これでは3バックでも4バックでも、2バックでも。 ~日本対トリニダード・トバゴ 分析~[キリンチャレンジカップ2019]

アジアカップに代表チームへの強制的な招集権を使ったことで本来の主力が招集できなくなり、若手を大勢招集したコパ・アメリカの直前のトリニダード・トバゴ戦。こっちはベストメンバーで行くんかい、という感じで、コパ・アメリカに臨む若いメンバー同士の組み合わせを試すのではなく、コパ・アメリカには行かない、シュミット・ダニエル、昌子、畠中、長友、酒井、守田、堂安、大迫といった8人をスタメンに起用したメンバー。

そして、これまでは4-4-2(4-2-3-1)でしたが、3バック(3-4-2-1)を採用。この布陣で、トリニダード・トバゴと戦うことになりました。

しかし、結果は、0-0のスコアレス。メディアも3バックは機能しなかった、ということは書いていますが、ここでは、どのような現象が起きていて、どんな理由で機能していなかったのか、を分析していき、最後には、たくさんのメディアが書いている「大嘘」について言及します。

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前回のボリビア戦分析はこちら↓

スコア 日本 0 : 0 トリニダード・トバゴ

スターティングメンバー

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日本は、最初に書いたように、コパ・アメリカの直前なのに、コパ・アメリカに招集されていない8人がスタメン起用、という謎の11人。そして4-2-3-1ではなく、3-4-2-1を採用し、畠中、昌子、冨安の3CBで、CF大迫との距離がより近くなる、シャドーのポジションに中島、堂安が入りました。

トバゴに関しては、今回は日本代表の分析なので、あまり触れませんので、ややこしくなるかと思って背番号だけにしています。

第一章 戦術は皆無。3バックでも結局は一緒。

ではまずは、攻撃の分析から行きましょう。

最初に簡単にトバゴの方の守備について。

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トバゴは、4-5-1で、自陣にブロックを組み、プレッシングを行わず守備的プレッシング。

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なのですが、押し込まれたときに、WGが両方下がらず、前線に攻め残りし、相手の3CBに3トップが張り付いている、という異質な守備戦術です。

同じような守備戦術を採用している、リバプールでも、ここまではっきり3トップを残すことはありませんから、かなり割り切っています。

ですが、リバプールと大きく違う点は、WGに守備のタスクが与えられていないところです。

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リバプールは、上図のように、WGは、相手のCB-SBのパスコースをバックマークで切って、自分が攻め残り出来るように自分のマークでありSBにパスを出させず、パスコースを相手MFに限定して、そこに出させて物凄くデュエルに強い3MFで潰してカウンターに移行、という守備戦術です。

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トバゴは、WGは、前に出てCFと3枚で3CBにプレッシングをかけるわけではありませんでしたし、その他のタスクも与えられていませんでした。なので、WGはやることなく、浮いている、という状態でした。

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加えて、トバゴの方は、日本のボランチに対してIHが潰しにくることもなかったので、日本からすれば、ビルドアップに関わる3CB+2ボランチの5人は、プレッシャーを受けず、フリーでボールを持つ事ができていました。

ではここから、本格的に日本の攻撃を分析していきます。

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まずは上図のようなシーン。ボランチのパスを出す能力に優れている(特に柴崎は日本人トップクラス)、守田、柴崎がボールを持った時、ライン間のORにポジショニングし、幅を取っているWBがフリーになっているのに、そのWBの方よりも狭い、ライン間の大迫に縦パスを入れて、潰される、というシーンが多く見られました。

この守田、柴崎の二人は、前述のようにパス出しに長けていて、決して足元が苦手な選手ではなく、広い視野を確保できているはずなのに、なぜ狭い方に何度も縦パスを入れていたのか。

実はこのシチュエーション、図にも書いたのですが、今年の1-2月に開催されたアジアカップで、何度も見られたものでした。

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これは、日本対カタールの分析で使用した図ですが、相手が多くの人数を割いていて、スペースを縮小しているライン間に縦パスを入れて、奪われる、というシーンが、全6試合で何度も見られました。確かにパスコースとしては空いているのですが、明らかにサイドに出した方が、相手から受けるプレッシャーは少ないし、スペースもある。

