4-4-2守備戦術の手本&破壊力の中に際立つ個人戦術~ファブレ・ドルトムント分析~

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今回は、昨シーズン前半戦は絶好調ながらも終盤に結局バイエルンとのマッチレースに勝てず惜しくもマイスターシャーレを逃したドルトムントを分析していきます。ファブレ監督の4-4-2守備戦術はとても組織的でまとまりがあり、4-4-2のお手本になるようなものです。そしてあの破壊力抜群の攻撃はどのように成り立っているのでしょうか。スーパーカップでバイエルンを破り、リーグ開幕から2試合共先制を許しながらも逆転勝利しているドルトムントに迫ります。

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序章 基本メンバー

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まず基本メンバーから。ドイツサッカー協会公式の戦術ボード見つけた(TKB84さんの記事みて見つけました。ありがとうございます。)のでそれを使ってみたかった!っていう自己満足は置いておいて、

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攻撃時は4-2-3-1で守備時は4-4-2に変わる形で、GKはリーグ戦第2節のケルン戦では昨シーズンのレギュラーGKであるビュルキが復帰しましたが、バイエルン戦と第1節のアウクスブルク戦ではヒッツが出ていたので一応ヒッツにしていて、DFラインは新加入のフンメルス、シュルツがレギュラーになっており、2CHは今のところディレイニーからバイグルがポジションを奪っているようです。2列目は左に新加入アザールがいて、スタメンからフル稼働しているパコアルカセルがCF。なのでハキミやディレイニー、ヴォルフ、ブラント、ゲッツェなど、豪華なキャストがベンチに控える形となっています。

第一章 4-4-2守備戦術の分析

基本メンバーを書いたところで守備戦術から分析していきます。

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前述の様に守備時のシステムは4-4-2。ロイスとパコが横並びになって、完全なゾーンディフェンスのブロック。守備的プレッシングですが、ハイラインを敷いて、ゴールから遠い位置にコンパクトなブロックをセットします。

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そして昨シーズンと比べると、高い位置からプレッシングをハメ込みに行くシーンは増えましたが、基本的にはやはり守備的プレッシングで、ハメ込みに行くのは試合中に数えるほどです。ですが、例外としては相手のゴールキックに対しては相手が繋ぐ姿勢を見せればハメ込みに行きます。

では具体的にブロックを組んで守る組織的守備の分析をしていきます。

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まず第一PLは、自分の背中のMFをバックマークで消し、相手のビルドアップをサイドに誘導。

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そして、サイドに誘導したら、SHが相手SBに寄せ、CHが斜め後ろに下がることで、IRを埋めます。そうすることによってブロック内に進入させず、後方にパスを戻させるか、外回りの攻撃にさせる。

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また、幅を取った選手にパスが出ると、SBに加えてSHが加勢し、二人で対応します。この「SHは常時戻り、SBと二人でサイドを守る。」はドルトムントの守備における重要なプレー原則の一つで、サンチョもアザールも、献身的に深い位置まで下がって守備に参加します。

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相手SBが幅を取ると、SHがそのまま追跡して下がり、対応。その時SBは少し絞ったポジショニングをして、CHではなくてSBがIRを埋めます。

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裏へのスルーパスには、スピードのあるCBが素早くカバーリングして冷静に処理。このカバーリングの意識も高く、事前に目を摘む。

この守備をすることでサイドを厚く守り、相手をブロック内に進入させず、ブロック外でパスを回させ、停滞させる。

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そしてブロックでずっとパスを回し、停滞している相手が無理矢理ブロック内に進入して来たら、第二PLがプレスバックして第三PLの選手とサンドして封殺。

最後に奪った後のPT(ポジティブトランジション)についても触れます。

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奪ったら深い位置まで下がって守備に貢献したSHが一気にスピード生かしてロングスプリントを繰り出し、サイドのスペースをアタック。そこをシンプルに使ってSHに突破させるか、下りて来て中継点となるロイスを使ってからSHにスルーパス。アタッカー同士の連係は抜群で、この破壊力も物凄いものがあるので、その連係を広大なスペースがある中で発揮するほど怖いものは無い。スピードを落とさず一気にゴール前に襲い掛かり、フィニッシュまで到達する世界トップレベルのカウンターアタックです。

