「組長、課題は攻撃です」&渡邉監督の作る仙台の組織的な6バック~浦和対仙台 レポート~[2019J1リーグ第18節]

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6月のキリンチャレンジカップや、コパ・アメリカがありましたので、しばらくJリーグのレポートは書いていませんでしたが、久しぶりにJリーグの試合を取り上げたいと思います。今回18節から取り上げるカードは、浦和レッズ対ベガルタ仙台です。オリヴェイラ政権不調により昨シーズンに続いてシーズンの途中から監督に就任した「組長」こと大槻監督率いる浦和と、渡邉監督がハンサムで思慮深そうな見た目通りの組織的なチームを作り上げている仙台という両チームの埼玉スタジアムでの試合です。

試合は、仙台が固い守備を構築する中、42分に縦パスを受けた武藤がターンで2人を置き去りにしてスルーパスを出し、抜け出した興梠がループシュートを決めて浦和先制。リードされたものの互角に戦っていた仙台ですが、後半の早めに椎橋が退場し、守備に重きをおかざるを得なくなって追加点を取られることは無かったものの、ゴールを奪えず1-0で浦和が勝利。

この試合の中で読み取れた、タイトルにもしたように組長率いる浦和の課題が「攻撃」である理由と、仙台の組織的なチーム戦術、そして伸びしろについて書いて行こうと思います。

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スコア 浦和レッズ 1 : 0 ベガルタ仙台

浦和レッズ 42’興梠

序章 スターティングメンバー

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まずは両チームのスタメンから。ホームの浦和は、前節の大分戦からは大きくメンバーが代わっていて、3バックの右は鈴木ではなく岩波、左WBは山中ではなく宇賀神、2ボランチは長澤と青木。2シャドー+CFの3枚は全員変わっており、マルティノス、ナバウト、杉本からエヴェルトン、武藤、興梠の3人となりました。

アウェーの仙台は、蜂須賀に代わって右SBは大岩が務めます。それ以外は前節の札幌戦と全く同じメンバーの4-4-2です。シントトロイデンへの移籍が決まっているシュミットダニエルが守護神です。

第一章 仙台の組織的な6-2-1-1の守備

では試合を分析していきます。最初はアウェー仙台の守備戦術から。失点を喫したものの、固いブロックで浦和の攻撃を停滞させていましたが、その守備がどのようなメカニズムだったのでしょうか。

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4-4-2の完全なゾーンディフェンスで、プレッシングはかけず守備的プレッシングで自陣にブロックを組んで構えます。(浦和の方は19分にエヴェルトンが負傷し、ファブリシオが入ったため、ファブリシオが左シャドーに入った状態で話を進めます)

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上図に示したものは序盤に見られたシーンですが、仙台の第一PLは2枚なので、相手の3バックに対して数的不利であり、一人フリーが生まれるマッチアップになっています。その2トップの脇を相手CBに使われそうになると、SHが出て行ってプレッシャーをかけ、瞬間的に3対3の状態で守備を行い、そのSHに連動して後ろのSBが幅を取っているWBへのパスを狙う、というプレッシングを見せていました。

しかし、

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仙台の第三PL(DFライン)は4枚なのに対して、浦和はWBを高い位置に上げていますので5トップとなっています。なので、仙台からすると4対5の数的不利。

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ですから、↑のように単純にSBが相手WBに出て行ってプレッシャーをかけると、その一人のフリーを使われ、マークがずれていって崩されてしまいます。

なので、単純にSH、WBが前に出て行く守備をすると、ピンチを招いてしまうわけです。ですが、仙台は試合を通してこの守備をしていたわけではありません。序盤こそ何度か上記のようなシーンが見られたものの、本当の守備戦術は、違ったものでした。

それがこちら↓

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「SHが下がって相手WBをマークし、6バック状態で守る」というのが仙台の渡邉監督が準備してきた守備戦術でした。

第一PLは2対3の数的不利のまま守備を行い、特別な守備のタスクは任されていません。そしてSHが下がって幅を取っている相手WBをマークし、6バックを形成します。SHが下がって相手WBをマークしてくれることによってSBはタッチライン際に出て行く必要が無く、内側に絞ってシャドーの選手をマークし、ライン間IRをケア。これによって、ゴール前の密度が高い、スペースを極限まで消したブロックになり、相手の5トップに対して6対5の数的優位で対応できる。対人守備では、後ろにはカバーの選手がいるし、スペースも消しているので足を出して奪いに行かず、ディレイしてスピードがある状態でプレーさせないような対応をする。

