襲いかかって来るRBグループの象徴・ザルツブルクを交わしたナポリの策~ザルツブルク対ナポリ レビュー~[19-20UEFAチャンピオンズリーグ グループE第3節]

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今回は、チャンピオンズリーグからザルツブルク対ナポリを分析します。もちろんシティ対アタランタという選択肢があったのですが、この試合に関しては多くの人が分析をツイートされたりしているので、その試合ではなくて穴場的な雰囲気のある興味深い一戦だったザルツブルク対ナポリについて。アンフィールドで戦うリバプールに対して0-3から一時3-3にまで追いついて見せたことによって今までよりもより一層注目されるようになったRBグループの下若い選手を集めてアグレッシブなサッカーをするザルツブルク、熟練の名将・アンチェロッティの下2年目となって完成度を高めて来ているナポリ。この2チームの対戦ではどのような戦術的駆け引きがあり、それが結果に影響したのでしょう。

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序章 スコア&スターティングメンバー

ザルツブルク 2 : 3 ナポリ
ザルツブルク:40'ホーランド 72'ホーランド
ナポリ:17'メルテンス 64'メルテンス 73'インシーニェ

ザルツブルク対ナポリ 1

ホームのザルツブルクは、スタンコビッチ、ウルマー、ウーバー、ラマーリョ、クリステンセン、ムエプ、ユルゾビッチ、ファンヒチャン、南野、ダカ、ホーランドの11人。システムは4-2-3-1で、日本人プレーヤーの南野はトップ下に位置どります。

アウェーのナポリは、メレト、マルキュイ、クリバリ、ルペルト、ディロレンツォ、アラン、ファビアン、カジェホン、ジエリンスキ、メルテンス、ロサーノの11人をアンチェロッティ監督がチョイスし、システムはオーソドックスな4-4-2です。

第1章 ザルツブルクの「狭い」「速い」攻撃

ではまず1章では、ザルツブルクの攻撃、ナポリの守備の局面から書いていきます。

ザルツブルク対ナポリ 2

ナポリはセンターサークルの先端の少し前くらいに第一PLを設置し、4-4-2のゾーンディフェンスで守ります。攻めるザルツブルクは、SBのウルマー、クリステンセンは高い位置を取らず、SHのダカ、ファンヒチャンと縦並びになるのですが、ダカ、ファンヒチャンはかなり高い頻度でインサイドエリア(SB-CB間の延長線上の縦のスペース)にポジショニングするので、幅を取るポジションに選手が立っていない時間帯が長かったです。

ザルツブルク対ナポリ 6

ナポリの守備は、第一PLは相手CBに多くの場合牽制程度にプレッシャーをかけます。基本的には迎撃守備になりますが、相手CHのムエプ、ユルゾビッチにパスが入った時は、CHファビアン、アランが時々強めに寄せて、「奪ったるぞ」感を見せてました。実際アランがムエプから奪ってショートカウンターになりかけたシーンもありましたし。ザルツブルクの左CHムエプはこの試合を見るとそれほどテクニックに長けている選手では無く、プレス耐性があまり高くないように見えたので、もっとムエプにパスが入った時には狙いに行くシーンが多くても良かったかもしれません。

また、押し込まれた場合にはSHが両方下がって4+4で守り、2トップのメルテンス、ロサーノは前残り。カウンターで点を取りに行く気もあったと思うんですが、あまりPT(ポジティブトランジション)はうまく機能していなかったと思います。

ではザルツブルクの攻撃戦術について。先述のようにザルツブルクは幅を取るポジションに選手がいないことが多かったのですが、このジェシー・マーシュ率いるチームは「広さ」が無くてもチャンスを作り出す攻撃メカニズムを持っています。

まずビルドアップの狙いから。

ザルツブルク対ナポリ 3

ビルドアップでは、大原則として「ホーランドに縦パスを打ち込み、ライン間に侵入」があると思います。基本的には中央からになるのですが、中盤を飛ばして一気にDFラインから縦パスをホーランドに打ち込むことを狙います。その工程の中で3バック化っぽいことをしてみたり、CHのユルゾビッチ、ムエプがパスを引き出してテンポを作ろうとしたりするのですが、明確に落とし込まれた「縦パスを打ち込むためのポイント・原則」は見えずらかったです。

