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酒田市のデジタルテクノロジーを用いたリビングラボの取組を視察しました①(デザイン思考の行政)。

  1月17日、山形県酒田市で、同市の「デジタルテクノロジーを用いたリビングラボ」の取組を視察しました。ご協力いただきました酒田市議会事務局、デジタル変革戦略室の皆様、大変ありがとうございました。今回は、リビングラボの内容について報告します(写真、図画はことわりがないものは酒田市HPより)。

デジタル戦略監、じきじきのレクチャー、有難うございます

①視察の理由:
 ふじみ野市では、常々、現役世代や若い方の意見を聞く、集める施策がないと考えていましたが、酒田市は、リビングラボという方法で、若者の本音の聞取りを行いました。しかも、課題解決には、デジタルテクノロジーを用いる、とのこと。「若い方×デジタル」二重の意味で視察が必要と考えました。
※リビングラボ(Living Lab)とは、まちの主役である住民が主体となって、暮らしを豊かにするためのサービスやモノを生みだしたり、より良いものにしていく活動です。世界では、欧州を中心に約400カ所のリビングラボが活動しており、近年日本でも注目されている地域・社会活動です(鎌倉市HPより)。

②所感:
 リビングラボもそうですが、酒田市は、それ以前の「元気みらいワークショップ」の開催など、若い方の意見を聞く仕組みがすばらしい。ふじみ野市において、こうした取組みはほとんどありません。若い方、現役世代は他の自治体地域で働き、学んでいる方が多く、現在の情報で比較考察ができる方ですので、若い方、現役世代の人々の意見を参考にし、組み入れることは今後の市政に必要不可欠と考えます。
 あらためてリビングラボのメリットを述べると、「行政が気づいていな い課題が明らかになり、またその重要度もわかる」ことです。自治体では市民アンケートを定期的に行いますが、これは解答が選択式であり、自由な記述や説明の方式がとられていないことがほとんどです。リビングラボは、自由な発言を通じて、行政が気づいていない課題とその重要度が明らかになることが期待できます。
 また、課題の解決を行政側だけで解決しようとしても、人材不足、コスト、前例踏襲主義、内部の反対意見などで、なかなか進めることが難しい場合があります。リビングラボでは、市民や企業などの力を借りるので、上に挙げたような困難を克服することが可能となります。
 市民にとっても大きなメリットとなります。声を上げる機会がなかった。取り上げられる機会がなかった市民が、リビングラボの機会で、意見を表明し、また、同様の意見を持つ参加者や市民の賛同を得ることができます。リビングラボがきっかけで、市民の間の交流が生まれ、市民グループが生じることが期待されます。ふじみ野市のように、地域の課題を対象にした市民グループ、特に若い方や現役世代のグループが非常に少ない自治体で、リビングラボを行う意義は非常に大きいと考えます。
 また、企業にとっても、ユーザーとの関係性が深くなり、潜在的なニースを把握することが期待できます。リサーチの効率も従来型のものと比べ、向上することが期待できます。
 デメリット、あるいは困難な点は、「市民(参加者)の意見がまとまらないことがある」「市民から取組むべき課題が出てこないことがある」「継続的に参加できない市民がいる」「企業が開発するサービスについては情報の保持が必要」などがあります。これらからは、参加者には、高い意識を持った市民が求められるということがわかります。ある程度、こうした市民の参加を保証する事前の取組が必要となります。ファシリテーターという司会、まとめ役の能力も重要ですね。
 国内のリビングラボの先例を見ると、神奈川県鎌倉市の例が挙げられます。ほかには、横浜市や日野市も。。ここでの課題は、高齢者が多く住む地域で、「若い方に魅力ある地域にしたい」とのテーマで、「テレワークで使う家具を作る」というものでしたが、地元のまちづくり関係のNPO法人が参加しており、上に挙げたような議論における困難点の克服に貢献したと考えられます。鎌倉のようなまちづくり関係の有識者グループは、ふじみ野市においては存在していませんが、リビングラボのような取組みから、そうしたグループが生じることが期待されますね。(私も数回、まちの活性化の勉強会を行いましたが、参加者の商店会の幹部の方は、別の政党から市議会議員に立候補されました。高松、流山、明石、日南の例をレクチャーしましたが、参考になったのでしょうか。。)
(デザイン思考とリビングラボ)
 行政・自治体の施策・サービスにおいて、いわゆる「デザイン思考」が取られることは少ないです。デザイン思考とは、共感、問題定義、創造、プロトタイプ、テスト、という5つの段階を経るとされます。