このような、全体の重心を後ろ方向に向けた、最後尾で相手の攻撃を跳ね返すことを狙う守備戦術でした。

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加えて、押し込まれたときには、左CF石原が下がってボランチ前のスペースを埋めますので、6-2-1-1システムとなっていました。

ここまでのように、後ろに人数を割いたブロックで、確かに固いブロックを組むことはできていました。しかし、このような守備戦術で困るのは、「奪ってからどうカウンターに持ち込むか」というPT(ポジティブトランジション)の問題です。後ろに多くの人を配置し、引き込む守備をしていますのでどうしても敵陣ゴールが遠くなり、最前線のCFが孤立状態に陥り、奪っても上手く攻撃に持ち込めず、クリアばかりになって守備の時間が長くなる、ということが良く起こります。

では仙台の場合はどうでしょう↓

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ゴールへの距離は遠いのですが、ボールを奪えば最前線にはターゲットとなれる長沢がいますのでそこにロングボールを送り込むことが出来ますし、長沢の近くには相方の石原がいるので落としどころもあり、孤立しない。SHはロングスプリント、ドリブルが出来る(この試合では関口、道渕)ので、飛び出して行って厚みを加えることが可能。

このようにロングカウンターに適している選手がしっかりと起用されているので、仕方なしのクリア→回収される→また守備という循環に陥ることなくカウンターに持ち込むことが出来ています。この試合はそのようなロングカウンターはあまり見られませんでしたが、他の試合ではスピーディーなカウンターを見せていますし、仙台にとってカウンターは大きな武器の一つです。

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また、この試合では53分に椎橋が二枚目のイエローカードで退場してしまい、残りの40分近くを10人でプレーすることになったのですが、ドン引きになるのではなく、ハイラインを保って、勇気を持って戦っていました。

仙台はここまで書いてきたようにとても組織的で論理的な守備からのロングカウンターという戦術でプレーしているチームですので、そこまで順位が高いわけではありませんが、後半戦期待でき、楽しみなチームの一つと言えます。

第二章 攻撃戦術はまだ未熟な点アリ

では次に仙台の攻撃戦術についても見ていきましょう。

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相手の浦和は、自陣に5-4-1ブロックを組んで構える守備をしていました。

ではビルドアップについて。

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これはチームとしての狙いかは分かりませんが、2CBはサイドに開かず、CB同士の間の門を閉じてカウンターを警戒しておき、ボランチがCB脇に下がり気味でパスを引き出し、ボランチがCF脇を使おうとしているのかな、というように見えました。

前述の通り渡邉監督の狙い、アイデアであったかは分かりませんが、もし狙っていたのであるなら論理的なアイデアだと思います。なぜなら、相手CFの興梠はとてもクレバーで動き出しの上手い選手ですから、ボールを奪われたときにCBの間が開いていて、そこにスペースがあれば見事にその間を突かれて抜け出されてしまいますので、致命傷になりかねます。ですから、カウンター対策のためにCBの平岡、マテは中央に留まって間を閉めてボランチがCB脇に下りてくることによってCF脇を使って攻撃する。

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しかし、そこから次のプレー原則は読み取れず。ボランチがCF脇を突いて、そこからライン間に縦パスが入り、攻撃のスイッチが入ってSBのオーバーラップを使ってクロス攻撃へ、というようなプランがあれば、最高でした。

もしもそれがもう一段階先の、縦パスを入れるところまで落とし込まれたアイデアだったなら、相手FWの特徴を考え、リスク管理をしつつ、他の選手が使いたいスペースを使い、チャンスを作り出す、という論理的なアイデアで、プレー原則だったと思います。

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また、ショートパスでのビルドアップだけではなくて上図のように低い位置からシンプルなロングボールを空中戦に強い2トップに送り込み、その落としを拾ってスピードアップ、という攻撃を多用していました。セカンドボールを拾えるポジションに味方がスムーズに入れているし、単純に2トップ(特に長沢)は空中戦に勝っていましたので、効果を発揮していました。

では、ここから攻撃の課題について。

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左SH関口が、ライン間左IRに入っていくシーンが多く見られ、その関口に縦パスが入るシーンもありましたので、良い味を出していました。