なぜこのようなことが起こったのか、と言うと、やっぱりプレー原則が落とし込まれていないからだと思います。

柴崎のような選手であれば、狭いライン間に正確に縦パスを通す技術はもちろんあると思います。ですが、それが点を取るために正しい選択なのか、というと、必ずそうというわけではない。

1 チームのゲームモデルとして、狭いライン間から突っ込むのではなく、
サイドから攻撃した方がスペースがあって効果的なので、
サイドに展開して、幅を使って攻撃したい。
2 1を達成するために、ボランチが持てばまずサイドのWBを見る。
3 そして、WBにパスを出せるならそこを優先する選択肢とし、そこに出す。

↑のように、チームとしての攻撃のゲームモデルがこうなので(このように攻めたいので)、そのためにこのプレー原則の下でプレーしてね、という流れで、プレー原則を落とし込めていれば、狭い中央から突っ込むプレーは無くなると思います。

ですが、今回のトバゴ戦でも、同じシーンが見られていることから、アジアカップで見られた課題が、全く解決されていない、ということが分かります。

では次にサイドアタックの分析。

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まずは左サイド。中島は、スタートのポジションは内側なのですが、タッチライン際でパスをもらって、そこからカットインしていくプレーをしたい選手なので、タッチライン際に開いてパスを受けるシーンが多くなっていました。

その中島のパスを受けた位置や、ドリブルで運んでいる位置によって、WBの長友は、上手く外側から追い越すオーバーラップと、内側から追い越す(IR裏へのランニング)インナーラップを使い分けて、中島と良い連係を見せていて、中島カットイン→追い越した長友にスルーパス、という流れでチャンスを作っていました。

そして、中島は、試合を見た方なら印象に残っていると思いますが、何度もカットインからシュートを放って、存在感のあるパフォーマンスを見せました。

次に右サイド。

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右サイドは、左サイドよりもよっぽど酷かったです。ライン間のORで酒井が持って、相手左SBを引っ張り出し、IRのスペースを広げても、IRにポジショニングしている堂安には、コンビネーションを発揮したり、カットインシュートに繋げるために足元にパスを呼び込む動きや、IR裏でスルーパスを引き出すランニングも見られず、相手左SBを引っ張り出して、IRを広げても、その次、崩しきるところまで到達できませんでした。

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また、相手左SBが出てこないで、迎撃する守備をしたときに、酒井が前方のスペースを縦への仕掛けで生かすプレーも見られませんでした。酒井が仕掛ければ、相手左SBは寄せなければなりませんので、IRが広がるので、運んでからIRのスペースを堂安に使わせる、という選択肢も生まれるわけです。

このように相手が寄せてきたらIRの堂安に渡す、寄せてこないなら仕掛けて、選択肢を広げる、というとてもシンプルなことです。相手の判断によって二つ(渡す、仕掛ける)の選択肢の中から選んでプレーする、要は岩政大樹さんの本(読みました!!)のように、「相手を見て」プレー判断を変えていくことができれば、崩すことができたわけですが、それができたシーンはほとんど無かったと思います。

これも、プレー原則が設定されていないから生じた問題でしょう。前述のように、相手が寄せてきたらIRの選手へ、来なかったら仕掛ける、というプレー原則を落とし込んで、出し手受け手双方が理解を共有できていれば、この試合のように幅を取ることは出来たけど、そこから先に全く進まない、という状態に陥ることはありませんでした。

では次に、足りていなかった「攻撃参加」について。

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ゾーン3でボールを持った時に、ボール保持者と、サイドCB、ボランチとの距離が遠く、サイドCB、ボランチはサポートに入って、パスコースを提供することができていませんでした。

なので、WBとシャドーの二人の関係で崩せなかったとき、パスを下げると、大きくボールの位置が下がり、もう一度組み立て直しになってしまいますし、この試合の相手、トバゴではそんなことはありませんでしたが、ラインを上げられ、コンパクトなブロックを組まれてしまいます。

また、この試合に関しては、相手のトバゴが引いていたので、人数をかけて攻撃をしたいところでしたので、サイドCB、ボランチの攻撃参加が必要でした。この試合で言うと、サイドCBに関しては、相手が3トップ全員を残していることもあり、上がると残りの2CBが2対3の数的不利に陥り、大変なリスクを負うことになりますので、ここからはボランチの攻撃参加の場合で攻撃参加の例を提示します。