ではここで守備戦術とPTをまとめます。

プレッシングのプレー原則
・ 「ゴールキックに対してはハメ込みに行くが、基本は行かない」
・主「4+4+のブロックでブロック内に進入させず、迎撃」
・準「第一PLはバックマークでサイドに誘導」
・ 「CHはサイドにボールがある時IRを埋める」
・ 「SHは常に下がってSBと二人でサイドを守る」
・ 「ブロック内に進入して来たら第二PLと第三PLでサンドして奪う」
PTのプレー原則
・主「カウンターでスピードを落とさずゴールに迫る」
・準「SHはロングスプリントでサイドのスペースをアタック」
・ 「ロイスは下りて来て中継点になる」

こういったメカニズムで、ドルトムントの組織的で固い守備ブロックは作られています。SHの選手が常時下がって守備に貢献し、ボランチが斜め後ろに下がることでIRを消すことでブロック内に進入させない。そして無理に進入して来たら二つのPLがサンドして奪い、一気に縦のスプリントと下りて来る動きからカウンターを繰り出す。一人ひとりが献身的に守備に参加していて、奪ったところカウンターまでもスムーズなので、4-4-2守備戦術のお手本と言えると思います。

第二章 破壊力抜群の攻撃戦術を分析

では次に攻撃戦術を分析します。開幕から5点、3点と得点を量産しているドルトムントの攻撃はどんなメカニズムなのか。

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初期配置としては、ポジションの移動はなく、4-2-3-1のまま。5レーンがバランスよく埋まっているわけではなく、SHとSBはORで縦並びになっています。

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まずビルドアップの局面ですが、前線のアタッカーは全員小柄であることもあってロングボールは一切使わず、ショートパスで前進。相手にゾーン1でプレッシングをかけられた場合には、GKを使うこともある。

そして上図のように相手の第一PLが二枚だと、CHのビツェルが2CB間に下りて3バック化することがあるのですが、タイプを考えるとビツェルはボール奪取能力と機動力があるので中盤に残し、よりパスセンスに長けているバイグルが下りたほうが効果的でしょう。

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また、左CBのフンメルスがこのドルトムントでもビルドアップ能力の高さを遺憾なく発揮していて、縦パスのコースが空けばすかさず性格で精度の高い縦パスを打ち込みますし、サイドチェンジも蹴ることが出来るため、レジスタとしてドルトムントのビルドアップを後方から支えています。

ですが、ドルトムントのビルドアップにはプレー原則が落とし込まれていないので、

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フンメルスの縦パスやサイドチェンジにしてもアタッカーの動き出し待ちとなっており、フンメルスからバンバンアタッカーにパスが入って前進できるわけではなく、非効率なビルドアップとなっています。

ですが、選手個々人のプレーを見ると中々面白いシーンがあります。

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例えば第1節のアウクスブルク戦の65分41秒。ボールを持ったビツェルに対して相手左IHが食いついてきたのでビツェルは右のピシュチェクとのワンツーで見事に左IHの背後のスペースに進入し、プレッシャーを交わして見せました。

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そして同じアウグスブルク戦の28分25秒では、ロイスがライン間左IRから中央に向かうランニングをすることで相手右SBを引っ張り、ORにスペースを生み出して、そのスペースでアザールがフリーでバイグルからサイドチェンジを受けています。

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また第2節のケルン戦の18分48秒のシーンでロイスは、パコが下りてCH間でアカンジから縦パスを引き出すと同時に、低い位置から縦にランニングして深さを作り出しました。この動きは、「手前」に下がったパコと反対の「奥」にランニングしているので、パコの動きで目線、重心が前に行った相手の逆を突くこと出来ています。

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そして同じくケルン戦の44分30秒のシーンでは、最初中央でビツェルがボールを持っていた時にCH間でパスを引き出すもパスが出なかったので、ピシュチェクにパスが入った時にはCH間とは違うスペース(ライン間右IR)を見つけて、そこに入り込んで縦パスを受けています。

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サンチョも、41分5秒のシーンではビツェルの左SB-CB間に下りる動きに相手右CHがついてきたことで空いた中央のスペースに入ってきた縦パスを引き出す動きをしています(パスは出なかった)。

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44分37秒のシーンでもライン間ががら空きだったので、左から中央に入って来てピシュチェクからくさびを引き出している。

というようにビツェル、ロイス、サンチョの3人のシーンを抽出して紹介しましたが、選手自身は優れた「スペースをスペースと認識し、そこを使ってパスを引き出す感覚」を持っています。ですが、チームとしてのプレー原則が落とし込まれていないので個人単位でしかその優れた感覚が生かされておらず、チーム全体が生かして最大値を引き出すことは出来ていない。

