手塚 大貴

旅行ライター。旅の“素敵”を伝えたい。ここではないどこかへ、ときどき旅立ちます。旅エッ…

手塚 大貴

旅行ライター。旅の“素敵”を伝えたい。ここではないどこかへ、ときどき旅立ちます。旅エッセイやコラムが得意。お仕事のご依頼は hirotaka.journey@gmail.com まで。

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    フトした事からはじまる もう出会うことのない貴方へ 手紙のような小説 珠玉の一編をお届けします #手紙小説・メンバーで運営中

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カザフスタンの世界遺産は、何もない大草原だった

その朝、ホテルで簡素な朝食を食べながら、そこへ本当に行くべきかどうか、迷っていた。 春のカザフスタンの旅の途中、タラズという小さな町で迎えた朝だった。 何もなさそうな町で1泊してみるのもいいかもしれない……と立ち寄った町だったけれど、そのタラズは想像以上に、何もない町だった。 前の日の夕方、カザフスタン鉄道をタラズの駅で降りても、どうやら観光客は僕一人しかいないようだった。 駅を出て、夕暮れの町を歩き始めても、心を動かされる風景は何もない。 陰鬱な曇り空の下、彩りを

    • 春のカザフスタンで手に入れた、たったひとつの旅のお土産

      この春、中央アジアのカザフスタンを旅してきた。 旅に出る前、「どうしてまたカザフスタンへ?」と不思議そうに訊かれることもあった。 それこそ村上春樹さんのラオスのように、「カザフスタンにいったい何があるというんですか?」というニュアンスを込めて。 正直に言えば、カザフスタンで何を見たいとか何をしたいというわけではなかった。 去年の秋、ウズベキスタンを旅したら、なんとなく隣のカザフスタンへも行ってみたくなった。 たぶん、それ以上の理由はなかったように思う。 そんな単純

      • ただ「今」だけを生きるために、旅に出る

        海外へ旅に出るとき、いつも思うことがある。 いや、正確に言えば、国際線の飛行機に乗り込んで、機体がふわっと離陸する瞬間、思うことがある。 たとえば、それが1週間の東南アジアへの旅だとしたら、僕はこんなふうに思うのだ。 これからの1週間は、ほとんどすべてのことを忘れて、ただ旅という日々を夢中で生きるだけでいいんだな、と。 心地良い解放感とともに湧いてくるその思いにこそ、僕が旅に惹かれてしまう理由がある気がする。 旅に出れば、「今」という瞬間を、夢中で生きることができる

        • もしタイムマシーンがあったなら、『深夜特急』の頃の香港へ行きたい

          村上春樹さんの紀行文に、「もしタイムマシーンがあったなら」という短編がある。 そんな書き出しで始まる紀行文の中で、村上さんは、1954年のニューヨークに飛んで、当時のジャズクラブに行きたい、と語っている。 さて、その紀行文を読み終えた僕は、もちろん思い巡らすことになった。 はたして僕だったら、一度きりのタイムマシーンで、どこへ行きたいと思うのだろう、と。 正直、今の世界を旅できるだけで十分、と満足している僕は、過去の世界へ行きたいとはあまり思わない。 フランス革命の

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          夢のある日常を生きるために、航空券を買っている

          たぶん、一般的に見れば、物欲のない方だと思う。 お洒落な服を買いたいなんて思わないし、車にも時計にも最新の家電にもほとんど興味がない。 そんな僕が、年に何度か、どうしても買わずにはいられない物がある。 海外へ旅に出るための、国際線の航空券だ。 他の何は買わなくとも、国際線の航空券だけは、気がつけば欲しくなり、気がつけば買っている自分がいる。 もちろん、その航空券は、海外へ行くために買っている。 でも、それだけが理由ではないことに気づいたのは、わりと最近になってから

