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馴染みの店の、馴染みじゃないメニュー/辻本力 第1回 生青のり

ライター・編集者でタバブックス社外役員の辻本力が、馴染みの店で頼んだことのないメニューに挑戦する不定期連載。“いつもの”から飛び出した先にあるのは、未知の美味しさか、はたまた…。辻本的酒場放浪記、ご期待ください!

齢40歳。行きつけの飲み屋の1つや2つ、いや3つや4つ、いや5……生活圏によく行く店も徐々に増えてきた。

カウンターにはよく見る顔が並び、馴染みの店主に、馴染みのつまみーーTHE 安定。そういう場所では、とにかく“いつもの”が当たり前にあり続けてくれればそれでいい。変わるのは、ちょっとした季節のメニューくらいで十分だ。

というわけで、いつもの店で頼むのは、だいたいいつもの酒に、いつもの肴ということになる。飽きないのか? と問われれば、飽きはしない。なぜなら、「こういうのが食べたい時はここ」と決めてる店が何店かあるからだ。その中でローテーションを組めば、「なんか違うもんが食べたいな」は回避できる。

つい先日のことである。毎度お馴染みの品書きを眺めながら、オーダーを組み立てていた時、ふと気になる一品を発見した。

生青のり 

何度も繰り返し目を通してきたメニューである。当然、その存在に気づいていなかったわけではない。しかし、これだけ店に通っているのに、なぜか一度も食べたことがなかったことに急に気づいたのだ。

そんなタイミングで、一緒に飲んでいた相手が「生青のり食べたいな」と一言。自分も、たまたま「いつもあまり食べないものでも注文してみっか」というモードだったこともある。じゃあ、と提案に乗ってみたのだった。

青のりといえば、乾燥した、お好み焼きとかに振りかけるあれくらいしか食べたことがない。とはいえ、当然元は生の状態であるのが道理である。海藻系のつまみーーということで、頭に浮かぶのは、めかぶとかもずくとかアオサの類だ。さて、どんなものなのか。

で、出てきたのがこれだ。

なんだろう、味噌汁に入ってる岩のりが生状になった感じ? サクサクとした歯ごたえ(コリコリではない)があって、粘りはない。刻んであるのか、箸でつまんでもベロンとはならない。上に載ってるのはワサビだ。味つけは、ところてんのタレが濃いめになったような感じ。さっぱりしてるが、しっかり味でワサビの辛味が効いてて、酒に合う。いいな、これ。早くも脳内で「リピート決定」が宣告される。

散々目にしている品書きにも、まだまだ未知の領域が残されているーー私にとって、これはささやかながら、非常に大きな、目から鱗の落ちるような発見であった。

“いつもの”という予定調和に、突如ぽかりと現れる「意外と頼んだことのないメニュー」というエアポケット。これはきっと、他の行きつけの店にもあるんじゃないか?

そんなわけで、また近くご報告したく。

(続く)

辻本力(つじもと・ちから)
1979年生まれ。ライター・編集者。文化施設「水戸芸術館」を経て、2010年に「生活と想像力」をめぐる“ある種の”ライフスタイル・マガジン「生活考察」を創刊。文芸・カルチャー・ビジネス系の媒体を中心にいろいろと執筆中。18年、タバブックスより約5年振りとなる「生活考察」の最新号(Vol.06)を刊行、19年よりタバブックス社外役員に。
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