リバプール対ポルト_1

リバプール対ポルト レポート ~戦術は判断をサポートするものである~ [18-19CL QF1stLeg]

今回は、このnoteで初めてとなるチャンピオンズリーグを取り上げていきたいと思います。ミッドウィークに準々決勝の4試合が行われましたが、M・ユナイテッド対バルセロナや、トッテナム対M・シティは、他の方がブログやTwitterで書かれていると思いますので、「ビッグマッチではないけれど内容の濃い面白い試合」を取り上げたい、という方針の下このnoteを書いている、という僕の思いもありますので、リバプール対ポルトについて書いていきたいと思います。

リバプールがホームのアンフィールドで、2-0で勝利した試合です。

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ゴール リバプール 2 : 0 ポルト

リバプール 5’ケイタ 26’フィルミーノ

スターティングメンバー

まずはスタメンから紹介します。リバプールは、最近はファン・ダイクとマティプというCBのコンビでしたが、この試合ではロブレンが先発。左SBロバートソンが累積で出場停止で出れない代役には、本職のA・モレノではなく、ミルナーが起用され、ケイタとヘンダーソンがIHで、ファビーニョがアンカーを務めます。

ポルトの方は、累積でぺぺ、キャプテンのH・エレーラが出場停止。ペぺのポジションにはフェリペ、H・エレーラの代役にはオリベルが入りました。そして、この2人の出場停止によるメンバー変更以外の直前のリーグ戦・ボアビスタ戦からのメンバー変更は、ブラヒミ、マナファに代わってM・ペレイラとA・テレスが入りました。

リバプール・攻撃 ポルト・守備

まずはリバプールの攻撃、ポルトの守備から見ていきます。

ポルトは、予想されていた4-4-2ではなく、5-4-1のブロックで守備を行いました。このポルトの守備戦術、セルジオ・コンセイソン監督のリバプール対策を中心に分析していきます。

ポルトは、全くマンツーマンの要素が入っていない完全なゾーンディフェンスでした。上図のような各選手の担当ゾーンになっています。

そして、SH+CFの3人で、相手の4バックと、DFラインに下りてくる相手アンカーの5人を見ます。

ハーフライン付近に第一プレッシャーラインを設定した守備的プレッシングですので、強いプレッシャーはかけず、牽制程度、または全くプレッシャーをかけず自由を与えていました。特に、相手CBとアンカーには自由を与えていて、SBには多少プレッシャーをかける、という感じでした。

なので、相手のDFラインにはボールを持たせている、ということです。

では、ここからポルトのゾーンディフェンスで表れていた問題点を紹介します。

ポルトはゾーンディフェンスですので、自分の担当ゾーンを相手が離れれば、他の選手に相手のマークを受け渡す、というのが根底にある原則です。

なのですが、上図のように、DFラインがすでにマークを持っている状態であるのに、ボランチがマークを受け渡してしまって、相手がライン間でフリーになっているシーンがありました。

これは、無責任と言えると思います。確かに、ゾーンを基準として守備をするわけですが、実際の局面で判断するのは選手であって、時には監督言われているプレーとは違うプレーを選択しなければならないシーンもあります。それがまさに図で示した状況で、マークを受け取る側の選手がもうマークを持っていて、受け取れない状態なら、自分がついていかなくてはならないわけです。

選手に「なぜ受け渡した」と聞けば、「ゾーンでやれと言われているから」と答えるかもしれません。ですが、味方の状態を判断してプレーの選択を変えなくてはならないシーンで、選択を変えることができていないシーンがあった、ということです。

もう一つポルトの守備に見られた問題点がありました。それは、先ほど紹介した問題点と逆です。

受け渡すべきなのについて行ってしまって、1人に対して2人で行ってしまう、という問題点です。

「さっきついて行けって言ったのに今度は受け渡せかい。矛盾してるやろ」と思う方もいるかもしれません。しかし、これは矛盾していません。つまりは、戦術がプレー選択の基準になるわけだけど、結局は選手の判断に任されているので、戦術はその選手の判断をサポートするものであって、局面を判断して時にはプレーを変えなくてはならない、ということです。

なので、ここで図を使って示したシーンは、戦術に従って、マークを受け渡すべきシーンでした。

図のように相手WG(図ではサラー)のランニングにWB(図ではA・テレス)がついて行ってしまうと、大外レーンにスペースができます。そうすると、大外レーンにロングボールを入れる、という選択肢を相手のボール保持者は持つ事ができます。そしてロングボールを入れると、WBが中央までついて行っているのでスペース、時間がある状態でロングボールの受け手がプレーでき、クロスにしてもドリブルにしてもシュートにしても質の高いプレーが期待でき、チャンスになる可能性がとても高くなってしまいます。

この図に示したシチュエーションでは、マークを受け取る側であるミリタンがマークを持っていない状態ですので、受け渡すことが可能です。なので、A・テレスがついて行く必要はありません。

