20220403

 頭にめぐった順に書いていくので、はっきりと結論めいたものが出るわけではないのですが。

 エイプリルフールの件、投稿を見た瞬間に「これはあまりに迂闊なのでは」と感じて、ただ、そう考えた瞬間の己の思考を省みたとき、当人たちの性的指向を外側から勝手に推測・断定し、そのうえで意図まで勇み足で読み取ろうとしていないか?ということも考えないわけにはいかず。

 仮にマイノリティを公言している立場からなされた発信の場合、現在の社会制度に対するカウンターにだってなりうると思いますが、さりとて既存の環境に何かしら抵抗やオルタナティブを示したいときに、自らの属性を必ず表明しなければならないということもないわけで。

 また、乃木坂46のように、ことにメンバー同士の強い愛着を日常的に体現してきた人たちの振る舞いから、少なくとも自分が受け取ってきたのは、他者との結びつきのありようの豊かさでした。明確に性愛とも友愛ともカテゴライズしてもしなくてもよい、しかし強力な紐帯やパートナーシップはいくらでもありうるのだ、あってよいのだということを確認できていた、そういう想像力をもらっていた、と思います。この豊かさはおそらく、「百合営業/BL営業」といった、ときにぞんざいに投げかけられるような言葉からはこぼれ落ちてしまう、しかし重要なものであると考えます。それを考えれば、そもそも結婚という制度が性愛を介した結びつきによってのみ成されるという前提もまた、あまりに狭いだろうとも思います(件の投稿は直接「結婚」という文言を使用してはいないので、これは投稿から派生的に論点にしうる話としてですが)。

 もちろん、そうした日々の振る舞いが多くの他者の目に触れ、際限なく解釈されてゆくことにもまた、当事者たちが無自覚なわけはなく。生田絵梨花さんがグループを卒業する際のメモリアルブックのなかで、まさに秋元真夏さんとの対談中に示していたのは、二人のパーソナルな関係や愛情表現が、コンテンツとして「見せるためのエンターテインメント」化していくことについての違和感ないしは葛藤でした。

 その一方で、アイドルというジャンルは、当事者の性的交渉やパートナーシップに対する禁忌のような価値観を、歪に温存してきた側面を持っています。今日でこそジャンル内からの問い直しがなされることもありますが、パートナーの「発覚」をペナルティに結びつけるような慣習や、それをごく当たり前に是とする振る舞いは総体としていまだ再生産されている。そのような抑圧のもとに置かれた当事者であるアイドルたちを、ことパートナーシップにまつわる事象や表現の発露において、無邪気なマジョリティのように前提していいとも思いません。

 しかし、エイプリルフールという体裁をとって先の投稿をすることで、どのようなメッセージを発しているようにみえるか、について送り手側は無自覚であったのではないかと思いますし(そうした自覚の有無とて外部からみた一個人の推測ですが)、投稿に対してなされている異議申し立ての意味を、送り手も既存のファンダムも軽視すべきでないと強く思います。疑念が投げかけられている論点を受け止めずに無理筋の擁護をすることは、問いを投じた人の人格を軽んじるばかりでなく、演者のイメージに関してネガティブな効果さえ生み、相互の理解からは最も遠いところに行ってしまう。SNS上で、ファンによる、そうしたディスコミュニケーションを感じる投稿が目に入るのも事実です。また、先に記したようなアイドルの性的交渉、パートナーシップへの禁忌(それ自体がきわめて深刻な抑圧なわけですが)が、ほとんど異性間の関係についてのみ取り沙汰されてきたことを考えれば、外側から見たアイドルが「ヘテロセクシズムを体現してきたマジョリティ」としてイメージされることもまた、想像しやすい。これは本件に限らずですが、アイドルシーンが慢性的にかかえてきた歪みや無頓着を、社会との決定的な乖離につなげてしまうのかどうかは、送り手・受け手双方の挙動にかかっています。

 とはいえ――、
 冒頭から書いてきたような諸々に考えをめぐらせるとき、先の投稿について明快で歯切れのいいことを言うのは難しいというのが私の率直な現在地ですし、たとえば本件を扱ったハフポストの記事はそれらの複雑さや可能性を捨象してしまっているように感じ、少なからず違和感を覚えもしました。とはいえ、乃木坂46を見続け、文章を書き続けている己の、視点の偏りの如何を、私自身がどれほど俯瞰的に自覚できているものなのかも、やはり心許ない。そんな整理しきれなさを抱えているのが正直なところです。少なくとも各々が、安易に位置づけたり居直ったりすることで、他者との断絶の契機にしてしまうことや、殻に閉じこもる理由づけにしてしまうことだけは、やってはいけないだろうと思います。

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