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まずはメリットから。ボランチが高い位置で絡むことで、パスコースが増えますし、ボールエリアに数的優位を生み出す事ができます。

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そして、例としては、まず左の守田の方から触れると、逆三角形の頂点となり、中継点となってパスを受け、縦パスを入れて、コンビネーションに繋げる。そして右の柴崎の方は、逆三角形の頂点としてボランチのプレーエリアから大きく離れずにプレーするのではなく、ダイナミックに前線に飛び出して行ってスルーパスを引き出したり、エリア内に入ってクロスの受け手となる。

このように、もっと後方の選手が高い位置でボールに絡んでいくことが、攻撃に厚みと意外性を加えますし、これから始まるW杯予選で戦う相手の中でどこかは必ずやって来る「引いて守る」守備を相手にしたとき、この攻撃参加がキーを握ります。

最後に、「プレー原則がない」を象徴する現象を紹介します。

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80分の原口投入後に何度も見られた現象です。左サイドで張っている原口にパスが入るのですが、そこからのサポートが全くないので、選手たちも可能性が低いことは確実に分かっているハイクロスを入れて、相手に跳ね返される、という単調な攻撃に終わる。

ここでも、先ほど紹介したボランチの攻撃参加で、逆三角形を構築する、というプレー原則があれば、原口も自分で仕掛けるだけではない選択肢が持てますし、そこにシャドーが絡んでいくことで、ボールエリアに3対2の数的優位を生み出す事ができる。

それがないので、相手に二人で対応されて1対2の数的不利になり、単調な攻撃に終始しました。

ここまで様々な角度から指摘したように、アジアカップ前から全く改善されていないのは明白で、プレー原則がないので、ずっと停滞。組織的にプレーし、再現性高く同じ現象を起こすことはできず、中島が持った時以外可能性を感じない、ワクワクしない試合になっていました。

第二章 サムライブルー・アンビリーバボー

では次に守備の分析をしていきます。

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日本は、5-4-1で守備的プレッシング。自陣にブロックを組んで構え、完全なゾーンディフェンスです。上図はそのゾーンの割り当てを示しています。

この5-4-1の守備の中で、前半、とんでもないシーンが何度か見られました。それがこちら↓

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はい、名付けて「サムライブルー・アンビリーバボー」。ボールを持っている相手左SBに右SH堂安が寄せますが、張っている相手左WGには右CB冨安が出て行ってマーク。なので、冨安と堂安の間で右WB酒井が何もできずに余る、という何とも不思議で異様な状況に。こんなシーン見たことありませんでした。いかに守備がデザインされていないか、が分かります。相手SBにSHが行くなら、張っているWGにCBが出て行ってはいけません。WBを無駄にしてしまいます。ましてや完全なゾーンですので、マンツーマン方式でCBがサイドまで出て行く、という状況自体がおかしいのです。

また、常にサイドCBが相手WGを睨む、というタスクを与えていたならば、それに合わせてWB、SHのタスクも調整しているはずですので、完全なゾーンではない、ということも言えず、それぞれの選手のタスクが明確になっていないことが読み取れます。

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完全なゾーンではなく、サイドCBがWGに出て行くタスクなのであれば、上図のようにボールサイドのSHが前に出てCF大迫と2トップになって相手2CBにプレッシャーをかけ、WBが相手SBに、サイドCBが相手WGに出ていってプレッシャーをかける、というようにしっかりタスクを整理しなければなりません。

また、

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完全なゾーンで守る場合に、相手のCF一人に対してCB3枚は必要ないので、

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このように、リベロの選手を上げて4バックにし、4-1-4-1で守る、という斬新なアイデアがあっても良かったと思います。まぁ、リベロが昌子ならばこのアイデアは不可能ですが。代表を引退してしまいましたが、長谷部なんかはピッタリの選手ですね。

このように、守備でも、エラーが生じており、デザインされておらず、攻守において戦術が落とし込まれていないチームだ、ということが分かります。

僕も日本人ですから、当然に日本代表に期待していますが、このままではかなり先行きが厳しいと考えています。

第三章 メディアの大嘘

いつも僕がデータ分析の際にデータを用いているFootball LAB,WhoScoredが、いつものようなデータを出していませんでしたので、今回は、データ分析ではなく、森保監督に関するメディアの大嘘について書いて行きます。