どれだけしっかり戦術を落とし込んでも、全ての局面が練習通りなシチュエーションになるわけではありません。相手がいるスポーツなので。前述のように、局面によって戦術通りのプレーを選択するべきシーンもあるし、そうではないシーンもあるわけで、結局は選手が判断しなければならない、という部分で、ポルトの選手にはその判断が間違っているシーンが多く見られました。

このように、ポルトの守備戦術には隙があったので、リバプールの方は、ブロック内に進入できたシーンも多く、あまり停滞感なく、攻撃できていたと思います。

ポルト セルジオ・コンセイソン監督の狙い

ここまでポルトの守備戦術の問題点について書いてきました。ですが、当然ポルトの方もしっかりとした狙いを持っていました。この章ではセルジオ・コンセイソン監督の落とし込んでいたリバプール対策を想像していきましょう。

まず前提として先ほども紹介したこの図をもう一度ご覧ください。マンツーマンの要素が含まれていない完全なゾーンディフェンスで、ハーフライン付近に第一プレッシャーラインを設定して、プレッシングは全く行わず、5-4-1ブロックを組んで構えます。

最初にポルトがラインを下げる意味について。ラインを下げることでとてつもなく脅威であるWGのサラーとマネのスピードを生かすスペースを消します。これが一つ目。そして、ライン間をコンパクトにして進入させない、というのが二つ目です。

二つ目に関しては、コンパクトにしていることに加え、3CBと2ボランチの5人の間のスペースなので、進入されてもCBが3人いるので誰かが食いついて潰しに行くことができますし、2ボランチのリトリートで挟み込んで奪うこともできます。ライン間の前後に多く人を割いている利点です。

そして、次にボール保持者へのプレッシャーについて。ボール保持者には、なるべく足を出さないことが意識されていました。なので、ボール保持者へのプレッシャーはあまり強くありません。牽制する程度です。

なので、ボール保持者からボールを奪い取って、カウンターに移行することは難しくなりますが、ポルトには別の狙いがありました。

それは、図にも書きましたが、背後にスペースを与えないことです。前に出てプレッシャーをかけると、このようになります。

はい、こちらです。出てしまうと、背後にスペースを与えてしまい、図ではライン間にパスを入れられ、アタッカーに前を向かれてチャンスを作られてしまいます。

ましてやプレッシングをかけた中でのプレーではこの試合のポルトの場合はありませんので、単発プレスのような状態になり、スペースを相手に与えるのみとなってしまいます。

その状況を避け、背後のスペースへのパスコースを消すことを意識していました。

では次のポイントの分析に移ります。こちらをご覧ください。

上図のように、マンツーマンを採用すると、ブロックのバランスが乱れ、スペースが生まれるシーンがよくあります。そして、相手がリバプールの場合ですと、

このようにスピードのあるWGにブチ抜かれて決定機となります。

このような状況を避けるために、完全なゾーンディフェンスを採用していました。

完全なゾーンディフェンスを採用することで、ラインを下げて背後のスペースを消したことに加え、ブロックのバランスを乱してスペースを与えてしまうことも避ける。

なので、間を縫われてフリーでフィルミーノやサラー、マネにボールを持たれる可能性もありますが、それよりもその3トップにバランスが乱れたことによって大きなスペースを与える方がハイリスクだと考えたのでしょう。

実際にそちらの方が明らかにハイリスクです。

ここまで紹介したプレー原則を遂行することで、ライン間を閉めて裏のスペースを消し、ブロックのバランスを保つことで、WGサラー、マネのスピードを活用させず、フィルミーノが輝くスペースも与えない。打開するスペースを与えないことを徹底して、後方で長い時間ボールを持たせ、無理に打開しようとしたところを奪って、カウンターを狙う。このような守備戦術だったと思います。

ですが、前章に書いたように、戦術に従うのか、違うプレーを選択するのか、という判断を選手が間違ったシーンが多く、機能しませんでした。

曖昧になっている守備で2失点を喫し、ズルズル下がってしまうような状態の守備になっていたので、スペースが広がっている状況でカウンターに繋げることもできず、リバプールのゲーゲンプレスにハメられ、すぐに奪い返されることが多かったです。

リバプール・守備 ポルト・攻撃

ポルトが後方からビルドアップをして攻撃をする時間がとても少なかったので、かなり短い章となります。

ポルトは守備時5-4-1なので、SHが内側に入ってシャドーとなる、3-4-2-1で攻撃します。

ポルトのこの試合における攻撃のプランは、あまり見えませんでした。元々リバプールにボールを持たせてカウンターを狙うプランですので、そこまで自分たちの攻撃に練習時間を割いていなかったのかな、と思います。

そのなかで、一つのキーとなるのは10番の天才肌のプレーヤーである、オリベルです。

ですが、インパクトのあった攻撃のプレーは、オリベルには全くありませんでした。ボランチでのプレーとなりましたが、とてもDFからパスを引き出すプレーが少なかったです。なので、ボールに触る回数が少ないので、消えていました。

