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【押川剛;50歳からのキャンパスライフ】6 殺伐とした子育て

新潟、山形で大きな地震がありました。被害にあわれた方々の一日も早い回復、復興を願います。予断を許さない状況ですが、これ以上被害が広がらないことを祈ります。

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少し前の話になるが、数名の学生ちゃんから家族についての相談を受けた。みんな、『「子供を殺してください」という親たち』を読んでくれていて、「実はうちも…」となったらしい。

中には、「押川さんの漫画に出てくる親は、お金を払って押川さんに頼んでいるんだから、まだいい方ですよ」などという学生もいた。

彼らの家庭環境で共通しているのは、親子関係がとにかく殺伐としている。「いつも親の機嫌が悪い」「いきなりキレて殴られたり、物を投げつけられたりなんて、しょっちゅう」「自分に対する扱いはペット以下」などと言う。

母子家庭の子も多くて、親の年齢を聞いてみると、だいたい40代だ。両親とも大卒など学歴が高いのも特徴である。しかしこの世代はちょうど就職氷河期で、学歴があっても仕事にめぐまれず、経済的にも苦しい思いをするなど、不遇な世代でもある。俺の知っている40代も、「我慢」や「諦め」が身についてしまっているひとが多い。

いきばのない不満や憤りが、子供の前でも出てしまうのかもしれない。

しかしそうやって育てられた子供たちは、そろって親に対する憎しみを抱えている。「きっかけ次第で、自分も親を殺すかもしれない」と言う。だから大学入学を機に一人暮らしを始め、実家には寄りつかないようにしている、という学生もいた。まだ実家暮らしの友達の中には、音信不通のひきこもり状態になっている子もいるという。

学生たちは皆、言葉遣いなど最低限の礼儀をわきまえているし、見た目もこぎれいにしている。スマホを駆使して、とてもスマートに人付き合いをする。だけど根底のところでは、人と深く関わったり、本音を言い合ったりすることを恐れている。そこに、バランスの悪さを感じる。

先日、京都・向日市で女性の遺体が見つかり、死体遺棄の疑いで、交際相手の男(55)と、向日市役所の職員(29)が逮捕されるという事件があった。男は生活保護を受けており、市役所職員は担当ケースワーカーだった。職員は、男から前科があることを聞かされて恐怖心を抱き、ふだんから買い物の命令に従うなど、従属関係にあったとされている。

逮捕の市職員 従属的関係か 粘着テープ巻かれた女性遺体
 京都・向日市のアパートで、「2階の部屋から異臭がする」との通報を受け、11日に警察が駆けつけると、白のシートでくるまれ、その上から粘着テープが巻かれた女性の遺体が見つかった。
 この事件で逮捕されたのは、向日市役所の職員・余根田渉容疑者(29)と職業不詳の橋本貴彦容疑者(55)。
 2人は、女性の遺体を、橋本容疑者の住むアパートの駐車場に遺棄した疑いが持たれている。
 余根田容疑者は、市役所で生活保護を扱う部署に在籍するケースワーカーで、橋本容疑者を担当。
 警察によると、何らかの理由から、橋本容疑者に対し、従属的な関係があった可能性もあるとみられている。
引用:FNNニュース 2019/6/12

この職員がどういうふうに育ってきたのかは分からないが、このニュースを見たとき、俺に相談をしてきた学生たちを思い浮かべ、「他人事ではない」と思った。

親からその存在、その命を尊重されずに育てば、自尊感情も育まれない。「自分はこうだ」という確固たる考え、意見ももてなくなる。善悪の区別はついていても、悪い奴にひっかかれば、簡単に犯罪に巻き込まれてしまう。

学生のうちは、人の間で揉まれることを避ける生き方もできるが、社会に出ればそうはいかない。腹黒さを隠して近づいてくる奴もいれば、心の弱い人間を見抜くのがうまい奴もいる。

トラブルに巻き込まれたときに、「これはヤバい」とアンテナが立つか。相手をきっぱり拒絶したり、SOSを発したりできるか(警察に相談することを「ハードルが高い」と言う若者は少なくない)。その辺りの危機管理能力は、家庭環境と無縁ではないように思う。

京都の事件では、職員が担当替えを職場に訴えていたという報道もあった。職場がそのSOSをキャッチし、真摯に受け止められていたら……と思う。殺伐とした家庭環境で育ってきた若者は、表面のコミュニケーションや繕いが上手な分、「困っている」ことも含め、本心が見えづらい。

せめて自分の近くにいる若者に対しては、丁寧に話を聞き、見守ることが大人の役目だ。俺も心していこう。

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