガリ勉君」的な分厚いめがねをかけた賢さでも意味の範囲です。でもこの2つの掛け合わせで極端なキャラクター化を行うと「進みすぎた考え方をするガリ勉君」となります。なんか最初のキャラクターとイメージが違ってしまいましたね。という事は、これら2つの言葉を制御するためには、「洗練」がすごく効いているだろうと想像できます。「洗練された先進性」+「洗練された知的」という関係性だと考える必要がありそうです。そうです。ダイソンの掃除機は洗練されていないと成立しないことが想像できます。ダイソンの掃除機は、そのデザインによって洗練された印象を伝えなければならないのです。そして伝える為の手立ては、「洗練された先進性」と「洗練された知的(印象)」となります。

デザインで伝える為に言葉の意味を深掘りしてみる

では、「洗練された先進性」とは何でしょうか?そもそも先進性の要因はその技術などによって表現するものです。ダイソンの場合は、かつてはサイクロン機構であり現在は高効率なモーターユニットとなりそうです。現在でもサイクロンは、透明なダストボックスとセットで目につく形で製品に配置されています。そして、本来は目にすることがないハウジングの中で回っているモーターをCGにより可視化し映像で訴求しています。それぞれ本来は機構部品なのでスペックを伝えれば済む話ですが、機能的に進んでいることを印象づけるために先進性を想起させる色彩や演出を加えながら洗練されたデザインで伝えるという構図になっています。(先進性を感じさせる色彩や演出については後日どこかで記したいと思います。)

次に、「洗練された知的」については、「垢抜けた賢さ」となる分けですが、「垢抜けた賢さ」っていったいどうやってデザインで伝えれば良いのでしょうか?賢さは、先の先進性とも関係が深く、他者より賢いから進んでいるという見方も出来ますが、デザインだけで賢さを伝えるには限界があります。その為ここでは、賢さはネガティブチェック項目として考えます。言い換えると「バカに見えない」という事ですね。では、ダイソンの掃除機を使っている自分を想像してみてください。賢そうに見えるでしょうか?たぶん答えは「む〜ん」となることでしょう。ところが「バカには見えないでしょ」問うと「たしかにそうかも」となると思います。更に「垢抜けた」という言葉が紐付くことでガリ勉君という印象も回避することができます。

デザインを依頼するための入り口

このようなことから、もし、ダイソンの掃除機のデザインをデザイナーに依頼するとしたら、「競合よりも進んでいて賢そうで垢抜けている」ものにしてほしい。具体的には、競合よりも進んだ機能や技術を目立つように配し使う人の知的印象を損なわない様にし更に垢抜けた印象にして欲しい。となる事でしょう。

いかがでしょうか?ダイソンの掃除機のデザインを例にしましたが、3つの言葉によるキャラクターの再現をデザインで行うという構図が理解頂けたでしょうか?まず、たった3つの言葉を定義するだけでかなり具体的な依頼内容になっていると感じて頂ければ幸いです。実際の業務では、この3つの言葉に限ったわけではなく様々な言葉を使ってプロダクトを定義し更に下位のレイヤーまで細かく因果関係を設定するわけですが、先ずは入門編という事でこのあたりで終えたいと思います。

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