そして、先ほども書いたように、具体的な狙いは見えなかったので、ビルドアップで前進してチャンスを作ったシーンはありませんでした。

しかし、一つ複数回チャンスになっていた形がありました。

それは、手数をかけずシンプルにマレガにボールを送り込んだ時です。マレガは、とてもフィジカルが強く、スピードもあってテクニックもあるプレーヤーです。そのマレガにロングボール、またはスルーパスが通った時には、マレガがフィジカルを生かして独力でシュートまで持っていくシーンもあって、一番この形がゴールの可能性がありました。

データ分析 ~ずっと押し込まれた中でマレガが孤軍奮闘~

では最後に前回のnoteから始めた「データ分析」で試合を振り返っていきます。

(引用元:whoscored )

まずは、両チームのヒートマップです。リバプールの方は、ハーフライン付近が特に赤くなっていて、長い時間ポゼッションをしていたことが分かります。

一方のポルトは、自陣のペナルティーエリアに近いエリアが満遍なく濃くなっていて(赤に近い黄色になっている)、敵陣のエリアは全く濃くなっておらず、青いので、押し込まれている時間が長かったことが示されています。

次に、ポゼッションのデータです。画像は、各選手が何分間ボールを持ったか、というものです。

これを見ると、チーム全体のポゼッション(リバプール:64.6% ポルト:35.6%)と同じく、ポルトのDFラインの選手より、圧倒的にリバプールのDFラインの選手の方が、ボールを持っていることが分かります。ポルトの3CB全員を足すと9.2分ですが、ファン・ダイク一人でそれより長い時間ボールを持っています。

また、これはリバプールのビルドアップに主に関わっていた4バック+アンカー・ファビーニョのパスを出した位置(一枚目)と、ポルトの3CBのパスを出した位置(二枚目)のマップです。これを見ても、圧倒的にリバプールのビルドアップに主に関わっていた選手の方が、ボールに多く触っていることが示されています。

ここまでの3つのデータを見ると、いかにリバプールがボールを握って、押し込んでいたかが分かります。

続いて各選手のシュート本数です。リバプールの方は、トータル15本の内7本がサラーです。

しかし、それよりも注目してほしいのはやはりポルトの方です。なんと8本中マレガが5本打っています。いかにこの試合マレガがポルトの中で目立った、パフォーマンスを見せたか、孤軍奮闘したかが分かります。

こちらのデータは、パスの内訳です。これを見ると、元々のパス数が少ないながらも、ポルトの方がロングボールを多く使っていたことが分かります。それだけ、ショートパスでのビルドアップをしていなかった、ということです。

しかし、前の章で書いたようにプランの問題もあって、できなかった、しなかった、という表現の方が近いかもしれません。

そして最後にボールを奪われた回数に関するデータです。

似た項目が2つありますが、「Dispossessed」は、ボールを失った、ポゼッションを失った回数、「Turnover」は、「反転」「向きを変える」というような意味になりますので、ネガティブトランジションだと捉えると、ネガティブトランジションはポルトの方が多いですが、ボールを失った回数はリバプールの方が多い、ということになります。

しかし、この数字をそのまま捉えるのは違う、と僕は考えました。なぜなら、リバプールの方が、圧倒的にボールを保持したので、自然とボールを奪われる回数は増えるからです。そこで僕は、両チームのポゼッションが50%だった場合の数値を算出しました。その結果がこちらです。

リバプール Dispossessed:13 Turnover:15

ポルト Dispossessed:16 Turnover:31

このようになりました。なので、ポルトがリバプールと同じ時間ボールを持ったとすると、圧倒的にポルトの方が「ボールを奪われた回数」「ネガティブトランジション」が多かったことになります。

それほど、ポルトは何度もボールを奪われ、リバプールのカウンターを食い止めるために走らなけばならなかった、ということです。

総括

ポルトは、5-4-1ブロックを組み、DFライン裏のスペース、ライン間のスペースを消し、完全なゾーンディフェンスで守ることでブロックのバランスを乱さず、ボール保持者へのプレッシャーを奪うことよりいスペースを与えないことを意識するなど、徹底してスペースを消し、リバプールの3トップの輝く場所を与えず、後方で長い時間ボールを持たせて停滞させ、無理に打開しようとしてきたところで奪ってカウンターを狙う、という守備戦術でリバプールを相手にアウェーでの勝ち点を持ち帰ろうとした。しかし、マークを受け渡すのか、ついて行くのか、という戦術に従うだけでなく選手の判断が必要になるシーンでの判断ミスが多く、曖昧なズルズル下がることになり、機能せず。結局2失点を喫し、そこからのケチャップドバドバ状態は避けたものの、マレガの独力突破頼みとなり、勝ち点無し、アウェーゴールなしの0-2敗戦となった。

リバプールの方は、ポルトの守備戦術が機能していなかったので、それほど停滞感なく攻撃することができ、長い時間敵陣でボールを保持した。そして、ずっと押し込んだので、ボールを奪われたときも相手はカウンターを仕掛けるスペースがなく、まんまとゲーゲンプレスをハメ込むことができた。

リバプールがしっかりアンフィールドで2-0で勝利し、アウェーのエスタディオ・ド・ドラゴンでの2ndLegを優位に戦えることになりました。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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