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心の中の大切な場所

小学生の頃から実家を出るまで、悲しい時や辛い時に一人で行っていた場所がある。誰もいない砂丘の上。吹き抜ける強い風を顔に受けながら、遠くの町並みを眺めたり、足元の砂を手ですくってはさらさらと落として遊んだ。そこで過ごす時間は、私にとって誰も知らないちょっとした非日常で、そうやって日常を離れると、少しだけ心がすっきりして、少しだけ元気が出て、悲しくても辛くても、日常に戻って行くことができた。

今でも、たまに思い出す。例えば、瞑想アプリのガイドが、どこか安全なお気に入りの場所を思い浮かべて、と言う時。私の心は、あの砂丘の上に行く。遠くの町並みや目の前に広がる砂が見える。風を顔に感じ、砂を手や足に感じる。

あの砂丘の上に行きたいな、と時々思う。今の私には、実際に行けるそういう場所がない。悲しい時や辛い時に、一人ですぐに歩いて行ける場所。気に入っている景色が見える公園や池のほとりなどはあるけれど、必ず人がいるし、ふらっと歩いて行ける距離でもない。あの砂丘のような場所があればいいのに。

その砂丘の上には、当時飼っていた犬を連れて行くこともあった。そこでリードを外してあげると、犬は大はしゃぎで走り回った。決してトレーニングされた犬でも賢い犬でもなかったのに、そこでは逃げることもなく、私の周りをただ猛スピードで走り続け、疲れると辺りをうろついていた。今飼っている犬もあの場所に連れて行って、リードを外してあげたいな。同じように、喜んで走り回るだろうか。

もうあの砂丘の上に行くことはないし、同じような場所を見つけることもできないだろう。私にできるのは、あの場所を思い浮かべることだけ。時折思いを馳せて、ほんの少し幸せな気分になるだけ。でも、そうやって思い浮かべて、心を落ち着けることができる場所があってよかった。大切に大切に、心にしまっておきたい場所があってよかった。

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