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【老舗をゆく07】昭和47年開業、スナック「dawn どん」のハイボール呑みながら昔語りした夜

材木町「MITAD Y MITAD」を後にしたわたしは、家族と別れ、一人大通界隈を彷徨います。

明け方から激しく雪が降ったり、そして時折やんでみせて青空が見えたり、おかしな天気の土曜日でした。

どこに入ろうかと歩き続けていると、「皆様のご厚情を賜り51年目」という一文が目に飛び込んできます。

「ナニナニ?」とよくよく読むと、オイルショックやバブル崩壊、リーマンショック、コロナといった時代の大変化・大激動の中、昭和の時代から続いている店だ、ということがわかりました。

「おお、こんな店があったのか、いろいろ面白い話が聞けるかもしれない」と雑居ビルの2階へ階段を昇ります。

スナック「dawn」のドアを押すと先客はおらず、マスターらしき男性と女性店員が迎えてくれます。

「まずはちょっとトイレをお借りしたいです」と話すと、マスターが「入口のところにあります」と教えてくれます。

トイレで用を済ませると、年配の男女二人客がにぎやかに入店してきて、マスターと「やあやあ」と挨拶を交わしています。どうやら常連らしいです。

わたしの前にマスター、二人客の前に女性店員が立ち、それぞれハイボールを作ってもらいます。

コースターがいいですね

「初めてですか?」
「初めてです。51年間やられているというのを表で読んで、お店の方に古い大通のこととか聞けるかなって、思いまして」
「あっはっは、そうですか、ほんと、食べられるくらいの商売を続けてたら、51年間経った、というだけなんですが」
「いやいや、飲食で51年ですごいですよね。常連さんの信頼を築けているということですよね」
「いろいろやって、いろいろあって、上手くいったことばかりじゃないですよ」
「あー、そうなんですねー」
「店の名前も『どん』なもんで、『店名が偉そうだ』って叱られることもありまして」
「あ、『どん』だから、『静かなる首領』みたいな?」
「そうです、そうです」

そんな風に話をし、20年ぐらい前のこのあたりのことを話した。

「ビリヤードの店があったじゃないですか(たぶん、『ボルボ』さんです)」
「ああ、ありましたね」
「あと、『北斗亭』さんとか」
「ピロシキのね、懐かしい」
「牛タン、、、の店とか」
「ああ、『太助』ね、仙台本店の分店でした」
「それそれ、もう一軒あったんですよね、牛タンの店、、、」
「えー、あったかなあ、ねえ、牛タン店って憶えてる? 『太助』以外に」

マスターは女性店員と、男女二人客に話を振った。

「牛タン、、、うーん」
「どのへんにあったの?」
「パチンコ『楽天地』の隣か並びかだったと思います。大学時代の恩師に連れられて、よく呑みにいったんです。岩手大学の女子学生さんたちがバイトで入ってて、日本酒が豊富なもんで、そこで『久保田』の味を覚えました」
「へーー、『久保田』の味を覚えた、ねぇ。面白いこと言うわね」
「昔の店のことを覚えている誰かと話し合うのが好きなんです。昔の楽しかった、懐かしい大通のことを忘れたくなくって」

二杯目をお通しとともに

そうしていつしか、「dawn」にいる全員で昔の盛岡のことを話し始めました。あんなこともあった、こんな店もあった、あいつは元気かなあ、いや、2年前に亡くなったらしい、、、などなど。

女性客がわたしに向き直って聞いてきました。

「おにいさん、『こうらくえん』って知ってます? 上田通にあったお店」

もちろん知っている、覚えている。わたしも若かりしころよく通い、朝方までそこで呑んだものです。

「『光る楽園、と書いて『光楽園(こうらくえん)』ですね。安くて旨い、雑多な店内と雰囲気が魅力の酒場でしたね」
「そうそう! 一緒にバイトした若い男の子らとよく呑みにいったわ〜」
「『上田会館』てのもありましたね、なくなったけど。わたし自身は『トクちゃん』は、今でもたまに行きますね。あ、あと、高松の池のとこに『マルイチ』があって、その向かいに『想い出』っていう二坪か三坪の小さい焼き鳥屋があって、そこもよく行きましたね」
「あーー、あったね、『想い出』って激セマな店。懐かしいなあ」

和やかな雰囲気になり、二人客の男性客が聞いてきました。「今日は何軒目? ここはよく来るの?」と。

こちらは初めて訪れたこと、材木町の「MITAD Y MITAD」で呑んできたこと、をかいつまんで説明しました。

「ああ、あそこのご主人のお父さんが菜園のロイヤルホテルの裏で『と一』っていう和食の店やっててねーー」
「あーー、ありましたね『佳肴 と一』って」
「それそれ」
「次は、どこか行くの?」
「そうですね、材木町、大通と来たので思い切って八幡町の方に行ってみましょうか」
「お、いいねー。どのあたり?」
「『タマヤパーク』とかですかねー」
「いいねー、渋い渋い。藤屋ビルの裏っかわだ」
「ですです」
「そうか、じゃ、いってらっしゃい」
「いってきまーーーす」

と、わたしはみんなに見送られ、老舗スナック「dawn どん」を後にしました。あったかい雰囲気が溢れる、毎日でも通いたくなる、なんとも居心地がいい店でした。

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