ですが、受け手のホーランド側にはしっかり原則が設定されていました。トップ下の南野や、中に入ってくるファンヒチャンが必ずホーランドと近い位置にポジショニングすることによってホーランド、南野、ファンヒチャンが三角形を形成。ホーランドに縦パスが入ると、ワンタッチで落とせる位置に南野、ファンヒチャンがいるので、落としを受けてスピードアップ。3人のコンビネーションによって崩します。この試合では左サイドから攻める回数が多かったのでこの図式にしましたが、もちろん右SHのダカが絡んでいくシーンもありました。

また、この前線の三角形は縦パスが入ったことをスイッチに機能するので、出し手を加えると出し手+前線3人で1-3の並びとなるひし形とも言えます。

ザルツブルク対ナポリ 4

そして、上図のように中央から縦パスを打ち込むだけではなく、低い位置を取っているSB(特に左のウルマー)から斜めにパスが入るシーンも見られました。足元だけでなく、中にはアーリークロスのように入れ込むことも。

ザルツブルク対ナポリ 5

ここまで紹介した二つのパターン以外でも、ビルドアップでクリーンに縦パスを入れることが出来なければシンプルにロングボールを蹴ります。ターゲットはCFのホーランド。そのロングボールによって生じる2ndボールにRBグループお得意の超高強度ゲーゲンプレスをかけます。ボール周辺の3,4人が一瞬にしてハメ込んで2ndを回収し、速攻。このラグビー的な陣地押し上げ戦術もザルツブルクの攻撃パターンの一つです。

ザルツブルク対ナポリ 12

1-1に追いついたホーランドのPKを獲得したシーンのように、右CHユルゾビッチが右斜め下に下がってきてサイドチェンジを配給する形も攻撃のアクセントを加えていました。

これはあえて「狭く」してるんだと思いますが、ボックス幅の中で組織的にダイレクトに攻撃し、中央を突破するシーンも多く作っていて、縦パスが入ってからのホーランド、南野、ファンヒチャン、ダカの4人のコンビネーションは爆発力を有していました。

そして打開した時には、きっちり先述のアタッカー4人の内3人以上がエリア内に入っていて、クロスに対する厚みも十分。

SBは両方攻撃参加を制限しているようでしたが、相手は2トップ。二人の数的優位を後方に獲得していることになります。これがゲーゲンプレスが縦方向に交わされた時の蓋をする役を配置するためなのか、何なのか。相手FWよりも二人多く後方に残す理由はあまり僕には分からなかったのですが、そのような配置となっていました。

ナポリは、2失点したとはいえ終盤の4-3-1-2にシステム変更してからのザルツブルクの攻めに対してもしっかり守り切ることが出来ていました。

第2章 アンチェロッティ、ザルツブルクの強襲をどう交わす?

では次にザルツブルクが守り、ナポリが攻める局面について。

ザルツブルク対ナポリ 7

まずザルツブルクは、特に前半はフルスロットルでプレッシングをかけました。敵陣の真ん中辺りに第一PLを設置し、4-2-3-1でナポリから高い位置をボールを奪いに行きます。

ナポリは、攻撃時は4-4-2から3-4-2-1に可変。クリバリ、ルペルト、ディロレンツォの3CB、その前にファビアンとアラン、左WBにジエリンスキ、右はマルキュイ、最前線にメルテンスがいてシャドーは右カジェホン、左ロサーノ。

ではまずザルツブルクの守備戦術から入り、その後にザルツブルクをナポリのカルロ・アンチェロッティはどのように攻略を図ったのかを分析していきます。

ザルツブルク対ナポリ 8

中央にボールがある時には、CFホーランドはCBのルペルトに対して、片側サイドを切るバックマークプレスをかけ、SHのダカとファンヒチャンは内側に絞ったポジショニング。ホーランドがコースを切っていない方のサイド(図の中では右サイド)は、ナポリのサイドCBにパスが出た時にSHが寄せなければならない(ホーランドが左を切って相手左CBディロレンツォにパスが出たら右SHダカが寄せる)ため、トップ下の南野は、相手CHのどちらかをマークするタスクを担っているのですが、その局面における判断としては「ホーランドが切っていないサイドにいる相手CHをマークする」方が正しい判断です。それが出来ているシーンも出来ていないシーンもあったので、ジェシー・マーシュ監督からはそこまで具体的な指示が与えられていなかったのかもしれません。指示があったけど南野がそのタスクをこなしきれなかった、という見方もできます。