デザイン思考のセミナー:2020年、酒田の産業振興組織「サンロク」で


 酒田リビングラボで取られているプロセスは、①立ち上げ、②調査・課題発見、③解決アイデア作成と評価、④プロトタイプ前期、⑤サービス&ビジネスモデル検証、⑥プロトタイプ後期、⑦開発、ですが、このうち、②調査・課題発見は、「共感、問題定義」、③解決アイデア作成と評価は、「創造」、④プロトタイプ前期は、「プロトタイプ」、⑤サービス&ビジネスモデル検証は、「テスト」に符合します。
 つまり、リビングラボは、デザイン思考を用いた行政サービスの開発であります。デザイン思考とは、「創造的問題解決」と称されます。取組むべき問題自体は、最初から明確にはなっていませんが、その問題は潜在課題であるため、顧客(自治体では住民)も、問題をうまく表現(言語化)できないケースがほとんどです。潜在課題である問題については、ふじみ野市を含む自治体では、新規転入住民、自治体と関わりがない大都市への通勤・通学者、外国人などが抱えていると想定されます。リビングラボでは、こうした人々の本音(インサイト)を発見し、共感し、問題をサービス開発者側で定義することになります。このような創造的問題解決の手法は、自治体では取られることがほとんどありませんでした。しかし、ふじみ野市は、まさしく新規転入住民、自治体と関わりがない大都市への通勤・通学者、外国人が増加し続けているまちであり、リビングラボのような課題発見の手法の必要性は非常に高いと言えます。
 また、問題は比較的明確であっても、政策順位や少数などの理由で、意見や要望が施策に取り入れられない人々とその問題が存在します。例えば、ひとり親への支援、ひきこもり家庭への対応、ふじみ野市においては都市の景観など環境関連の問題もそうでしょう。リビングラボに含まれるデザイン思考による問題への取組は、現在の本市の課題発見に欠けている手法であり、取り残された行政課題を解消する手法でもあります。

③視察内容:
 本間義紀デジタル変革戦略室デジタル戦略監より、「酒田リビングラボ」
の取組について教えていただいた。
(市民参画型の地域社会改善)市民参画には、①行政が市民に地域課題を提示し、意見をもらい、事業計画に反映し実現する、②市民発で課題とその解決策を議論し、行政が実現、又は実現に向けた支援を行う、の二つの方法があり、両方をバランスよく動かしていく必要がある。
 リビングラボは、上の②の方法である。一般的なリビングラボは、社会課題を住民と企業等の提供者が一緒になって生活環境で実験し、この共創と実装と評価と改善から、新しいサービスや商品を生み出す一連の活動を指す。一方、酒田リビングラボは、上の一般的な方法に「デジタルテクノロジー」という観点を追加し、デジタルでの課題解決をめざす取組である。
 実際の進め方については、プロトタイプ作成やその検証に重点を置いたプロセスがとられる。プロセスは、①立ち上げ、②調査・課題発見、③解決アイデア作成と評価、④プロトタイプ前期、⑤サービス&ビジネスモデル検証、⑥プロトタイプ後期、⑦開発、の段階を経ることになる。いわゆるサービスデザイン思考がプロセスに入ってくる(後述)。
 リビングラボは、「酒田デジタル変革戦略」(2020年~)の3つの柱「住民サービスのデジタル変革」「行政のデジタル変革」「地域のデジタル変革」のうち、「地域のデジタル変革」に基づいて行われるもので、ここで生まれたサービスは、「民間が提供するサービス(商品)」として世の中に出してもらいたいという理念がある。
 
①   酒田リビングラボの立ち上げ
 まず、実施方法の検討として、先行事例の調査(横浜市、鎌倉市、日野市など)を行った。また、目的の整理、各団体との連携の可能性の検討、広報方法の検討を行った。広報戦略検討時には、カスタマージャーニーマップを作成した。
 次にリビングラボ「パイロット版」を、2021年10月28日に実施した。出た意見の内容を精査し、傾向を分析した。そして、運営部隊を立ち上げた。運営メンバーにあるとよいスキルを整理した。運営メンバーは、酒田市から2名、NTTデータ経営研究所から2名(プロジェクトマネージャーレベル、ファシリテーター)、サービスデザイナー担当の方。
②   調査・課題発見
 まず、取組むテーマを検討した。市民アンケートでの課題を分析した。コアメンバーで、テーマを「若者がより活躍しやすくなる」とした。そして、課題抽出ワークショップを2022年10月に、2回実施し、「酒田の課題」と「望む未来像」を出してもらった。ワークショップの内容を公開した。ここでは、
「活動を助けてくれる同世代とつながれない」
「従来の地域活動の枠組みは若者には参加しづらい」
「生活上の悩みについて他者と交流、相談するのが難しい」
「若者はチャレンジしたいと思っているが上の世代は理解をしてくれない」
「自分のライフスタイルと土地の特性が合わない」
などの課題が抽出された。



