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漫画家の金の卵を守るために

カクイシシュンスケさんが、過去にアシスタントしていた三田紀房さんの事務所で残業代が支払われなかった件で、弁護士ドットコムでのインタビューを読んだ。
こちら
 
私はただの漫画好きのいち読者として、第三者の視点から思ったこと。
 
 
インタビュー内に、アシスタントが雇用に関する知識がない状態で入ってくる、という一文がある。
これは漫画業界に限ったことではなく、初めてアルバイトをする時も、社会人になって初めて就職して仕事をする時も、よほど気にしていなければ会社がちゃんとやってくれるであろう、という勝手な確信で入社してしまう。
 
例え初めてではなく、別の会社で仕事をしていても、前職と同じような待遇だとそれまでの雇用条件に対して疑問もなにも持たない。
 
かく言う私も社会保険、雇用保険のことなどきちんとした知識を持たず働いてきてしまった。
非正規だから社会保険に入れない、会社がそういう決まりだから雇用保険に入れない、そう言われても特に何の問題もないと思っていた。
社保に入れないのであれば国保に入ればいいし、雇用保険もさして重要な制度だという認識はなかった。
 
労働者の権利、というのを雇用主に積極的に発言するのはなかなか難しい。
クビにされたら困る、面倒くさいやつって思われたら嫌だな、新しい仕事を探すのも大変だし、今のままでも大丈夫、なはず。
SNSではガンガン言いたいこと言っている私だけど、根がビビりだからけっこう小心者。
 
以前働いてた会社で、給料が全然上がらないことに対してはすごく不満があり、それに関しては上司に訴えていたが全く効果がないまま何年も我慢していた。
保険制度も、労基から会社にチェックが入ってしぶしぶ規定通りの形態にしようとして実行したことは時短。これまでフルタイムで働いていたスタッフを時短にして社保を払わずに済む方向に会社は決定したのだった。
それが嫌なら会社を辞めてくれていい、というのがスタンスだった。
 
 
漫画家のアシスタントもそういう空気が濃いのではないだろうか。
プロとして商業誌で活躍している漫画家のもとで働けるのであれば、どんなに長時間労働でも、どんなに休暇や休憩が短くとも、どんなに薄給でも、漫画の技術を磨くことができればそれでいい。
自分で描いた作品を時々見てもらったり、編集者と顔なじみになったり、プロ漫画家のアシスタントとして働くことでのメリットは色々あると思う。
そして、それが当たり前で普通の生活になってしまう。
 
雇用主である漫画家自身も出版社に雇われた固定給ではないから不安定なのは重々承知。
でもアシスタントだって生活しなきゃいけないし、保険を払わないと将来的に年金が貰えなくなったり、督促が来て差し押さえもありえる。健康保険に入っていない状態で病院に行けば10割負担だし、それが無理だったら市販の薬でどうにかするしかない。
歯痛はどう頑張ったって自力じゃ治せないんだから健保に入っていなければ高額治療費を払って治すしかない。
 
本来であれば漫画家側が提示する条件の下での雇用契約(三田さんや佐藤さんとこのような感じ)か、もしくは業務委託としてアシスタント側が提示する金額で仕事を請け負うというスタイルになるはずが、これまでのやり方が慣例化してしまっているし、漫画家もアシスタントもお互いに雇用に関する知識が乏しいというのが現状(らしい)。
(中には変だよなこんなの、と思いながらも発言ができない人もいるのでしょう)
 
 
私もたいして雇用について詳しくはないし、漫画家とアシスタントの関係も想像していることが本当かどうかはわからないが、きっとこんな感じだろうと思っている。
 
義務教育中じゃちょっと早いかもしれないが、でも16歳くらいからアルバイトはじめる子は多いんだから、学校はこの辺の教育を必須とすべきじゃないだろうか。
労働者の権利、ちゃんと教えてあげて!
 
 
今回カクイシさんがSNSやブログで訴えたことについて、反応を示した漫画家はほんのわずかだった。
佐藤秀峰さんが味方寄りでコメントを出していたが、うすた京介さんは否定意見を示しそのツイートは削除された。
 
アシスタント経験を経てプロになった漫画家も多いはずなのに、現在アシスタントとして働いている人も多いはずなのに、カクイシさんの意見に同意し反応をしたのはほとんど業界関係者ではない人たちだったのではないだろうか。
もしカクイシさんの意見に同調したらアシスタントをクビになるかもしれない、漫画家の方も三田さんのところよりも悪い環境だけどこれをアシスタントに求められたら困る、と考えての沈黙だったんだろうと思う。
 
理想的なのは、漫画家に作品を依頼している出版社がある程度漫画家の生活を保証するシステムを作ることなんじゃないだろうか。
初期投資が発生するけど、漫画家の生活環境が良好であることは作品のクオリティの維持に繋がり、アシスタントを雇う費用もそこに含まれることで漫画家の精神的な安定にもなり、それは出版社にとってもプラスになるんじゃないだろうか。
一気にはじめるのは難しいけど、新人作家や援助を必要としている人から順次対応していけば、緩やかに浸透しいずれそれが当たり前になっていく、そうなって欲しい。
複数の出版社と契約して作品を描いている漫画家は出版社同士が協力して折半するとかさ。
 
出版業界が不況っていうのは私もその一部を経験しているからわかる。
(まあでも私の場合いずれも非正規だから正社員がどれくらいの待遇なのか詳しくは知らない)
でも勇気を出したカクイシさんの声をここだけの事案として終わりにするのは何の問題解決にはならない。
三田さんがそれなりに売れっ子漫画家でお金もある(はず)から解決した話だが、もし三田さんレベルじゃない漫画家がアシスタントに訴えられたら破産するかもしれない。
筆を折るかもしれない。
 
漫画大国なのに、大切な金の卵を守れないなんてどうかしてる!
なあなあでやってきたことを今ここでしっかり考えて改善していって欲しい!!

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