立花和馬

医学研究者。科学の世界を題材にした物語とエッセイ。

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  • Intellectual Giftedness

    Intellectual Giftedness – 才能についての科学

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    日々の徒然。趣味のプログラミングなど。

  • Microbiome - 生態系としての人体

    Microbiome - 生態系としての人体

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Microbiome - 生態系としての人体 2. 微小な世界の発見 #1

― ガリレイが天体へと望遠鏡を向けたのは1610年のことである。それから彼は望遠鏡をひっくり返し、接眼レンズを眼に見えないものに近づけて、対物レンズを覗いてみた。すると、きわめて小さいものが巨大になっていた。同じ器機で二つの無限を推定することが可能で、世界のすべての境界は吹っ飛んでしまったのである ― ピエール・ダルモン 魔術的世界と顕微鏡 かつて、人々は「魔術」が支配する世界に住んでいた。  誤解を招きかねないことは承知で、こう書きだしてみよう。  「魔術」とは、古代

    • ビッグバン・イノベーション – 「一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよ」読みました。テクノロジーによって加速するイノベーションの第四ステージを生き延びるためには。

       面白かった。  任天堂やシャープ、SONY – 数年前まではエクセレント・カンパニーと絶賛されていたような企業が、たった数年で凋落してしまう。最近、そんなニュースに接することが多くなってきたが、なぜなのか。不思議でならなかった。同じ疑問を少しでも抱いたことがある人にとって、そして、この変化の激しい時代にあってイノベーターたろうとする情熱のある人にとって、本書は必携の書となるに違いない。  現代は、モバイル・コンピューティングが起爆剤となって、凄まじい加速度でイノベーショ

      • Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #7

        過度激動 - 嵐のような内的宇宙 天賦のギフトが高度になればなるほど、その人生は試練に満ちたものになると言えるかもしれない。普通の人にとっては気にも留めないような小さな刺激に対して、ギフテッドは時に大げさなくらいの大きな反応を示す。このような、高知能の子供たちがしばしば示す、刺激に対する並々ならぬ鋭敏な反応を「過度激動 (Overexcitabilities: OE)」と名付けたのが、ドンブロフスキだ。  ドンブロフスキは、OEを次のように5つに分類した。 精神運動性OE

        • Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #6

          醜いアヒルの子 - ギフテッドの一風変わった振る舞い ― その子は、極度の知りたがり屋であった。学校では「1+1=2」を鵜呑みにすることができず、先生の手を焼かせた。ガチョウの卵を自分で孵化させようとして何時間もガチョウ小屋で座り込んだり、「なぜ物が燃えるのか」の探求に熱中し過ぎたあまり、自宅の納屋を全焼させたりした。仕舞いには、担任の先生から「君の頭は腐っている」と吐き捨てられる始末であった。  仮に将来、その子が傑出した発明家になることが事前に知らされていたとしても、ト

        Microbiome - 生態系としての人体 2. 微小な世界の発見 #1

        • ビッグバン・イノベーション – 「一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよ」読みました。テクノロジーによって加速するイノベーションの第四ステージを生き延びるためには。

        • Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #7

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          6本

        記事

          ATTENTION – 「注目で人を動かす7つの新戦略」読みました。インターネットで情報発信する人にとっての必読書。

           ATTENTIONは、シリコンバレー発の2016年の最重要ワードとなろう。  シリコンバレーでベンチャー・キャピタリストとして活躍する著者のベン・パーは、情報過多時代において「注目」が希少資源になったと言う。著者は、2012年にフォーブスの「世界を変える30歳以下の30人」に選出されるほどの俊英だ。そんな彼が、心理学や認知科学に対する並外れた知見と経験から、「情報だらけの世の中であなたのアイデアを目立たせる」ための戦略を説いた本書は、インターネットで情報発信をする人にとっ

          ATTENTION – 「注目で人を動かす7つの新戦略」読みました。インターネットで情報発信する人にとっての必読書。

          インターネットにより集団ヒステリーが容易に伝染する社会。醜聞報道に際して思ったこと。

           2016年に入ってから、ネット・ニュースで著名人の醜聞に驚く機会が増えた気がします。僕はテレビを全く見ないので、タレントには興味がありません。ただ、今回の「彼」の件については多少驚きました。それが冷めないうちにと、少し考えたことを綴ります。なお、これは特定の個人に対する「擁護」でも「批判」でもありません。何かと言われれば、「内省」のようなものです。ご容赦を。  言葉とは恐ろしいものです。何故なら、言葉は観念を作ります。そして、観念によって、僕たちは物事を想像する力を得ます

          インターネットにより集団ヒステリーが容易に伝染する社会。醜聞報道に際して思ったこと。

          Cognitive enhancer(認知機能改善薬)とは?頭を良くするために科学者が真剣に研究している5つの方法 #1

           いつも「Intellectual giftedness – 才能についての科学」や「Microbiome – 生態系としての人体」にお付き合い頂き、ありがとうございます。いずれも今後いっそうマニアックさを増していくマガジンとなっておりますが、今回は閑話休題です。  たまには、サイエンスに関わる最先端の研究から美味しいところだけをすくい取って、皆様の人生に役立つライフ・ハックを提供できればと思い、ノートを書いています。どうしてサイエンスがこうも面白いのか?最先端のサイエンス