そういうわけで南野がどちらかの相手CH(ファビアンorアラン)をマークし、空いている方のCHは、SHが絞ってマークします。加えてCHをマークしていない方のSHが、ホーランドがコースを切っていない側にいる時。つまり上図に示したようにSH(ダカ)が相手CH(ファビアン)をマークしていない且つホーランドがコースを消していないので対面する左CB(ディロレンツォ)はフリーな時。このような状況の場合、SHダカはIA(SB/WB-CB間の延長線上。インサイドエリア)に立ち、斜めの縦パスを入れさせないタスクを担っているように見えました。実際にここまで決められているわけではなく、マークがないからそこにいただけかもしれませんが。

こうすることで相手CHはしっかり消して中央からのビルドアップをさせず、空けているサイドCBにパスを誘導。ここからが次のフェーズです。

ザルツブルク対ナポリ 9

まずこれはRBグループの大原則と言っても良いと思いますが、サイド(正確に言うとこの試合ではサイドCB)に誘導できれば、逆サイドの選手がかなり絞り、ボールサイド側に圧縮してボール周辺の人口密度を高め、相手のプレーをそのボール側の狭いエリアに制限する「仮想的なスモールフィールド」を作り出します。

ザルツブルク対ナポリ 10

そしてSH(ダカ)が相手サイドCB(ディロレンツォ)に強烈なプレッシャーをかけ、サイドCBがWB(ジエリンスキ)へパスを出したらSHがプレスバックしてSB(クリステンセン)と2対1を作り出してダブルアタックで奪取。CHやシャドーへのパスを選択した場合は、CH(ユルゾビッチ)がインターセプトしたり、そこにCBも関わってきたりして単純な1対1のデュエルの強さか、数的優位を作って奪う。

2CBのラマーリョ、ウーバーもかなり縦パスなどには食いつく傾向が強く、全体でアグレッシブにボールを刈り取りに行きます。

ではこのザルツブルクのアグレッシブで組織された守備をアンチェロッティはどのように攻略しようとしていたのか↓

ザルツブルク対ナポリ 11

基本的には左サイドからビルドアップする時間が多かったです。これはアンチェロッティが意図的に左偏重のビルドアップにしたんだと思います。この試合アンチェロッティは、WBやシャドーにパスを入れて相手を下がらせ、CHのファビアン、アランをマンマークから解放してからそのCH二人を経由してサイドチェンジし、ザルツブルクの片側圧縮守備を突破し、逆サイドのスペースへ展開することを狙っていました。

しかし、そのための戦術的な仕掛けはそこまで具体的なものは準備されていません。とはいえナポリはこの攻撃プランを成功させていますし、ザルツブルクのプレッシングに捕まるシーンもそれほどありませんでした。加えて流れ的には2点目のシーンはまさにゾーン3で2ndボールを回収してから手前を使って逆へ運ぶ形。ではどのようにナポリはこの攻撃プランを成功させたのか。それは、

「個々人の質的優位」

です。この試合アンチェロッティは、左WBにジエリンスキ、左CHにファビアン、左シャドーにロサーノというように左サイドにテクニカルな選手を並べました。ジエリンスキは、本来内側に入ってプレーすることを好む選手ですが、タッチライン際でプレー。この配置によって、寄せられてもボールを奪われないキープ力やプレーの精度の高さといった狭いエリアの中での「質的優位」が左サイドで発揮され、この質的優位によってザルツブルクのプレスに捕まることなく相手をWBジエリンスキやシャドーのロサーノへのパスで押し下げ、よって空いた手前のCHファビアン、アランを使い、逆サイドの広大なスペースへ展開。