メディアは、これまで「3バックを試すべき」「森保監督の代名詞3バック」「森保監督得意の3バック」などと書き立てますが、実は森保監督が3バックの使い手であったり、3バックを得意としているわけではなく、「3バックを試すべき」と書くのは間違っているのです。

その理由を、下記に示します。

1 2006年6月、ミハイロ・ペトロビッチ(ミシャ)監督が、
 FCケルンテン(オーストラリア2部)で指揮をとっていたが、
 Jリーグ下位に低迷していたサンフレッチェ広島の監督に就任。
2 「ミシャ式」と呼ばれる、攻撃時には4-1-5に可変するユニークで、
 攻撃的なサッカーを確立。

 →FUJI XERIX SUPER CUP 優勝、ACL出場権獲得や、ナビスコ杯準優勝等、
 好成績を残す。
3 2011年末、は2年連続赤字になる見込みとなったことから累積赤字解消のため、
 高年俸のペトロビッチ監督の契約延長を断念。

4 ペトロビッチ監督の後任に、広島のOBである森保一氏が就任。
5 森保氏は、前任「ミシャ」の戦術を多少の調整を加えながらも、大部分を継承。
6 そして、リーグ制覇3回、ナビスコ杯、天皇杯の準優勝、CWC3位といった成績で、
 名将としての評価を確立。
7 2017年、相手に対策されたところで戦術修正ができず、
 チームも下位に沈み、同年7月4日に成績不振のため辞任。

(ミシャ監督森保監督両方の経歴をwikipediaから引用)

上記に示したものが、森保監督の、広島時代のミシャ監督からの引き継ぎ、その後の好成績の流れです。

これを見ていただけると分かるのは、決して森保監督が、上昇広島のユニークなサッカーを構築したわけではなく、森保監督は、ミシャ監督の構築した戦術を若干調整(リスクがとても高かったミシャ時代の戦術を少し守備的にした)したことで、3回のJリーグ制覇や、CWC(クラブ・ワールドカップ)3位に導いた、ということです。

ですから、森保監督は、前任者が4バックなら、基本的に4バックを継承したでしょう。なぜなら、森保監督の作り上げた「森保式」ではなく、当時の広島のサッカーは「ミシャ式」であったわけなので。

この経緯を振り返ると、「森保監督お得意の・代名詞の3バック」ではないことが分かります。森保監督の代名詞は、これまでの分析で書いたこともあるかもしれませんが、「言葉がけなどで選手の100%を引き出すモチベ―ト能力」です。

ということは、メディアが大嘘を書いている、という結論が導けます。メディアというものは、ファン・サポーターの思考、印象に大きな影響を与えますので、サッカージャーナリストの小澤一郎さんがよく仰られていますが、PV重視の風潮を止め、しっかり本質を理解した記事を書く必要があります。

終章 総括

攻撃
・パス能力に優れたボランチが持った時、幅を取っているWBが空いているのに、狭くなっているライン間に突っ込むパスを入れるシーンが多く見られた。
・左サイドは、中島、長友が好連係を見せた。
・右サイドは、相手左SBの対応によってプレー判断を変えて、IRを使って崩すプレーができていなかった。
・引いた相手に対しれは、サイドCBやボランチが攻撃参加をして、ボールエリアに数的優位を生み出したり、厚み・意外性を与えることが重要。
・左サイドの連係は良かったものの、プレー原則の欠如による問題が続出。
守備
・5-4-1の完全なゾーンディフェンス
・↑のハズであるが、サムライブルー・アンビリーバボーが生じる。
・攻撃だけでなく、守備でもタスクが整理されておらず、デザインがされていなかった。
メディアの大嘘
・森保監督は、「ミシャ式」を引き継ぎ、若干の調整を加えて、広島のタイトル獲得に導いた。
・↑のように、森保監督は、独自に攻撃的サッカーを構築したのではなく、「ミシャ式」を継承したため、「森保監督の代名詞・3バック」では決してない。
・森保監督の代名詞は、モチベートの手腕である。
・メディアは、ファンの印象に大きな影響を与えるので、PV稼ぎではなく、本質を理解し、見抜いた記事を書く必要がある。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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