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祖母と、また会えたような~#今年のベストショット(2)

ピンク色が美しい、その建物に刻まれた、「1923」という数字を目にした瞬間、あっ、と思った。

1923年……、それは去年亡くなった僕の祖母が、生まれた年だったからだ。

場所は、フィリピン・パナイ島の港町、イロイロ。名前の軽やかな響きに惹かれ、どんなところかもよく知らないまま、ふらりと訪れた街だった。

イロイロに着いた翌朝、さっそく街を歩き始めると、不意に遭遇したのが、その建物だった。

アメリカ統治時代のコロニアル建築。正面の壁に残る「1923」という数字は、この建物が建てられた年を意味するのだろう。

たまたま訪れた異国の街で、祖母と同じ年に生まれた建物に出会うという、不思議な偶然。

フィリピンの青空の下、その建物の美しさは、ひときわ輝いていた。

白とピンク、黄色に塗られた壁や柱は鮮やかで、そこにあしらわれたヨーロッパ風の装飾も可愛らしい。

それはどこか、最後まで明るく可愛かった祖母のイメージと、ぴったり重なるようだった。

そして、この美しい建物は、今でもちゃんと使われていた。1階フロアに雑貨店や履物屋が並び、買い物客で賑わっていたのだ。

祖母と同い年の建物が、こうして今も、生きている……。

僕が海外へ旅に出るとき、祖母はいつも心配してくれた。初めてのおつかいに行く子供みたいに、僕の手をぎゅっと握りながら、「気をつけてね」と繰り返し言った。

このイロイロという街で、そんな元気だった頃の祖母と、久しぶりに会えたような、幻を感じた。

「1923」と刻まれたその建物の写真を撮ると、僕はかつてのように、優しい祖母に見送られるような気分で、異国の光の中へと飛びこんでいった。

旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!