          夢のある日常を生きるために、航空券を買っている

          どうしてかわからないけれど、心に残る「旅の記憶」がある

          ふと、10年前にブラジルへ行った旅を思い出して、不思議なことに気がついた。 それは僕にとって、人生で最も日本から遠い国へ行った旅だった。 サッカーワールドカップの観戦をメインに、リオデジャネイロやサンパウロ、さらにアルゼンチンへも入国し、イグアスの滝へ足を延ばした。 地球の裏側でしか出会うことのできない、いくつもの大きな感動を味わえた旅になった。 伝説のマラカナン・スタジアムで観戦したワールドカップの試合も心震えたし、コパカバーナやイパネマのビーチ、そしてキリスト像が

          どうしてかわからないけれど、心に残る「旅の記憶」がある

          海外旅行帰りに食べる、吉野家の牛丼の美味しさについて

          海外の旅から帰ると、真っ先に食べたくなる、日本の味がある。 飛行機が成田空港に着陸し、しばしの時を経て機内を出ると、多くの乗客たちとともに、ターミナルビルの中を動く歩道に乗って進んでいく。 やがて入国審査を受け、ターンテーブルのフロアを過ぎ(僕の場合、荷物を預けないので通り過ぎるだけ)、さらに税関も抜ければ、無事に到着ロビーに出る。 そこが幸運にも第2ターミナルなら、すぐ見上げた2階に、オレンジ色の看板が輝いている。 それを目にした僕は、エスカレーターで2階へ上がり、

          海外旅行帰りに食べる、吉野家の牛丼の美味しさについて

          それを思い出に変えられたら。旅する心構え、の話

          ベトナムのハロン湾でクルーズに参加したとき、同じテーブルになった日本人の社長さんからもらった言葉が、とても印象に残っている。 その社長さんは、京都で会社を経営しているというおじさんで、新たに受け入れるベトナム人の女性とともに、船に乗っていた。 あるとき、観光ツアーに組み込まれているのか、船内で真珠の販売が始まった。 葉笠をかぶったおばさんが、テーブルを回りながら、真珠のネックレスやペンダントを売り歩くのだ。 やがて僕らのテーブルにやってくると、おばさんは僕に狙いを定め

          それを思い出に変えられたら。旅する心構え、の話

          旅もまた、百聞は一見にしかず……だと思う

          久しぶりのベトナムの旅では、世界遺産のハロン湾も訪れた。 正直、このハロン湾へは、訪れるべきかどうか迷っていた。 ハノイから片道3時間あまり、行くとなると1日がかりになるうえ、個人で訪れるのは大変で、観光ツアーを利用する必要がある。 迷うのは、それだけが理由ではなかった。 口コミを読むと、観光客で混雑していて風情もない、観光地化がひどくて期待外れだった、という感想も多いのだ。 最初は僕も、それならわざわざ行かなくてもいいかな、と思っていた。 ところが、あるとき、ハ

          旅もまた、百聞は一見にしかず……だと思う

          9年ぶりのベトナムの旅で、やっと手に入れたもの

          どんな国でも、旅が終わる頃には、その国のことを好きになっている。 旅人としての僕にとって、それはほとんど唯一の、ささやかな特技と言えるかもしれない。 そんな僕にも、たったひとつだけ、旅をしても、どうしても好きになれなかった国がある。 9年前、20代の終わりに旅した、東南アジアのベトナムだ。 期待を胸に訪れたそのベトナムで、僕は大きく打ちのめされることになる。 この国だけは自分には合わない、と思ってしまったのだ。 まったりとしたベトナムの気候は良かったし、ホーチミン

          9年ぶりのベトナムの旅で、やっと手に入れたもの

          ほんの近くの街で、新しくまっさらな旅を

          たとえば、異国へ旅に出て、どこか見知らぬ街を歩いているとき、ふと思う。 いま、人生で初めて、この国の、この街の、この道を歩いているんだな、と。 海外の旅が好きなのは、いつだって、新しくまっさらな瞬間に溢れているからだ。 初めて出会う人、初めて見る風景、初めて食べる料理、初めて感じる風……。 日本にいるだけでは味わえない、五感を次々に刺激する、新しい何かを求めて、海外へ旅に出るのだ。 しかし……と思ったのは、この新年の数日間、思いがけず、印象的な体験を2度も続けてした

