プロのビジネスパーソンとして「天気予報」を語るなら、気圧ではなく、傘の必要から話すべき理由。〜空・雨・傘の区別についてアクセス解析を例に考える。

病院に入院した患者が毎日体温と血圧を測られるように、ウェブサイトやスマホアプリに代表されるデジタル・サービスにおいてPVやUUを測定するアクセス解析や、その数値を活用したKPI(Key Perfomance Indicator)の設定は大変に重要です。なぜなら、これらが日々の業務運営の「バイタル・チェック」だからです。現代の航空機は、パイロットの目視だけでなく、計器やレーダー、GPSに頼って飛行します。この「計器飛行」のお陰で、夜間や酷い雪のような視界がほとんどない悪天候でも、旅客機は安全に飛行することが出来るようになりました。デジタルメディアにおけるアクセス解析とは、つまりは、ジェット旅客機におけるレーダーや、高度計といった計器飛行を可能にするコックピット画面のようなものです。

もし、本稿をお読みの商業的なウェブサイトやアプリの運営担当者で、アクセス解析をそもそも導入していない、という方がいましたら、それは、レーダーや計器なしに、毎日目視飛行で旅客ジェット機を飛ばしているようなものですね。今すぐに導入することをオススメします。

さて、本稿では細かいアクセス解析サービスの使い方を説明するつもりは毛頭ありません。例えばGoogle Analyticsについては解説本や解説サイトはゴマンとあるので、具体的なマニュアル的知識を求める方は、そちらを参照してほしいと思います。私がこれから書くのは、「アクセス解析担当者は、そもそも自分の仕事に対してどのように取り組むべきか?」という上流工程における気構えについてとなります。

実際に、Google Analyticsの画面でも開いてもらえばお分かり頂けると思いますが、あまりにも膨大なデータが、様々な時間軸、切り口で用意されています。これでは、明確に仮説なり問題意識を持って利用しないと、データの海に溺れてしまうこと必至です。そんな「データ溺死」を避けるためにも、サイト全体のアクセスを生み出している構造を大掴みに把握しておくことと、そして、いやしくも自分を知識労働者と位置づけるならば、「データ⇒インフォメーション⇒インテリジェンス」の3層レイヤーにおける「インテリジェンス」に相当する知識や具体策を産み出してこそ、仕事をしたことになるなのだ、と常に意識してアクセス解析の画面に向かうことが肝要になります。アクセス解析の画面の中をウロウロし、自分でも「意味」「示唆」に関するメッセージが抽出できていないグラフを印刷することで、仕事をした気になるのは愚の骨頂です。

まずは「データ:data」、「インフォメーション:information」、「インテリジェンス:intelligence」の三つの違いについて説明しましょう。

「アクセス解析とは毎日見るものだ」という意味では天気予報のようなものであります。天気予報で言うならば、「湿度30%、気温27度」という湿度計、気温計からそのまま流れてくる数値そのものが「データ」に該当します。客観的ではありますが、このままでは調理前の素材でしかありません。一歩進んで「湿度30%、気温27度」という今日の天候データを前日と比較して「今日は前日よりも、湿度が低く乾燥しており、気温も高い」という解釈を加えた言い方まで出来れば「インフォメーション」となります。少しは有用な情報になって来ました。

さらに、「これまで洗濯物の外干しに向かない天気が数日続いてきましたが、今日は洗濯日和ですよ!(明日からはまた天候が崩れますから)」という、聞き手(この場合は主婦)にとって、具体的な提言メッセージや知見にまで、昇華がなされていれば、これは「インテリジェンス」と言ってもよいでしょう。アクセス解析の担当たるもの、このレベルを目指さないと、人手をかけて仕事をする意味がありません。

知識労働者の典型的な産業である、コンサルティング業界では、このデータ・インフォメーション・インテリジェンスを区別して、「空、雨、傘のフレームワーク」と言われます。「どんよりとした曇り空(事実)」を見て、「雨が降りそうだ」(=解釈・予測)と考え、「傘を持っていくべき」(具体的なアクションプラン)と言えてこそ、初めて経営陣への参謀として高額なフィーを請求する存在意義があるわけです。

アクセス解析に向き合う人間は、「インテリジェンス」に値するレベル、「空・雨・傘」のフレームで言えば「傘」レベルの知見を抽出することを常に意識すべきです。また、自分が上司や顧客へ、あるいはチームの定例ミーティングなどでアクセス解析に基づいたレポートを同僚などに共有する場合は、この3つを正しく区別して伝えることも非常に重要でもあります。それはなぜでしょうか?

(この記事は、cakesに2012年に掲載したものを加筆修正リサイクルですので課金される前にその点、ご注意ください。)

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