見出し画像

あかるい未来を考える場 〜 SXSW2019に行ってきた

3月8日〜17日まで、テキサス州オースティンで開催中のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に行った。出展ではなく会社派遣の視察として。

サウス・バイ・サウスウエスト(英語:South by Southwest、略記:SXSW)は、毎年3月にアメリカ合衆国テキサス州オースティンで行なわれる、音楽祭・映画祭・インタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた大規模イベントである。(Wikipediaより)

注目すべきテクノロジーや事象が街中にあふれていた。これはその雑感。

疑似体験の解像度を上げる進化

最先端テクノロジーのお祭りと紹介されがちなSXSWだが、1月にベガスで開催されるCESが「リリース前の、手の届く明日のテック&ガジェット祭り」だとすると、SXSWは「いつか来てほしい未来の夢想とプロトタイピング」だ。…という切り分けは日本を発つ前に耳にしていたが、実際に来てみると半分その通りだなと思う。

半分というのは、SONY×NHKのによる圧巻の440インチ8Kシアターや、1月からアメリカで発売開始になったBose AR、2時間待ちの先に体験できたVRの数々などは、もうプロトタイプを超えて完成品としてプレゼンテーションされており、どっちかというとCESにピッタリなものたちにも思えたから。

…だけど、これらを単なるプロダクトそのものの紹介ととらえるとそれまでだが、ライフスタイルを変えるだけのポテンシャルを読み取ると、やはりこれはとってもSXSW的、「いつか来てほしい未来の夢想」が込められていると思えてくる。要はブツにどれだけの思想を読み取るか。

たとえば、家のテレビが4Kにもなっていない自分は8K(フルハイビジョンの16倍の解像度)なんて必要なの?と、その存在自体に懐疑的だったが、幅9.7m、高さ5.4mの巨大なLEDディスプレイを目の前にし、そこで8K映像が流れた瞬間、もうこれはテレビではなく世界中へ連れて行ってくれるあたらしい窓だな、と驚嘆した。会議システム、旅行、部屋、さまざまなもののデザインを変えるポテンシャルがある。

「バーチャルシネマ」ブースでのVRたちも、単なるVR体験を超えた上質な体験を目指していることが垣間見えた。上下左右に傾くことで重力を感じさせるソファとセットにしたシステムは、体験の解像度を上げる工夫として真っ当で、やってみるととても良かった(2時間待ちなのがツラい)。

ただ、『レディ・プレイヤー1』の世界はまだまだ先になりそう。

ピンキリのトレードショー

スタートアップの登竜門ともいわれるトレードショーでは、荒削りだけどたしかに実現したら素敵なプロトタイピングや、「あとはホワイトナイトさえ現れたら量産化できるんです!」というところまで来ている夢の素材なんかが展示されていて、見ているだけでパワーをもらえる(ただの視察でほんと申し訳ないとも思う。だって「どこから来ましたか?」と聞かれて From Japan, XXXX←社名 と答えるとあからさまにガッカリされるから。ホワイトナイトじゃなくてごめんなさい)。

だけど広大なコンベンションセンターの会場で「え?これってもう市場にありますよ、しかももっと完成度の高いのが」と思えるものや、「これって使用者を想定してインサイトから発想してるのかな?単にSXSWに出展するためにこしらえただけなのでは」と思えるものも、けっこうな数、見受けられた。モヤモヤしたのも事実で、やっぱ調査って大事。

弊社も出展していて、手前味噌もいいところだけどさすがのクオリティだった。展示はシンプルにお金をかけたものが良くなる。また、1年前の出展からさらに完成度を高め、2020年のリリース予定と聞くと、やはり継続は力なのだなと思った。

東大のプロジェクト「TODAI TO TEXAS」も面白かった。「東京大学の学生は賢いというより、変わっています。そんな学生たちが輝ける場所こそがSXSWなのです」とForbesの記事にあるとおり、アイデンティティをもった出展者は意図が明快で見やすい。

逆に出典意図が不明瞭な、何がしたいの?目立ちたかったの?と思える出展者は見ていてしんどいのだが、「それでもまあいいじゃん、面白いかどうかは見る側が勝手にジャッジするわ、それよりも楽しもう」という寛容さもこの場にはある。

いちばん良かった電動キックボード

オースティンはサンフランシスコなどと同様に電動キックボード(Electric Scooter)が導入された都市だ。スマホアプリからQRコードを読み取るだけでキーが解除され、最高時速25キロ(!)で走り、どこでも乗り捨てOK。坂道でもぐいぐい登るハイパワー。

コンベンションセンターを中心にさまざまなホテルや特設ブースで展開されるSXSWの巡回には、10分近くかかる徒歩を電動キックボードにするだけでずいぶん時短になった。

乗っている感覚はドラゴンボールのタオパイパイが柱に乗って移動するアレに近い。

だけど現地のUberドライバーに言わせれば

「このSXSW中に2人死んでるよ。道を知らない外の人間が気軽に乗るから交通ルールも守らないし、危なくてしょうがない。けっこう前歯や腕を折ってる人も多いよ」

とのことで、え、2人も死んでるの…?と冷や汗をかきつつ、この気持ちよさはやみつきになった。

Uberが展開する「JUMP」はヘルメットの貸し出しもしている。誰も使ってなかったけど。

実際、SXSWの展示やセミナーよりも、この交通インフラの進化に未来を感じた。ちょっとした移動にマイカーやタクシーを使う人が減り、排気ガスの削減も期待できる(と、オースティン市も見込んでいた)。

同時に湧き起こる安全面の問題。視覚障害者にとっても脅威だろう。日本だと実施前に問題を恐れてしまい、今後も解禁されることはないかもしれない。車道に自転車専用レーンがない道ではたしかにちょっと怖い思いもした。しかしライドシェアや電動キックボードから世界の交通生活は激変していく。日本は相変わらず徒歩かよ、と言われる時代も遠くない。

雑感まとめ

会期中、Googleのオースティンオフィスにもお邪魔させてもらった。そこで伺った取り組みは非常に興味深く、好きに飲んでいいドリンクのなかにあったグリーンジュースはとても美味しかった(別の機会にまとめるかも)。

SXSWは、個々の事案は荒削りなものも多い。だからそれらの「点」が集まって、どのような「波」を形成しているのか、人々の欲望はどこへ向かっているのかを夢想し、観察するのが楽しい。

視察団としてこれから記憶の鮮明なうちにレポートをまとめ、発表していきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?