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しかし、関口がIRに入って行った時にSB永戸はポジションを上げていなかったのでライン間ORに立って幅を取ることは出来ていませんし、右サイドはSH道渕がIRに入っていくシーンはなく、OR(大外レーン)でSB大岩と縦並びになっていました。これから分かるように、SHがライン間IRに入ることに対するチーム全体のオーガナイズはされておらず、せっかく効果が出ていた左SH関口のライン間IRに入っていく動きを上手く活用出来ていませんでした。

こちらもビルドアップにおける「2CB中央閉め&ボランチがCF脇利用」と同じですがSHがライン間IRに入って、SBが連動してポジションを上げて幅を担い、6トップ化することで相手の第三PLに対して数的優位を獲得。それによってフリーの選手を作り出し、縦パスを入れて直接シュートもしくはSBに展開してのクロス攻撃、縦パスを仄めかして幅を取っているSBにパスを出して内側にスペースを生み出してアタッカーに渡してフィニッシュに直結するプレーをしてもらったりSBがドリブルを仕掛けて抜いてターゲットとなるCFにクロス。というように崩すにあたる可能性が広がり、効果的に攻撃することができます。

シンプルなロングボール戦術はそれなりに効果を示したわけですから、ビルドアップでの「2CB中央閉め→ボランチのCF脇利用→縦パス」や、「SHライン間IRにIN→SB上がって幅を担当→第三PLに数的優位獲得→効率的にチャンス創出」という論理的な、相手の急所を突いて崩していくプレー原則を落とし込むことが出来れば、守備は整備されていますし日本代表に多くの選手が名を連ねるようなタレント軍団ではないとはいえ、実力がとても拮抗しているJリーグですからもっと上の順位を目指せると思います。ましてや、守備では論理的な戦術を落とし込んでいる渡邉監督ですから、期待できます。

第三章 浦和を率いる組長は攻撃にも着手できるか

ここまで仙台の戦術分析をしていきましたが、今度は浦和について。その中でも、攻撃戦術について書いて行きます。守備では、前任のオリヴェイラ監督が率いていたチームでも、そこまで失点が多かったわけではありませんでしたし、大槻監督に代わっても、大きな変化はなく、5-4-1でブロックを組み、攻撃時はシャドーを務める武藤、ファブリシオらアタッカーもしっかり守備に参加する組織的なプレーが出来ています。しかし、問題は「攻撃戦術」です。

攻撃に関しては、組織的に未熟で、手詰まり感を露呈していましたので、今回はその部分について言及します。

まずは、今回対戦した仙台の守備の狙いどころを下図に示します。

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相手はSHが下がってWBをマークしているため第一PLに対しては3対2の数的優位です。そして、狙うべきポイントは下がっているSHの前(ボランチの脇)です。SHは第三PLの一部となっており、相手の第二PLはボランチを務める2人だけ。ですから、下がっているSHの前、別の言い方をすればボランチの脇が空いてくるわけですね。

そのSHの前を相手2CF脇からサイドCBが持ち運ぶことで利用し、数的優位をよりゴールに近いエリアに持ち込むことが出来れば、相手のマークはずれますから、それによって空いてくるスペース、味方を使うことで崩す、ということが崩しのポイントを突いてゴールを奪う方法となります。

では、このポイントを踏まえたうえで実際の浦和はどのような攻撃を見せたのか。それを見ていきます。

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まず注目していただきたいのは左側の「実際の浦和レッズの攻撃」です。先ほど、僕は狙いどころはSHの前だから、サイドCBが相手2CF脇から持ち運んでSH前を突くことで相手のマークをずらして崩せると書きました。しかし、実際の浦和にはサイドCBの持ち運びは全く見られずSH前を使って攻撃し、チャンスを作り出すことは出来ていませんでした。これに関しては「相手の守備を崩す攻略法を持っていなかった」で済ますことが出来ますが、それよりも根本的な大問題が生じていました。

それが、「2人しかボールに絡んでいない」問題です。相手は引き込む守備をしていますからある程度高い位置までボールを運ぶことは簡単にで可能です。ですが、そこから崩すためには何らかの工夫が必要です。しかし、浦和は「ボール保持者+もう一人」の二人の関係で常に攻撃しています。

それがなぜ悪いのかと言うと、二人の関係ですと、相手からすれば保持者からのパスコースは完全に限定されます。「もう一人」へのパスですよね。ですから、相手の意識を分散することが出来ません。パスを出すと分かっているところにパスを出しても相手は混乱しませんし、相手の守備陣形は崩れません。なので単調なプレーが続き、パスのテンポが上がらないので、ほとんどチャンスを作り出せていませんでした。