          Cognitive enhancer(認知機能改善薬)とは?頭を良くするために科学者が真剣に研究している5つの方法 #1

          Microbiome - 生態系としての人体 #5

           堅い表現となって恐縮だが、マイクロバイオームを有する「あなた」という存在は、多種多様な個体からなる集団性、複数性を内包している。これは列記としたパラダイムシフトだ。あなたは単一の個体ではなく、複数の生命体が合わさってできた複数者なのだ。ある個体の遺伝情報の総体をゲノムというが、消化管に群生する微生物のゲノムを数えあわせてみると、ヒトゲノムの少なくとも100倍以上の遺伝子を含んでいる。このゲノムの集合、すなわちメタゲノムはあなたを成り立たせるために欠かせぬ必要条件であるのかも

          Microbiome - 生態系としての人体 #5

          Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #5

          ギフテッドと優等生- 学習に対する根本的な違い ― フィリップが小学生だったころ、アマンダは息子の学力を伸ばすためにどうしたらいいのか、悩んでいたことがあった。そんな折、プリンストンの教育ママのひとりから、「クモン」という塾に行かせたらどうかとすすめられた。(中略) 何列にも並んだ子供たちが小冊子のようなものになにかを書き入れていた。問題を正確に解いた子供たちには、褒美としてキャンディーが与えられる。アマンダは、このような場所に息子を入れることにためらいを覚えた。あまりに受身

          Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #5

          Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #4

          恐るべき子供たち - ギフテッドの特徴 ジュディ・ダットンによる『理系の子 - 高校生科学オリンピックの青春』は、一心不乱に科学に打ち込む青年たちの物語だ。変わり者の天才少年少女は、彼らの歩んできた人生から研究テーマを見出し、それに青春をささげる。理解者である家族や先生は、世間からの「そこまでやらなくても」という視線や、オタクやギーク、引きこもりといったレッテルから彼らを守る壁となる。  著者は、高校生による科学のオリンピックであるインテル国際学生科学フェアで、その目を見張

          Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #4

          Microbiome - 生態系としての人体 #4

           マイクロバイオームという視点は、あなたを成り立たせているものは何か、という問いに対する常識をひっくり返す。あなたをミキサーに掛けて、様々な試薬を使ってなんとか細胞一つひとつにまで分離していったとしよう。見る影もないドロドロとした山ができるだろうが、驚くべきはここからだ。乱暴な例えに目を瞑って、その山から細胞を一つ手にとってみよう。あの奇跡に満ちて誕生した受精卵に由来する細胞は、10分の1の割合でしか引き当てることができない。残りの大部分は何か?それはマイクロバイオームをなし

          Microbiome - 生態系としての人体 #4

          processing #2

          ジム・ホルト「世界はなぜ『ある』のか」より 意識の内的な本質から、世界には純粋な構造以上のものがあると考える理由がひとつもたらされる。(中略) 構造それ自体だけでは、どうも現実の存在としては十分でないように思えるのだ。イギリスの観念論学者T・L・S・スプリッグは、こう述べる。「構造をもつものには、構造以上のものがなくてはならない。」

          processing #2

          Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #3

          ギフテッドはどこにいるのか? - ギフテッドの定義 ターマンが定義していたように、20世紀初めの古典的な研究では、ギフテッドは高いIQと同義であると考えられていた。今でもそう考えている人も多いかもしれない。しかしながら、スティーブン・J・グールドが「人間の測りまちがい-差別の科学史」で痛烈に批判したように、IQ神話はしばしば人種差別や階級支配に利用されるような、政治の道具といった一面も持ち合わせていた。  そもそも、単に数理的なパズルがうまく解けることをもって、ある人の頭脳

          Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #3

          processing #1

          昨日、東京に春の嵐が来て、去った。濃く、沸き立つような霧が歩道を包んで、いつもの見慣れた帰り道の風景の輪郭が、ぼんやりとぼやけてどこか刺激的だった。不意に見上げた先の、梅の花が僕を驚かせた。くすんだビルの壁を背景に、その小さくも完全な境界が、とても力強いものだったからだ。 いつも科学論文ばっかり読んでいて肩が凝ってきたので、気分転換にprocessingで作ったgenerative artでも載せます。 皆様にとっての新しい季節が、きっと良いものでありますように。

          processing #1

          Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #2

          1500人の神童たちのその後 ― 神童と呼ばれて育つ人がいる。2歳でひらがなを覚え、3歳になる頃には字が書け、5歳で創作した話を書いた。両親の持ってきた算数の教科書と問題集を読んでみると、何を言っているのか大体理解できた。小学生のうちに微分積分を終えた。  あなたにとっても、小学校で席を並べたそんな存在が思い当たるかもしれない。では、幼少期に卓越した能力を示したそんな「神童」たちの、その後はどうなっているだろう?すば抜けた天賦の知性は、将来の成功までも約束しているのだろうか

          Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #2

          Microbiome - 生態系としての人体 #3

           もちろん、それらはただ無為にうごめいているだけではない。例えば、二酸化炭素や窒素、一酸化炭素を含んだ原始の大気に、私たちが生きるために必須の遊離酸素を供給し、さらに紫外線を防ぐオゾン層で地球全体を覆ってくれたのは、細菌たちが数億年もの年月をかけて光合成をしてくれた結果だ。仮に細菌が地上から姿を消し去ってしまったらどうなるだろうか。感染症の撲滅に取り組む一部の医者にとっては朗報かもしれないが、その負の影響は、哀れなヨーグルト業者やワイン農家を破綻に追い込むだけには留まらない。

          Microbiome - 生態系としての人体 #3