「望む未来像」として、
「リモートワークをしながら自然を感じる生活がしたい。世代間交流でき る居場所を作りたい」
「ワークとライフのバランスが取れた暮らしをしたい。収入より、社会貢献など他者の喜ぶことに力を入れたい」
 「家や食材など自分で作る自給自足の生活をして、逞しく生きたい」
 「人に巻き込まれながら地域活動をし、地元の魅力を伝えたい」
などが出された。
 ③   解決アイデアの作成と評価
 上で出た課題の解決方法について、ワークショップを2023年1月に開催し、抽出した。デジタルでの課題解決を意識してIT事業者に参加してもらった。IT事業者は地元ではなかなか見つからなかった。これは地方のIT事業者は、大都市のIT事業者の下請け業務がほとんどで、自らサービス開発できる人材が少ないためである。IT事業者は「やまがたDXコミュニティ」を通して募集した。「やまがたDXコミュニティ」は酒田市が中心になり、市内外の企業、団体などと設立した、地域事業者のDX化、DX人材育成を行うプラットフォーム。

やまがたDXコミュニティ


 アイデアの共通点を分析し、3つのコンセプトに整理、コンセプトペーパーを作成した。ペーパーを基に使いたいかを聞くアンケート(webフォーム)、インタビューを実施した。結果をコンセプトペーパーにフィードバックした(内容は非公開)。
④   プロトタイプ前期
 IT事業者にノーコードツールのプロトタイプの作成を依頼した。内容は、3つのコンセプトから選んだもの。プロトタイプ受領の際に、サービス化意欲を確認した。
⑤   サービス&ビジネスモデル検証
 プロトタイプ作成事業者にサービス化した際の課題抽出を依頼した。リビングラボの目的と事業者の目的の合わせと役割分担を行った。秘密保持契約を整理した。市民へのアンケート(webフォーム)を行った。サービスモデル評価のワークショップを2023年9月に開催し、「新たなデジタルサービス」(内容は非公開)の試作品をスマートフォンから市民に触ってもらい、サービスを確認した。
⑥   プロトタイプ後期及び⑦開発
 アンケートで取得したメイン以外の欲しい機能の検討と追加を行った。ワークショップで行ったユーザーテストの評価を行い、プロトタイプにフィードバックした。現在は、最終段階、サービス化に向けた開発の過程にある。今後は、サービスモデル評価のワークショップを、評価観点を変えて実施する予定。
(質疑応答)
(質問)「リビングラボ以前の若い方の課題解決対応は」。(回答)「平成28~30年度まで、「元気みらいワークショップ」として、若者や現役世代が抱える課題解決のためのワークショップを開催、令和元年度は連携協定を結んでいる酒田南高校の生徒を対象とした地域課題解決ワークショップを実施し、市政に反映してきた。

元気みらいワークショップで、地元について議論している酒田の高校生


(質問)「リビングラボに取組んだ経緯は」。(回答)「酒田市デジタル変革戦略(令和3年3月策定)」の3本柱の一つである「地域のデジタル変革」を推進する手段として、市民が自分たちで地域課題をデジタル技術で解決する仕組みを構築する方針を示した。酒田市デジタル変革は、酒田市、NTTデータ、NTT東日本、東北公益大学が連携協定を結び、行っている。
(質問)「リビングラボで期待される成果は」。(回答)「デジタル×地域課題解決」に特化した産官学共創の仕組みを構築し、デジタル変革による持続可能な地域の暮らしと、そのプロセスによって生まれるソーシャルビジネスの共創を実現する(酒田市デジタル変革戦略から抜粋)。「市民自らがまちづくりに参画しながら、デジタル技術によって生活が豊かになることを実感できるまちを目指す」。

次回は、「デジタルテクノロジー活用」の内容について報告します!

やまがた酒田散歩 HPより

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