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もしも1日が1ヶ月だとしたら

うちでは、ジャンガリアンハムスターを飼っている。
今の八代目、霖(りん)まで、13年くらいになる。
短命だったり、大きくなったのを引き取ったりしたので、13年で8匹目は多い方だと思う。

必ず一匹だけ。
ジャンガリアンハムスターは単独飼育が基本というか鉄則だけど、ケースを分けて複数飼う人もいる。
でも、私にはそれはできないな、と思ったから、必ず一匹ずつ飼ってる。

例えば二匹飼っていて、片方が死んだら、もう一方が死ぬまで悲しむことになる気がする。
平等に愛情を注げないように思う。
だから一匹だけ。

さて、当代の霖だが、ついこの間、腫瘍が見つかった。
最初はかなり小さくて気付くのに遅れてしまい、気が付いてから触ってチェックしていると、たった半月で、だんだん大きくなってきている。
もう1cmは超えたか。見つけたときは、5mmあるかないかという大きさだったのに。

ハムスターを含む齧歯類は、繁殖力の代償なのか、たまたま捕獲された個体の血統なのか、腫瘍がとてもできやすい。

うちの初代のハムスターの「りゅう」は、進行のかなり早くてきっつい腫瘍が脇腹にできて、苦しんで苦しんで、2歳半で死んだ。
腫瘍ができた時点でだいたい2歳で、ジャンガリアンハムスターが手術のできるタイムリミットと言われる、1歳半を超えていたため、効いてるのかわからない薬をやって、食事介助(流動食をシリンジで飲ませる)をして、あとは見守るしかなかった。

腫瘍は、どんどん大きくなって、表面がはじけて、よどんだ灰色の中身が見えていた。
やる個体もいると聞いていた、腫瘍引きちぎりも自力でやった。キィィィッと、すごい声をあげて腫瘍を噛みちぎってはがした。
けれど、本当に進行が早くて、すぐに元の状態に戻った。

りゅうは、小さい頃からずいぶん病院には通ったけど、もう、病院でできることはなくなって、あとは、日々流動食を飲ませて見守るだけだった。
歯を悪くして、まともにものが噛めなくなり、伸びてきた歯を定期的にプラモデル用の小さなニッパーで切った。

大好きなひまわりの種をむいて、小さく切って食べさせたり。
それくらいしか、やれることがなかった。
ちょうど2歳半と数日で、りゅうは目を見開いたままで死んでいた。
ハムスターとしては長生きした方だったが、とても苦しんだ。

先代の「こたろう」は、脂肪腫という良性の腫瘍が腹部にでき、既に2歳を過ぎていたので、やはり手術はなしとなった。
最初のうちは、元気に大きな脂肪腫を引きずりながら歩いていて、流動食を飲ませて、好きなものをくだいてやったり、栄養剤をやったり、大好きな毛布をかけてやったりしているうちに、だんだんと弱ってゆき、2歳7ヶ月を過ぎたある日、流動食を飲ませているときに、けいれんを起こして、ぽろりと私の膝の上から落ちて亡くなった。

数日前から体温が下がってきていたので、ああ、あぶないかな、とは思っていたが、目の前で死んだのは初めてだったので、衝撃も大きかった。

毛布でくるんで、大好きなおやつを入れて、植木鉢の深いところに埋めて、上に小さな花を植えたが、枯れてしまった。残っていた、小さな毛布を植木鉢にかけて、そのままにしてある。

さてそれで、霖まで腫瘍だと。しかも、脂肪腫ではなく、多分悪性の腫瘍だ。大きくなるのが早くて、色が赤黒く変色している。
痛くはないようだが、元々ちょっとうざがられているので、確認しようとしては、逃げられまくっての攻防を繰り広げている。

「寿命の短いハムスターにとっては、1日が1ヶ月」という言葉がある。
本当かどうかは知らなかったので、試しに計算してみたら、1歳半が44年と若過ぎたので、よしなに調整したら、1日は1ヶ月と10日ほどとなった。
2歳が、人間だと約76歳。
ちょっと若いけれど、こんなもんかな。

霖はまだ1歳4ヶ月半と、手術をするにはかなりぎりぎりな月齢だ。若いけれど、手術で寿命が縮むかもしれない。痛み止めは、効き過ぎて死んじゃうかもしれないので、出されない可能性がある。
痛い痛いと思いながら死んでゆくのだろうか。
せめてそこだけでもなんとかならんもんか。

腫瘍を引きちぎるほどの痛みや、大きな腫瘍を引きずりながら弱っていくのは、なんとかならないだろうか。それは飼い主のエゴだろうか。

霖は、りゅうやこたろうみたく異常に長命で生命力の強い個体ではないので、ごく普通の寿命が本来の定命だと思う。
だいたい2歳半といいたいところだが、多分2歳前後。それでも長生きだと、動物病院では言われる。

せめて2歳まで。邪魔で、いずれはじけてしまうかもしれない腫瘍を抱えて、来年の6月まで生きるためには、どうしたらいいのだろう。
人間に直すと22年を、どう生かすか。

こいつらは、結局、1日でも長生きして、おいしいものをたくさん食べたい、という欲求だけは、すごくよく伝わってくる。

加えて、霖は、男子高校生みたいな面倒くさい性格で、自分の部屋が大好き。おやつをあげても、急いで帰って、うちでゆっくり食べたがる。
腫瘍をみせろと腹を探ったら、血が出るほど噛まれた。DVだ。家庭内暴力だ。
部屋を勝手に掃除されるのも嫌いで、すみかの一部は自分で掃除する。
なんだよ、いちいち構うなよ、と言わんばかりである。

結局のところ内弁慶なのだが、そいつに手術を受けさせると。
通院だけでも大ショック受けて、キャリー内でおろおろして、なだめるために手を入れた人間の指を噛んだりしていたのに。

手術して、成功して、楽になって天寿を全うする。
もしくは、腫瘍はあるけど大したこともなく日々を過ごして、天寿を全うする。
後者は望み薄だ。
私だったら、あと22年、激痛の走る腫瘍に苦しみながら耐えられるか。
そんなの、できればない方がいい。

だめだ、判断つかん。
院長先生に相談だな……。

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