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【押川剛;50歳からのキャンパスライフ】5 大切なことは「勇気づけ」

先週は、長期ひきこもりに関するメディアからの問い合わせが相次ぎ、大学の講義を幾つか休んでしまった。何が辛いって、一回授業を休むと、宿題や次の予習の範囲が分からなくなる。まだ友達の少ない俺は、教えてもらえるネットワークも構築できてない。昔と違って今の大学は、予習や宿題をしっかりやらないと単位がもらえない講義も多いので、「孤独」は死活問題である。これを読んでいる同級生で、「連絡係になってもいい」という方は、今度ぜひ声をかけてください。お友達になりましょう(笑)。

さて、前期も半ばを過ぎ、受けている講義の中でも「面白い」と「面白くない」が明確に別れてきた。今のところ俺の中で1、2位を争う「面白い」は、「メンタル・ヘルス」だ。心理学の先生の講義なのだが、本当に勉強になる。

先週の授業では「子供への勇気づけ」について語られていた。ざっくり言うと、【学童期に勇気づけを行われた子供は、責任感や「誰かのために」という気持ちを持てるようになる】。また、【勇気づけされずに育つと、それらが欠如した大人になるが、「勇気づけ」をしてくれる人に出会えると、社会適合して生きていける】という話だった。

子供は、褒める、叱るでもなく「勇気づける」ことが大事なのだ。

この「勇気づけ」について、俺なりにいろいろ考えてみた。これまで若い人の更生に携わってきた経験を振り返っても、「勇気づけ」は非常に重要なポイントだ。俺が携わってきた若者の大半は、心の病気を患うか、犯罪に手を染めていた。そしてその背景には、例外なく複雑な親子関係、家族関係があった。

自立支援とは、病気の治療、犯罪からの更正、そして就学や就労など社会復帰を支えることだが、並行して「家族とは距離をおいて生きる」ことが必須だった。家族(親)といることで、人生がおかしな方向に進んでいるのだから当たり前だ。しかし自立できていない人物(とくに若い人)にとって、親は絶対的な命綱でもある。

親という命綱なしに生きるためには、「自分を知る」ことからはじめなければならない。家族の歴史を振り返り、自分を受け入れる。身の丈にあった、無理をしなくていい生活スタイルを見つける。就学や就労に必要なスキルだけでなく、第三者とのコミュニケーションのとり方なども学んでいく。

つまり、その子供(若者)の過去から未来までを長い目で見た上で、社会にコミットして生きていく力をつけてあげることが、俺の役目だった。もちろんひとは一人では生きていけないから、適切なサポートを見つけてつなげることもある。「どこかに就職できたからOK」ということでは、決してない。これはなかなかに難しいことである。

いっぽうで最近は、社会全体が「勇気づけ」から程遠くなりつつある。たとえば学校や職場でも、励ましや勇気づけのつもりで発した言葉が、シチュエーションによっては「ハラスメント」と言われてしまう。言葉狩りが怖いから、「本人の自由」「自己責任」として、誰もが口をつぐんでいる。

これは、昨今のひきこもりの問題を見ていても思う。初期や中期の段階であれば、寄り添う、見守ることが、その人を勇気づけることにもなるだろう。しかし、それでも事態が変わらなかった場合に、「そのままでいいんだよ」という言葉が、社会参加への勇気づけとなりうるだろうか。

子供に対する勇気づけがゆるされるのは、もはや親だけになりつつある。

余談ではあるが、俺の友人・知人で、「この人、いつもいい空気だすな」「会うと元気をもらえるな」という人は、幼少期からスポーツをやっていて、なおかつ結構なレベル(全国上位クラス)に達している人が多い。今までは単純に、「スポーツをやってきた人は気合いが違うな」くらいに思っていたのだが、勇気づけの話を聞いて、納得がいくものがあった。

スポーツは基本的に「勝ち負け」の世界である。指導者も選手も、勝つためにどうするかを徹底して考え、実行する。とくに最近は、科学的な根拠に基づき、フィジカル・メンタル双方のトレーニングが行われている。勝てば絶対の自信になるし、負けたら負けたで、次にどう挽回するかの策を練り、修正していく。

これは、実は最強の「勇気づけ」ではないだろうか。スポーツで一定の結果を出した人が、引退後も多方面にわたり活躍する姿をよく目にするが、これは必然のことなのだろう(もちろん、スポーツをやれば誰しもが成功するというわけではないのだが)。

俺が「勇気づけ」と聞いて思い浮かべることの一つに「応援」がある。スポーツ絡みで言えば、高校時代に、同級生が剣道日本一を賭けた試合に出たときには、それこそ死ぬ気で応援した。そして応援に応えてくれた(日本一になった)とき、素直に「ありがとう!」と思った。その清々しさは今もよく覚えている。

子供や若者に対する「勇気づけ」が難しくある時代に、自分の仕事においても、「勇気づけ」という観点から何ができるのか、あらためて考えてみたいと思った。

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