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【コラム】中国で流行中の新ジャンル! マーダー・ミステリー・ゲームとは

はじめに

最近、中国では「謀殺之謎(Murder Mystery Game、マーダー・ミステリー・ゲーム)」というジャンルのゲームが流行っている。あらかじめ殺人事件などのミステリーのシナリオが決められており、プレーヤーが登場人物を演じて犯人を見つける(犯人役の場合は逃げ切る)ことを主な目的とするゲームだ。雰囲気を演出するため、プレーヤーが各キャラに合わせた衣装を着用したり、会場をシナリオに合わせて飾り付けたりすることもある。

シナリオが決まっているため、各タイトルを一生に一度しかプレーできないのが特徴だ。ボードゲーム、TRPG、LARPとはそれぞれ類似する点がありながらも異なるゲームジャンルであるといえる。他のプレーヤーと協力して推理するという点ではリアル脱出ゲームのような体験にも近い。

中国のマーダー・ミステリー

このジャンルのゲームの起源は19~20世紀の欧米だそうだ。それが中国で流行るきっかけとなったのは、私の観測ではアスモデ(Asmodee)から2001年に出版された『Death Wears White』というマーダー・ミステリー・ゲームがネット掲示板「百度貼吧」で話題になったことだ。私が検索したところ最古の『Death Wears White』関連スレは2013年に立てられており、2015年には「謀殺之謎」という言葉が登場している(「百度貼吧」の検索はあまり精度がよくないので、もっと古いものがあるかもしれない)。

2016年ごろにはボードゲーム業界大手のヨカゲームズ(遊卡卓遊、Yoka Games)が参入して「謀殺之謎」シリーズを展開し、その他の小規模パブリッシャーもこのジャンルのゲームを手掛け始めるなど、すでに一つのジャンルとして確立された感がある。2017年12月にはヨカゲームズが初のマーダー・ミステリー専門イベント「MIST」を開催した。

マーダー・ミステリーの二大タイプ

私もマーダー・ミステリー・ゲームに詳しいわけではないのだが、このジャンルのゲームは大まかに二タイプに分けられるようだ。

一つはクローズド型(あるいはscripted)と呼ばれるもので、このタイプのゲームでは各プレーヤーのセリフ、質問のタイミングと対象、動作などがあらかじめ台本のようにある程度規定されている。流れが固定されているため、ゲームが破綻する心配が少ない一方で、自由度は少ない。

もう一つのタイプはオープン型(あるいはinteractive)と呼ばれる。このタイプのゲームでは、各キャラクターに個別の設定が用意されており、そのキャラを演じるプレーヤーだけがそのキャラの設定を事前に知っている。誰に質問をするか、自分の知っている情報をどれだけ公開するかなどが各プレーヤーに委ねられており、自由度が高いが、プレーヤーの行動によってはゲームを破綻させてしまうリスクもある。また、このタイプのゲームでは、「犯人を見つける」(または「他のプレーヤーから逃げ切る」)という共通目標のほかに、各キャラの個別目標が定められていることが多いようだ。

このほか、ボードゲームのように特殊なメカニズムが採用されているものもあり、タイトルによってルールは若干異なる。

欧米では……

欧米では、「ディナーパーティー」という形式でマーダー・ミステリー・ゲームを楽しむことがあるらしい。夕食を取りながら他の参加者と交流し、犯人を捜すのだ。さらには、レストランなどを会場として俳優に主要キャラを演じさせ、他の参加者が推理をするという、参加型の演劇のような大規模な形式もあるそうだ。

Googleで「murder mystery game」のキーワードで検索すると上位に出てくるイギリスのショップ「Murder Mystery Games」では、シナリオの購入ページに「俳優を雇う」というオプションがあり、希望するなら会場の手配も行ってくれる。これがどの程度一般的なのかはわからないが、文化として一定程度根付いていることが推察できる。

日本でプレーするには

日本では、LARPサークルの「マスカレイド」がオリジナルのシナリオを用意し、マーダー・ミステリー・ゲームをプレーする会を東京で随時開催している。日本語のマーダー・ミステリーのシナリオはおそらくまだ販売されていないため、やってみたいという方はこのようなイベントに参加するのが一番手軽だろう。

海外で販売されているシナリオを購入するという手もあるが、ゲームの性質上、テキストの理解が重要であることを考えると、参加者が非常に限られてしまう。非公開情報となるテキストがほとんどなので、翻訳すると訳者がプレーヤーに回ることができないというのも悩ましい。

なお、私も先日、東京で友人主体で集まって中国のタイトル『王府百年』をプレーする会を開催した

※2019/4/22追記
現在、東京のゲームカフェ「ディアシュピール」が『王府百年』を体験できるイベントを定期的に開催している

おわりに

マーダー・ミステリー・ゲームというジャンルはまだ日本ではなじみが薄いが、日本でも流行る素地はあるのではないかと思う。その理由の一つが、『パンデミック:レガシー』や『T.I.M.E ストーリーズ』が話題になったことで遊び切りのゲームがある程度認知されていること、もう一つが、リアル脱出ゲームのような体験型のアクティビティーが人気を博していることだ。人気がある程度広がれば、日本語のオリジナルシナリオも生まれていくだろう。

先日の『王府百年』の会で感じたのは、シナリオ主体のゲームジャンルであるだけに、柔軟性があるので、さまざまな可能性がありそうだということだ。ファンタジーやホラーなど、ミステリーにとどまらないシナリオを開発することも可能であろうし、そうすることで異なる層にアピールできる。

『王府百年』については私が個人的にテキストを日本語化しており、コンポーネントも手元にあるので、今後も希望者にプレーしていただく機会を作っていきたいと思っている。やってみたいという方はぜひご一報いただきたい。固定ファンが増えたら、別のタイトルも日本語化して定期的にマーダー・ミステリー・ゲーム会を開催したい。

※2019/6/24
具体的な流れを紹介する記事を書きました。



ノートに「スキ」をしていただくと、あるボードゲームの中国語タイトルと、それに対応する日本語タイトルが表示されます。全10種類。君の好きなあのゲームはあるかな?