緻密に設計された戦術があったわけではないのですが、とても巧みに選手を配置し、その選手の質的優位性を存分に活用することで相手を攻略。あまり見られないし、多くの監督がやっていないようなアプローチだったと思います。

しかし、この攻撃プランの欠陥を一つ挙げるならば、「逆サイドに展開出来た時の設計」でしょう。ザルツブルクが空けている逆サイドのスペースに展開するところまでは上手く出来ても、肝心な「そこからどう崩すのか」というクエスチョンへのアンサーは見えてきませんでした。なので逆サイドへ運んでもそこからが上手くいかず、崩してフィニッシュまでは中々到達していませんできず。そこまで設計されていれば、本当に素晴らしいプランだったと思います。

最後にナポリのビルドアップで面白いシーンがあったのでそれを紹介します。

ザルツブルク対ナポリ 13

これは4分24秒のシーンです。GKメレトに対してザルツブルクのCFホーランドが左CBルペルトを消すバックマークプレスをかけてきますが、それを左CHファビアンのレイオフで剥がして、ルペルトがギリギリまで相手右SHダカを食いつかせてからリリースし、ワンツーでプレス突破。そしてスピードのある左シャドーのロサーノへロングボール。

GKメレトからのビルドアップにスピードがあったので相手にハメ込むまでの時間を与えず、綺麗に突破。メレトがもっと時間をかけていれば相手トップ下南野はファビアンをもっと近い距離でマークし、「ファビアンへのパス」という選択肢を消せていたと思います。そしてルペルトは右SHダカを食いつかせることで背後のスペースを空け、ワンツーというアイデアを披露。そこからDFライン裏に持ち込むことが出来た素晴らしいシーンでした。

終章 総括

ザルツブルク
<攻撃>
・SHは中に入り、SBは高い位置を取らないので、狭く攻撃。
・ビルドアップの大原則はCFホーランドに縦パスを入れること。
・ホーランドの近くには常に南野とファンヒチャンがポジショニングし、出し手を含めると1+3のひし形(ダイヤモンド)を形成。
・ホーランドに縦パスが入れば、右SHのダカも絡んで一気にスピードアップし、中央突破。
・中央からだけでなく、SBから斜めに入れるシーンもよく見られる。
・クリーンにホーランドに入れることが出来なければ、ロングボールを蹴って2ndボールにゲーゲンプレスをかけて回収。
・右CHユルゾビッチからのサイドチェンジもアクセントになっていた。
<守備>
・4-2-3-1で常時ハイプレス。
・ホーランドはCBに片側サイドを切るバックマークプレスをかけ、トップ下南野+片側SHで相手2CHをマーク。
・サイドCBを空けておいて、そこに誘導→片側圧縮でスモールフィールドを作り出す。
・相手WBにパスが出ればSBとSHでダブルアタック、中央の相手CHやシャドーに入ればCHに加えてCBなどが加勢して奪取。
ナポリ
<守備>
・4-4-2で守備的プレッシング。
・CHのファビアン、アランは時より相手CHに強く寄せ、奪いに行く。→相手左CHムエプはあまり足元が上手くないのでそこをもっと狙ってもよかった。
・ゾーン1では2トップのメルテンス、ロサーノを前残りさせていたが、そこに上手く繋げてカウンターを仕掛けることは出来ず。
<攻撃>
・3-4-2-1に可変。
・ザルツブルクの圧縮守備を突破し、逆サイドのスペースへ展開することを狙っていたが、具体的な戦術が落とし込まれていたわけではない。
・ジエリンスキ、ファビアン、ロサーノというテクニカルな選手を左サイドに並べ、これらの選手が狭いエリアで発揮する質的優位を活用。
→相手を押し下げ、手前のCHファビアン、アランを使って逆サイドへ展開。
・逆サイドへ展開した後の「崩しの局面」のプランが見えず、そこがこのプランの欠陥。
・選手の質的優位性によって戦術的なプレーを実現。一つの試合のプランとしてはとても面白いアプローチだった。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!リクエストがあればツイッター(@soccer39tactics)のリプライ、下のコメントにでもお書きください。

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