っていうことで何とか個々人の個人戦術で前進することは出来ると。ではそこからどう崩すのでしょうか。崩しの局面を分析します。

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崩しの局面では、中央突破はせず、サイドから行きます。その中で一つプレー原則があって、それは「サイドでトライアングルを形成する」です。

SB&SH&CHか、SB&SH&ロイスでトライアングルを形成します。

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そしてそのトライアングルをセットしたらどこかのパスでスイッチを入れてコンビネーションで相手の守備を破壊し、IR裏に進入することを狙います。バリエーションは、SBのオーバーラップを使ったり、ロイスがIRランをしたり、SHがドリブルで突破するなど様々で、局面ごとに違ったプレーが飛び出す感じです。

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そしてIR裏に進入したら、グラウンダーの速いクロスを入れて得点を狙う。その中で際立つのがロイスの動き出しです。ロイスは、IR裏に進入すると自然に第三PLは下がりますから、あえて自分は大きく動かず、第三PLから少し離れたライン間にポジショニングし、フリーでマイナスのクロスをもらってシュート、というプレーがとても上手い選手。この動きは、第三PLは下がらなければならないので当然ゴール方向に重心が向かっていますから、その状態で重心と逆の手前にパスが来ることになるのでとても反応しづらい。この動き出しは相手に大きな脅威を与えます。

このように「トライアングルを形成する」というプレー原則だけで個人戦術によってこれだけたくさん点が取れる破壊力抜群の攻撃が出来ているわけですから、チーム全体が同じ方向を向くためのプレー原則がもっと具体的な部分まで落とし込まれれば、より高い頻度で個人戦術が生かされ、効率よく相手の守備組織を破壊することが大いに期待できます。また、「プレー原則が落とし込まれていない」はもっと「非効率」だけでなく、大きな問題の原因になり得ます。

その問題は「「ビッグマッチに勝てない→タイトルを獲れない」という悪循環を引き起こす」ことです。すでに昨シーズンにも見られた現象ですが、プレー原則が無く個人戦術に依存すると、CLのアウェーアトレティコ戦のように、組織的な守備戦術が仕込まれているチームや、ガッツリ対策してくるチームだと個人と個人が線ではなく点になって機能性を失ってしまいます。そして何より自身が「自分の体は1シーズンフルは持たない」と認めている怪我の多いロイスが欠場すると歯車が回らなくなる。

プレー原則によってどの選手が起用されても遜色ないプレーが出来る「基盤」を作っておかないと、個人に依存しますので、組織的な守備を持っているうえにトップレベルの選手を揃えているチームに勝つのは難しくなります。そうなるとタイトルを懸けた天王山を落とす可能性が高くなるので、結果タイトルを逃してしまう。

シーズン序盤はこの調子で大丈夫でしょうが、今シーズンのファブレは対策に打ち勝ち、天王山をモノに出来るでしょうか。

では最後にNT(ネガティブトランジション)について。

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ボール近辺の数人(1-3人)がゲーゲンプレスをかけ、相手を遅らせてその時間を利用して他の選手はリトリートし、ブロックを整える。その中で、トップ下で攻撃の核を担っているロイスは、特別NTの意識が高く、物凄いスピードでリトリートします。天才タイプのプレーヤーですが、キャプテンシ―の塊でもある素晴らしい選手です。

ではまとめます。

ビルドアップ プレー原則
=なし
・ショートパスにこだわってビルドアップ
・フンメルスがレジスタ
・優れた個人戦術で前進することは出来ている
ゾーン3(崩し) プレー原則
・「サイドでトライアングルを形成」
・洗練されたコンビネーションでIR進入を目指す
・IR裏に進入したら、速いグラウンダークロスを入れ、フィニッシュに到達
・ロイスのマイナスで受ける動きは相手に大きな脅威を与える
・プレー原則が落とし込まれていないので、個人に依存
・ファブレは対策に打ち勝ち、タイトル獲得に導けるのか
NT プレー原則
・「ボール近辺がゲーゲンプレスをかけ、遅らせる。その時間を使って他はリトリート」
・ロイスは物凄い速さでリトリートする

守備はとても組織的で強固なブロックを誇っていますが、攻撃は個人戦術に依存する形になっており、大きな課題のあるドルトムント。守備はとても勉強になりますし、これから攻撃戦術がどうレベルアップするかも楽しみですのでぜひ皆さんも一緒にドルトムントを楽しみましょう。Amazonではオールオアナッシングドルトムント版が配信されていますのでそちらも是非!

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!リクエストがあればツイッター(@soccer39tactics)のコメント、DM、下のコメントにでもお書きください。

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