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詩集:どこにもいけない

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行き場もなく日々わだかまる言葉達は、詩の中以外はどこにも行けない
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記事一覧

詩:ぼくら宇宙になれるかな

詩:ぼくら宇宙になれるかな

よ、よ、よるの水槽で
まぶたをなくした、テトラの夢

ぼくたちは空っぽの天国で
硝子の破片を
抱いたまま眠る

ぴかぴか光る稲妻を
まぶたのうらに刺しておき
手首に傷を保つためだけのかぎづめを持っているから
なくした思い出がほら
いま、ひかりを放つ

けむった空気の中で目を覚まし
誰しもが肌色のふくろに押し込まれる様を見つめている

ぼくたちはいつか骨になり
素焼きのまんま土に埋められ
か、かぎづ

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詩:明けない夜はない

詩:明けない夜はない

タンポポは
ひだまりのなか
風に揺られ
ゆっくり枯れていく幸せを知っている

かりたての芝生に
寝転んだ猫
空を舞うビニール
いつまでも目で追っていた

部屋の中
あるはずのない時計
カチカチと
音を刻んでいる

春の日の午後
ベランダの向こう
さきほどのビニール
吸い込まれるように消えていった

海月だね

そう呟きながら
さっき使い終えたコップを
台所で何度も洗い直している

身体を折り曲げて

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詩:足首、もしくは母趾球

静かにすいこまれていくように

固く冷たくなっていく日常においては

水底に深く沈んで溜まっていく澱みをすくい取ることが大切で

なぜならそれはそれだけが生きて動く言葉になるから

微細な雨粒が顔中にはりついて

光たちが柔らかくその動きをうねらせ

街の全ては例外なくその姿をさらけ出すことになる

人はうなだれ

足元ばかり見つめ

細やかな日常の出来事に思い巡らせ

男たちの尻や腿はすっかりし

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詩:そらをはなれて

詩:そらをはなれて

めのみえないとり
なかまからはぐれ
するどくないても
こだまむなしい

きずついたこころ
つかれたこころ
みずうみにうつせば
ほろほろと
なにかがくずれていくようで

なきつかれ
まぶたをとじると
きおくのそこで
なにかがゆれている

ひとつ
ふたつ
みっつ
よっつ

かぜにゆれる
とおくのき
いのちはざわざわと
もえているのだが

きえさったあのひびが
もしもほんとうに
もどってくるのなら

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詩:ひみつ

詩:ひみつ

「月齢14の夜」

「金の光が手ですくえるくらい」

「冬の繊維がふくらんでにじむころ」

「銀に光るハシゴをのぼろうよ」

「夜空の隙間から」

「まるで雲母を割ったような」

「優しい夢の構造が見えますが」

「それはぼんやりとつかみどころがありません」

(でも、あなたの瞳の奥にも存在します)

「神様の骨盤のなか」

「孵化したばかりの天使たちは」

「泡のような声でふつふつ笑っているよ」

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短詩:日曜日の幽霊

月曜日の朝
路上に散らばる
日曜日の残骸が
かすかに光を宿したまま
まだきらめいている

みちゆく人は
気づきもしない

昨日という日が
幽霊になって
いたるところで
息をひそめているなんて

詩:ふゆのひかり

詩:ふゆのひかり

沈黙。

ためいき。

寝息。

夜。

空白。

瞬き。

地上。

くるしみ。

涙。

それから。

暗闇と

暗闇のあいだ

てのひらの中で

ふるえ朽ちかける

リュウゼツラン

塩の結晶のようだった

幾千もの星たち

そこまでには

たくさんの距離があって 

届くまでに

全てが消えてしまって

望むものは結局

手に入らない

それでもあなたは 

無垢なる光であり

柔らかな毛

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詩:ついによこたわる木

詩:ついによこたわる木

ついに横たわる老木

虚ろな目を開いて

何を見るともなく見る

無気力は墨を染み込ませたように広がって

今に始まったことではないと呟く

冷たい地面に耳をつけていると

なつかしいほど遠くから

あたたかい足音が響いてくる

眠れぬ夜は幾日と続いて

白い花びらがちらちらと

なぐさめのように降りそそいだ

ついに横たわる老木

小鳥はさえずり

太陽がのぼり

雲がながれて

恋人たちにも別

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詩:夕日の小瓶

詩:夕日の小瓶

世の中には
夕日を閉じ込めておける
小瓶があると聞きました
いっとう綺麗な夕日は
一度閉じ込めて蓋をすると貝殻に形を変え
また蓋を開けるとそろそろと
確かめるようにゆっくりと
空に向かって触手を伸ばし
空気に染み出すように外に出ると
真昼や夜中の中に
小さな夕方が一瞬だけ現れるのだと

詩:ふたり

詩:ふたり

からっぽの部屋
ヘビのように絡み合い
体温が上がるのじっとまつ

ガスレンジ、蒼い炎
しんしんと孤独を鳴らし
つかれた目、冷えたゆび
切れたくちびるの味、せつない

かつて私たちは
暗くあたたかな場所
はなれがたく絡み合っていて
お互いをことばや名前で
切り離す必要なんてなくて

いつか灰のように透け、過去となり
風のような音も消え
この世の悲しみを鉛と共に飲み下し
魚となり、泡となりちりぬる

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詩:翡翠色の午前二時

真夜中の庭から庭へと
彼岸花を辿る旅

百歳の古井戸の底の水
揺れる植物の一つ一つ

ひかりというひかりが
夜の終わりを見つめているのでした

裸足で家を逃げた子ども
ちいさな公園でひとり

銀色の箱舟が
空に溶けていくのを見るのでした

人のいない街は時間がうつろっても
灰色のままで

道の先で信号が
きいろ、きいろ、きいろ、
と点滅するのでした

詩:だいだらぼっち。ひとりぼっち。

詩:だいだらぼっち。ひとりぼっち。

まちのひかりはおもちゃみたい

あおくわいた雲のかたち

ぎんいろのスプーン。ながれぼし

ひつじの群れはヨーグルト

ステンドグラスのキリン、ライオン

すこしふれただけでぜんぶこわれた

ここにいてもいいよ。を

じっとまっていた

かなしければとうめいになって

プランクトンだけをたべていたかった

それでもつくりたてのアスファルトの上を夢みて

小鳥のしんぞうが止まる日のことを

思い浮か

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詩:ちいさなまひる

詩:ちいさなまひる

つつしみぶかい
たましいのなみだ
かなしくすさむ
らじうむのひかり

なつのくも
うみのにおいつれて
かぜもなくまっていれば
なみまにゆれる
しろいうみうしのゆめをみる

てりさかる
あおいらむねのような
とうめいなたましいは
きぎをゆらし
そらのそこでとどろく

にじりよる
やわらかなけものたちは
あふれんばかり
つめくさをふみくだき

こはくいろ
おだやかなまひるのうつろは
かぜにながれる

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詩:きらきらひかるいなびかり

人のいない部屋
亡霊のような埃たち
真夏日の
白昼夢のような高校野球
金属音が切り裂いて
遠のいていく

ぬるい午後
湿った風
べたつく汗
埃っぽい車の排気ガス
あんなに無邪気に
手のひらをくすぐった夏草も
乾きはじめて色が褪せていく
すりぬけていくように消える私の夏

思い出す
何かを思い出す
果てのない海
突き抜けるミントの辛さ
宇宙の心臓が縮んでから
膨らむまでのわずかな間
生まれた命と

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