ではそれをどう改善しましょうか、というところで図の右側に「浦和レッズの改善案」を示しました。これは浦和でなくても同じですが、二人だけの関係で攻撃しているなら、それ以上の人数で攻撃すれば良いわけです。ボール保持者+二人の三人の関係(四人でもとても良い)で三角形を構築して攻撃すれば、相手の意識を分散させることが出来ます。右サイドの選手の名前で例を挙げれば、「長澤へのパスコースしかない」なら、相手の意識は分散されず、橋岡→長澤という流れに意識を集中させることが出来ますが、「長澤と武藤へのパスコースがある」と、相手は、橋岡→長澤と、橋岡→武藤の二つのパスに意識を向け、気にする必要があります。二つ気にしなくてはいけないので、どちらかに目を向けて狙い撃ちしたりすることは出来ない。

攻撃側の浦和からしても二つパスコースがあり狙い撃ちされないのでテンポよくパスが回りますし、テンポよくパスが回るため相手は守備の陣形を動かし、寄せるなりスライドするなりしなくてはなりませんから、その中で生まれるスペースであったりパスコースを上手く活用すれば相手のブロックの中に進入し、崩せる。

というように二人ではなく三人(四人でも)が絡んで攻撃することで相手のブロックの中に進入するタイミングを作り出すことが出来ます。しかし、それが浦和には出来ていなかったので相手が退場者を出して10人なった後もずっと攻めあぐねたのです。

浦和は大槻監督に代わった後も、それほど目覚ましく成績が向上しているわけではないですから、この問題を放置しているとどんどん順位が落ち、低迷したシーズンに終わるでしょうから、「三人以上が絡んで攻撃できるか」が大きなポイントを握ると思います。

終章 総括

仙台 守備
・SHが下がり、相手の幅を取っているWBをマークし、押し込まれたときには左CF石原も下がるので6-2-1-1で守備をしていた。
・SHが下がるのでSBは内側に絞ることができるので、シャドーをマークして5トップに対する数的不利を解消し、加えてライン間IRを埋めることが出来る。
・6バックのような後ろに8,9人を割く守備は、ボールを奪った時にゴールが遠すぎる→FWが完全に孤立して納まらない→クリアを回収される→また守備、という悪循環に陥りがち。
・だが、仙台は空中戦に強い長沢がいて、その近くに石原。そしてロングスプリント、ドリブルが出来るSHがいて、ロングカウンターに適した人選になっている。
・↑に加えて空いているスペースを突く確率の高さ、長沢が孤立しないための2トップの配置、という点を考えると、論理的なオーガナイズがされているカウンターだ。
仙台 攻撃
・渡辺監督の狙いであったかは分からないが意識的に2CBは開かず中央を閉めてCF脇をボランチが下りて受けることで利用する、ということをしているように見えた。
・↑が、さらに縦パスを入れてチャンス創出、という次の段階まで落とし込まれたアイデアであれば最高だった。
・シンプルな空中戦に強い2トップへのロングボール戦術は効果的。
・左SH関口が頻繁にライン間左IRに入って行っていた。
・↑は良いプレーだが、それに連動してSB永戸がポジションを上げ、幅を取っていたわけではないし、右サイドはそもそもSBとSHが縦並び。SHがIRに入る動きに対するチームとしてのオーガナイズはされていない。
・シンプルなロングボールは効果を発揮していたので相手の守備の急所を突き、自分たちでスペースを生み出し使って崩す攻撃が出来るとより良いチームになる。
浦和 攻撃
・相手の6-2-1-1守備の狙いどころは下がっているSHの前(ボランチの脇)。
・しかし、そのSH前をサイドCBが持ち運んで使う、というような相手の守備の攻略法は全く見えず。
・また、ボール保持者+もう一人の二人の関係で常に攻撃していたので、パスのテンポが上がらず、単調なプレーに終始し、攻めあぐねた。
・三人以上がボールに絡んで攻撃し、相手の意識を分散させ、相手を動かしてスペースを作り出し、ブロックの中に進入する、というプレー原則が必要。
・大槻監督に交代後も、そこまで成績は向上していないので、攻撃戦術の改善は今シーズンの大きなポイントだろう。

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