市場は案外甘いよ、という話

ビジネス書でも自己啓発書でも「行動が大事」という話はよく聞きますが、何も考えずに行動すりゃいいってわけじゃありません。
正しく言えば「市場を読んだ行動をするべき」です。

例えば私はラフマニノフのピアノ協奏曲2番が弾けます。
でも私は大学ではヴァイオリンを専攻していたので、ピアノ自体は最低限しか弾けません。
それでもフェイスブックに演奏した動画を上げたところ、かなり好評を受けたり、周りの人からもピアノ専攻と勘違いされるような評価を受けています。
ここまででは自慢話にしか聞こえませんが、これにはちゃんと理由があります。
その理由は、

「弾ける人が少ないのに対して、曲を知っている人がすごく多い」

からです。
単純明快、経済的に言えば「安く買って、高く売る」と同じです。

○弾ける人が少ないのはどうしてか?
音楽大学のピアノ専攻であれば、技術的に弾ける人は沢山います。むしろそれよりも難しい曲を弾いている人も沢山います。
でも私が在学していた時は、その曲は一人しか弾いている人がいませんでした。
何故かと言えば「難曲というレッテルがある」からです。
ラフマニノフのピアノ協奏曲2番、私も譜読みだけで1年近く掛かりました。
曲の内容としても、理論的というよりはアドリブ的、ヴィルトゥオーゾ的な演奏が要求されるため、大学入学時までに習う、バッハやベートーヴェン、ショパンの曲を学んでも、簡単に弾ける曲では無いんです。
物理学で言えば、古典力学を学び続けてきた人が、いきなり量子力学中心の試験を受けるようなものです。

でも、演奏不可能な曲ではありません。
持っている技術によって掛かる時間は違いますが、練習を繰り返せば、誰でも弾ける曲なのです。
でも音大生の場合は、レッスンや定期試験があるため、同じ曲を何年も練習している暇は無いんです。
また、協奏曲であるため、試験では演奏できない他、オーケストラ伴奏が無いと曲中に隙間が出来てしまいます。
歌で例えるなら、カラオケに音源が無い曲を、アカペラで歌っている状態に近いです。

つまり、弾きたいけど弾けないんです。

でも、知っている人も、聴きたい人も沢山いる。
需要に対して、供給が少なすぎる状態、
これを私は「市場の穴」と呼んでいます。

このような現象は、珍しい話ではありません。

携帯電話で言えばiPhoneがそうです。

スマートフォンはそれ以前からも普通に売っていましたし、iPhoneが出る直前のガラケーを見れば、日本の企業だってiPhoneのような携帯を作りたかったことが伺えます。実際iPhoneの多くのパーツを作っているのも日本の企業ですし。

ドワンゴの川上量生さんも言っていましたが「日本人は、個人で見るとすごくレベルが高いが、大企業や集団で見るとバカになる」のです。
バカになるとはつまり、行動をしないということです。
大企業でイノベーションを起こそうとすれば、責任を負わされたり、反感を買ったり、下手すればクビにすらなってしまいかねません。
そんなことをするくらいなら、黙って目の前の仕事を続けていた方がいい。
だからガラケーはいつまでも物理的なボタンに囚われ、誰も読まない分厚い説明書を作り、無駄な機能を追加させている内に、それら全てをあっさり無くしたiPhoneに追い抜かされてしまったのです。

出る杭を打たれる現象は、日本人に限ったことではないと思います。
ただ日本には、出る杭を打つシステムが整っているんです。
これを逆に言えば「ほどほどの生活であれば、日本人なら誰でも出来る」からなんです。
成熟し切っているとも言えそうですね。
携帯電話だって、通話とメールだけならガラケーで足りていたはずです。
でも、携帯電話が進歩していく内に、それだけでは足りなくなってしまった。
でもそれを見て見ぬフリをして、ガラケーのまま誤魔化そうとしていたのが、日本の大企業の大きな過ちです。

完成された絵画に、新たに絵を描きたす必要は無いんですね。
むしろ描き足せば、非難を浴びる。
だからたとえ構図的に絵が足りなかったとしても、既に描き終わってしまった絵なら、誰も描き足そうとせず、ただじっと眺めているだけなんです。

それは別におかしな行動ではありませんし、むしろきちんとマナーを守った行動であると思います。
でも、絵画を眺めているだけでは、画家にはなれません。
眺めた先の延長線上にあるものは、評論家や批評家などです。

また、画家になりたい人は、市場など関係なくアスリートになろうとしてしまいます。
イラストでもギターでも何でも、それで日本一上手いアーティストになろうとしてしまうんです。
それも悪いことではありません。その恩恵として、個人の技術力は凄まじいほどに高くなるからです。
ただ、最初のピアノの話と同じように、どんなに絵が上手くても、市場に合わない絵を描いているだけでは、売れないのはもちろん、注目もされません。
流行や歴史、ボトルネックを知った上での作品を作らなければ、作品が世に送り出されることは無くなってしまうのです。


市場をちゃんと読んで行動しているのなら、本来この文章もここに記すのは間違っています笑
ですが、ぼくは別に情報商材を売りたいわけでもないし、他にもやりたいこと、楽しいことが沢山あるから暇つぶしにここに書いているんです。
別に内容自体には価値も何も無いですし。
ただ書かれた内容を実行している人は、ほとんどいないと思います。

市場を読む能力、市場の穴を見つけられる能力は、どんな時代でもかなり有利になります。
そのために必要なことは、努力でも勉強でも資金でもありません。
・市場に自ら参加すること
・多角的な視点、広い視野で物事を捉えること
・当たり前だと思っていることに、疑問を持つこと
などです。

と、無名の私が偉そうに言ったところで、誰も行動しないと思うので、参考文献をいくつか載せておきます。

・アテンション―「注目」で人を動かす7つの新戦略 ベン・パー https://www.amazon.co.jp/dp/4864104565/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_yNXQxbW624BDT 
・創造力なき日本 アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」 (角川oneテーマ21) 村上 隆 https://www.amazon.co.jp/dp/4041103304/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_UMXQxbRQ21B6B 
・マーケット感覚を身につけよう---「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法 ちきりん https://www.amazon.co.jp/dp/4478064784/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_.NXQxbPBD679M 
・インベスターZ(6) 三田紀房 https://www.amazon.co.jp/dp/B00QWBFV3M/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_MOXQxbFWSVZE8 
・挑戦するピアニスト 独学の流儀 金子 一朗 https://www.amazon.co.jp/dp/4393937783/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_uPXQxbMGJCZWM 
・いつやるか? 今でしょ! (宝島SUGOI文庫) 林 修 https://www.amazon.co.jp/dp/4800226880/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_sQXQxb182MS5B 

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