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今回のコラムは、2013年に「飛び魚が見てきた世界」という自身のホームページで掲載した文章に加筆したものです。”飛び魚”というのは書き手である私のことであり、東京中日スポーツで連載されているコラム「飛び魚日記」の中で自身のことを飛び魚と表記しています。この写真は、13年の最終戦バレンシアGPで史上最年少記録でチャンピオンになったマルク・マルケスを祝福するBarcaのDFジェラール・ピケです。

マルケスとバルサ

スペインにいて、ホテルでぼんやりしているときは、大概、BarcaTVを見ている。原稿を書いているときも音を消してつけっぱなしにしているので、長湯ならず、ながらテレビ原稿となってしまうのだ。

24時間の有料テレビなので、もう、ずぅーーーっとやっている。昔の試合から最新の試合まで。名場面集から珍プレー集まで。Barcaは、他にも、バスケットボールにハンドボール、フットサルなどなど、いくつものプロチームを持っていて、サッカーの映像の合間に、こうした他の競技の映像が流れるので飽きることがない。

とは言っても、やっぱり、サッカーである。今年はブラジルのネイマール・ダ・シウバ・サントス・ジュニオールが加入して、サッカー好きの飛び魚としては、たまらないのである。

サッカーの試合でもっとも面白いのは、1-0の試合である。サッカー好きの人には、説明するまでもないが、1-0というのは、得点している方も、負けている方も、「失うものがない」という試合ではないからだ。

負けている方が1点を加えたら1-1になって試合は振り出しに戻る。1点入れている方は、その1点を守りながら追加得点を入れようとする。簡単に言えば、どちらのチームもギリギリの戦い。「失うものがない」という背水の陣ではないからだ。

だから、1-0のサッカーの試合は、面白い。最後まで飽きさせない。

ときどき、どこどこは強いね。5-0で勝ったからね、なんて会話を聞くことがあるが、3-0で勝ったから強いというものでもないし、5-0で負けたから弱いというものでもない。つまり、3点入れられたら、もう攻撃するしかないわけで、攻めの試合になるとどうしてもワンミスで逆襲されて追加点を取られるわけで、極端な言い方をすれば、3-0も5-0も同じだと言ってもいい。

バイクのレースも、勝ち星が多ければ、圧勝のシーズンだった、と言えるが、数字だけではわからないことが、たくさんある。昨年のシーズンは、ホンダのダニ・ペドロサがシーズン最多の7勝を挙げたが、ヤマハのホルヘ・ロレンソが6勝でチャンピオンを獲得した。今年は、ロレンソが8勝したが、ホンダのルーキー、マルク・マルケスが6勝でチャンピオンを手に入れた。

その昔、圧倒的な強さを見せていたころのバレンティーノ・ロッシは、シーズン前半に勝ち星を重ね、後半戦は2位、3位と着実にポイントを重ねてタイトル王手をかけていく。そして、タイトルを獲得してから、残りの数戦でさらに勝ち星を増やすという戦い方だった。去年のロレンソ、今年のマルケスがそうだったように、タイトル王手を掛けた選手は、無理に勝つ必要はないし、そうすべきではないからだ。

今年のバレンシアGPは、2006年のロッシとニッキー・ヘイデン以来、7年ぶりの最終戦決着となった。開幕前の会見では、チャンピオン争いをするマルケスとロレンソに、06年の主役だったロッシとヘイデンが出席して、最終戦決着を盛り上げた。

06年は、ロッシを8点差で追うヘイデンが逆転してチャンピオンを獲得した。そのことが何度も何度も話題になり、ロレンソは、「悪くないね」と笑った。

一方、13点差でタイトル王手のマルケスは、「みんなに言われたけれど、当時のレースは覚えてないので、ビデオを何度も何度も見てきた。それにしても、あのバレンティーノがミスをするのだからね。僕はバレンティーノのような失敗はしないようにする」と語り、なんともすごい20歳だなあと思ったものだ。そして、決勝では着実に走って、チャンピオンを獲得してしまった。

今年のマルケスの終盤戦の戦いぶりは、ハラハラドキドキだった。サッカーの試合でいえば、3-1から、マルケス側のオウンゴール(オーストラリアGPの失格)で後半残り10分で3-2にされる。しかし、その差をしっかり守りきってタイトル獲得という感じだった。

去年の暮れに、もしかするとマルケスは、フレディ・スペンサーの記録を破るかもしれないと思い、年齢計算をした。史上最年少優勝に、史上最年少チャンピオン・・・。もしかするとマルケスは・・と、新記録樹立への期待を一年前に原稿にしているのだが、まさか、それが実現するとは思わなかった。

写真は、デビューシーズンに世界チャンピオンに輝くという大偉業を成し遂げたマルケスの祝福に訪れたBarcaのDFジェラール・ピケである。お互いにほっぺたを叩いて祝福する姿はなんとも微笑ましかった。

ピケは10年に南アフリカで開催されたワールドカップ優勝に大きな貢献をし、つい最近までスペイン代表として活躍した。現在もBarcaでプレーをしているが、このときは、マルケスに守りの極意を伝授している仲なのだろうかと思った。

20歳266日という史上最年少記録で世界の頂点に立ったマルケス。来年はどんな戦いでタイトル獲得に挑むのか。1-0か3-0か・・・と思いながら、BarcaTVを見ているのである。

※13年に史上最年少でチャンピオンに輝いたマルク・マルケスは、14年はシーズン最多勝利記録となる13勝を挙げて2連覇。15年はタイトルを逃すも、16年から19年まで4年連続でタイトルを獲得した。最高峰クラスで6回、125cc、Moto2クラスを合わせてこれまで8回のタイトルを獲得した。今年は新型コロナウイルスの感染拡大でMotoGPクラスはシーズンが開幕されないまま(Moto2とMoto3クラスは開幕戦カタールGPを行った)だが、ホンダと2024年までの長期契約を結び、大きな話題となった。1993年2月17日生まれ。27歳。スペイン・Cervera出身。


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