          ほんの近くの街で、新しくまっさらな旅を

          沢木耕太郎さんからのクリスマスプレゼントと、新たな旅立ち

          昨年、2023年のクリスマスイブのことだった。 ……と書くと、素敵な恋物語でも始まりそうな気がするけれど、とくにロマンティックではない、だけどちょっと嬉しい出来事があったのだ。 というのは、僕のささやかな旅の話を、憧れの人に伝えることができたからだ。 それは、あの沢木耕太郎さんだった。 沢木耕太郎さんは、毎年クリスマスイブに、J-WAVEで放送されるラジオ番組で、一夜限りのナビゲーターを務めている。 聖夜の3時間、沢木さんがリスナーに向けて、その1年の旅のエピソード

          沢木耕太郎さんからのクリスマスプレゼントと、新たな旅立ち

          海外へ旅に出ると、マクドナルドに入りたくなる

          海外へ旅に出ると、マクドナルドに入りたくなる。 せっかく海外まで来たんだから、その土地の料理を味わえるお店へ入った方がいいよね……と思いながら、あの黄色いMのネオンサインを見かけると、つい立ち寄りたくなってしまう自分がいるのだ。 マクドナルドへ入っても、注文するのは、日本で食べるのと同じ、普通のハンバーガーとポテトだ。 その美味しさは日本と大して変わらないし、ファーストフードだから、店員さんと会話が楽しく弾むなんてこともない。 でも、僕は海外のマクドナルドで過ごす時間

          海外へ旅に出ると、マクドナルドに入りたくなる

          全然キラキラしていない旅の果てに

          普段の僕しか知らない人に、海外ひとり旅が好きで……と打ち明けると、意外な顔をされることが多い。 もしかすると、海外ひとり旅=積極的なアウトドア派の人が行くもの、というイメージがあるのかもしれない。 ところが僕は、積極的ともアウトドア派ともほど遠い、むしろ消極的な、インドア派の日常を送っている。 人に会うことはだいぶ苦手だし、3日間くらい外に出なくても全然平気なタイプだ。 勇気なんてものもないし、どちらかといえば、ネガティブな方に考えがちな性格かもしれない。 それなの

          全然キラキラしていない旅の果てに

          たったひとつの、特別な街。祖母の面影に会う神戸の旅

          神奈川県の海に近い街に生まれ、そこで育ち、いまも暮らす僕にとって、自分と縁のある街というのが、地元の他にとくにない。 日本地図を広げても、旅したことのある街はたくさんあっても、暮らした経験のある街はひとつもない。 だから、ささやかな旅の記憶が、日本各地に散らばってあるくらいの感じなのだ。 でも、そんな僕にも、たったひとつだけ、特別な思い入れを感じずにはいられない街がある。 それが、兵庫県の神戸だ。 もちろん、僕は神戸に住んだこともなければ、そこに通ったこともない。

          たったひとつの、特別な街。祖母の面影に会う神戸の旅

          秋のシンガポールで気づいた、ずっと旅で大切にしたいもの

          海外へ旅に出るなら、若いうちの方がいい。 そう思い、20代の頃から旅を続けてきた自分も、気づけば30代も後半になり、「若い」とも言えない年齢になってきた。 もしも本当に、若いうちの旅が素晴らしいとしたら、年齢を重ねたいま、どんな旅をしていけばいいのだろう……? ぼんやりと心の中で燻っていたその問いに、まるで南国の太陽に照らされたように、はっきりと答えが見えてきたのは、この秋のシンガポールだった。 この秋、イギリスの旅からの帰路、乗り継ぎのために、シンガポールのチャンギ

          秋のシンガポールで気づいた、ずっと旅で大切にしたいもの