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私の考える球数制限②

キューバで目の当たりにした光景

プロ入りしてからの私は毎年12月に約2週間渡米し、トレーニングやリハビリ、MLBのシステムを学んでいました。

その当時90年代、プロは存在しないものの、野球で世界一と言えばキューバというイメージがありました。そこである年のオフシーズンに、アメリカ入りをする前にぜひ行ってみようということで、2週間キューバに勉強に行ったのです。

現地では、小学生低学年→高学年→中学生→高校生→大学生→キューバリーグ→ナショナルチームと各カテゴリー別に順を追って勉強させて頂きました。この国ではまず各カテゴリー別の指導者としてのライセンスを取得しなければ、選手を教えることはできません。そしてそのライセンスも容易には取得できません。首都ハバナにある名門ファハルド国立体育大学で、徹底的に教育を受け、試験を受けて合格した人たちのみがコーチになれるのです。そして難関を突破したコーチたちは、練習方法や試合での工夫を考えて実行するのです。

最初に小学生低学年の練習試合を見に行ったのですが、もちろんここでも小学生低学年用のライセンスを持ったコーチが子供たちに野球を教えます。つまり成長期の子供、特に低学年の子供たちの身体と心の成長などをしっかり学んだ指導者達です。

その指導者たちが各々考えた練習方法や試合のルールはどんなものだったか、といいますと、それはどこか閉鎖的なイメージのある社会主義国家のものとは思えない内容でした。私は低学年の2つのチームを見たのですが、両チームのコーチは、まずは野球で思いっきり「遊ばせること」を最優先していると言っていました。

そこで見た試合は驚くことばかりでした。まず私が見た試合では、捕手が通常の位置にではなく、3m程後ろに中腰で構えています。となると、審判はどこにいるかというと、なんと、マウンドの後に片膝を着いて、投手の後から打者方向を見ています。審判はこの方一人のみ。

なぜ捕手がそんなに後ろに構えているか?というと、これには投手の子供に全力で投げさせないという配慮があるのです。捕手が定位置で座っていると、思わず力を入れて投げてしまうのですが、これではフワっと投げてストライクゾーンを通して、ワンバウンドで投げるしかありません。当然、盗塁は禁止です。ちなみにキャッチャーもピッチャーにフワァっと投げてワンバンで返球していました。

そして、何と言ってもストライクゾーンがビックリするほど広く、もはや野球のルールに則っていないレベルです。バットの届くところはほぼ全てストライクと言っても過言ではないのです。

このルールでは子供たちは全力で腕を振りません。そして、ストライクゾーンが広いので、球数も相当減るわけで、まさに一石二鳥です。驚いたのはこれだけではありません。なんと、1イニングごとにピッチャーが変わるのです。他のポジションも毎イニング交代していきます。

このように、キューバでは全員が投手を経験でき、これくらいの年代は、軽く投げて、だいだいこれくらいのところに投げられればOKという緩く広い考え方を採用しています。

余談ですが、こういうことも影響してか、キューバでは基本的にピッチャーは人気ポジションではなく、ショートこそ国民的スーパースターが守るポジションとなっています。

さて、日本の球数制限を反対する人の中に、投手が複数いないからという意見がありますが、このキューバの方法なら長い目で見ると複数の投手育成にも役立つのではないでしょうか?

また、球数制限の話とは離れますが、この試合では別のことで驚いたことがありました。バッターで右利きの子供が1打席目に右打席に立ち、2打席目には左打席で打たなければならないというオリジナルルールの存在です。これは以前、お話しした子供の頃は複数のスポーツを経験する事の重要性に繋がります。

いろんなポジションを経験したり、左右の打席に立ったりということは、必然的に色々な身体の動かし方を学ぶことになり、複数のスポーツを経験したことと同様の効果があります。こうすることで子供たちの巧緻性という能力を上げてくれるのです。

どうでしょうか?日本の少年野球の現状とはかけ離れていますよね。ちなみにこの話は、1996年の話です。社会主義の国で23年も前に既に実践されていたことを、今、私はこの日本で参考にしましょうと言っているのです。ちょっと悲しい現実ですね。(続く)

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