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GLIMPSE GROUP LIVE       『Her Waves』レコード発売企画     9th Feb.2023 @下北沢THREE


ライブハウスの入り口
少しの緊張と高鳴る期待

下北沢THREE


「久しぶり〜」
「今日は早いね!」
常連客らしい連中が笑顔でグラスを合わせる。
21時すぎ、下北沢駅から徒歩約5〜6分、地下にある会場に入った。明日は雪予報が出ていて、風の冷たい夜だ。
このような小さなライブハウスに来たのは約20年ぶり。初めてのハコということもあり、中に入ったが勝手がわからず、入り口付近にボーッと突っ立って辺りを見回していた。ビールを飲みながら客層を観察すると、やはり、みな若い。私(45)が最年長ではないか、本気でそう思った。客入りは盛況で、パーソナルスペースは、限りなく狭い。私は、ビールを口にする時以外は、マスクを外さなかった。周りの客は、ほとんどが顎マスクで、みな思い思いのアルコールを飲み、音楽に体を揺らしたり、会話に興じたりしている。この辺りの光景は、20年前も今も全く変わっていない。入り口の扉が開くたびに、すぐ外にある喫煙所の匂いが入り込んでくる。昔はタバコで煙っていたライブハウスも、現在はハコ内禁煙。時代。
さらに昔は革ジャン革パン、ブーツ、腕や首筋にタトゥなどのお決まりが結構いたが、下北沢という立地のせいか、いたって普通の格好の客層しかいない。

DJブースもステージの反対側に併設されている
客入りの良さがわかる


目当ての「Glimpse Group」の演奏はまだ始まらない。入ってすぐ右手がBARになっていて、この日2本目のビールをオーダーした。

BAR前も多くの人で埋まっていた
客足が離れた一瞬を撮影した
ハートランド中びん(500cc)
900円

左手にぐるりと回り込むとステージがある。ステージを見るグッドポイントに行くには、必ずステージ前を横切らないとならない。変わった作りのライブハウスだ。
私はステージ向かって左側、塚田さんの前あたりの位置をキープした。

リハーサル前、機材のセッティングをするメンバーたち
リハーサルのサウンドチェック中の塚田さん

21:30、ライヴが始まった。


今回のイベントは、バンド初のEP(シングル以上アルバム未満、呼び名はアナログレコード時代の名残)リリースに合わせてのもの。本来は昨年末に開催される予定だったが、メンバーが流行病に罹患した理由で本日振替公演となった。演奏も、当然このEPからの選曲がメインとなる。

熱を帯びたライヴがスタート


1曲目の『Paradise』から会場の熱が一気に上がる。このライブハウスTHREEは、キャパ170を謳っているが、私の感覚だとそんなに入ったら、全く身動きできない状態だと思う。この日は平日木曜の夜にも関わらず、100人は入っていたと思う。これ以上入ると、常に前後左右に他人の存在を物理的に感じることになり、窮屈さが際立つ。混雑による不快と快適のギリギリのラインだ。外国人女性も数名いたし、コロナの世界の出口を、私ははっきりと感じ取ることができた。
2曲目の『Her Waves』は本当に気持ちのいい旋律で、タイトル通り、会場全体が右に左に揺れるのがわかる。
4曲目、今夜最初のハイライト。Glimpse Group初期からのキラーチューン『Singer』のイントロが響いた瞬間、会場はさらに高い熱量を帯びたハコに変換されていく。

会場のヒートアップは加速していく

ライヴだ。このバンドの良さは、やはりライヴにある。計算とアドリブのギリギリのバランス。これは、ライヴでこそ本当の魅力を味わうことができる。
ギターボーカルは圧倒的なカリスマ性で、会場を煽る。彼に合わせて、腕を振り上げる観客も多い。
ターコイズカラーのギターは、澄み渡る高音を発し、このバンドの演奏の気持ちよさ、の中核をなす存在だ。
ドラムは時に立ち上がり感情を爆発させ、曲によっては郷愁を誘うリズムを会場全体に与える。
みな、キャラがはっきりと立ち、このバンドが放つ、このバンドにのみ起こすことのできる科学反応に影響を与えている。曲の合間に、何の合図もなく始まるジャムセッションは、気づけば背筋にゾワっとした快感が走る。
ボーカルもギターもドラムも、どこかへ飛んでいってしまう危うさに溢れている。そんなバンドの中にあって、ベーシストの塚田さんの役目は、深夜の滑走路を照らす、橙色の目印灯だ。船にとっては灯台。他メンバーは、彼がいるからこそそれぞれのキャラを遠慮なく出すことができるのだろう。戻るべき場所を常に照らし出す安定したベースが、曲を、そしてバンド全体をうまくまとめている。
終始うつむき加減で、忠実に演奏を続けるベーシスト。手にする楽器もアースカラーで無主張。彼は実際、周りのメンバーを活かすためのプレイを心がけている、前にそう話してくれた。唯一彼が一歩前に出るのは、コーラスの時。絶妙のタイミングで発するコーラスは、曲の輪郭を際立たせていた。

前を見ることも、客を煽ることもしない塚田さん
彼の人柄がステージ上でもはっきりと出ている

アンコールの『Foolish Heart』を含め、全9曲。約1時間のライヴだった。気づけば途中でビールを飲むことも忘れ、ライヴに集中していた。ぬるくなったビールを一気に飲むと、不思議と幸せな気分になった。
いいライヴだった。Glimpse Groupの魅力をしっかりと感じ取ることができたし、何より、楽しかった。

この夜のセットリスト
発売されたEPに収録されている曲は全て演奏された
会場内で販売されていたCDとステッカーを購入した

ライヴ終了後、ステージ上で片付けを始める塚田さんに挨拶がてら話しかけると、今までのクールな表情から一転、急に人懐っこい笑顔に変わる。CDとステッカーを購入したことを伝えると、本当に嬉しそうに何度も頭を下げる。この地の部分こそが、塚田さんの魅力だろう。

予想の上。

ある程度、予想はできていた。分かってはいた。いいバンドなのだろうと。
気持ちよく裏切られた。予想の遥か上。
かっこ良かった。すげーよ。ずっとループして聴いてるもん。買ってきた4曲入りのEP。
ちなみに、普段は海外アーティストばかり聴いている私。日本人アーティストのCDを買ったのは、実に22年ぶり!The High Lowsのシングル『十四才』以来だ。
いつか、もっと大きな会場で見たいと思うと同時に、まだまだ多くの人に見つかっていない快感を併せ持つ。
Glimpse Groupのライヴを経験して、私は、彼らの1ファンとなった。ただ、それだけの夜。久しぶりの耳鳴りが、妙に心地良い帰り道。月が、綺麗だ。


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