5連敗。しかし、悲観することばかりでは決してない吉田・神戸 ~札幌対神戸 レポート~ [2019J1リーグ第10節]

4月の松本戦、広島戦の連敗後、リージョ氏が電撃的に辞任し、昨年途中にリージョ氏が監督に就任するまでも監督を務めていた吉田氏が監督に就任して3試合目のリーグ戦です。僕は、この試合で始めて吉田監督となってからの神戸を見たので、その神戸の印象、分析をしていきます。もちろん、札幌についてもしっかり書きます。両チームの守備戦術がとてもシンプルなものだったので、特に両チームの攻撃戦術の分析となります。

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ゴール 北海道コンサドーレ札幌 2 : 1 ヴィッセル神戸

北海道コンサドーレ札幌 68’進藤 75’鈴木

スターティングメンバー

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まずは両チームのスタメンから見ていきます。ホームの札幌は、前節の磐田戦からは、A・ロペスがスタメンから外れ、荒野がシャドーに入りました。

アウェーの神戸は、前節川崎戦から三原、サンペール、小川、イニエスタに代わって橋本、三田、郷家、田中がスタメンに起用され、4人メンバーが変わりました。

札幌・攻撃 神戸・守備 ~神戸の守備を破壊できたワケ~

では試合の分析をしていきます。

まずは、札幌の攻撃、神戸の守備から。

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神戸は4-4-2で守備的プレッシング。自陣にブロックを組んで構えます。札幌の方は、ボランチの宮澤(深井の場合もあった)がリベロのキム・ミンテの左横に下りて、それに連動してリベロのキム・ミンテ、右CB進藤、右WBのL・フェルナンデスがずれます。なので、左右非対称の4バックのようになっています。左右非対称の4-1-5のようなシステムです。

では次に神戸の4-4-2と、札幌の4-1-5の噛み合わせをご覧ください。

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この図のように、札幌は神戸の第一PLに対して3バックなので3対2の数的優位で、第三PLに対しても5対4の数的優位です。つまり、一番後ろと一番前に数的優位を得ている、ということです。

つまり、神戸の4-4-2に対して札幌の4-1-5は、とても相性が良いわけです。相手の2つのPLに対して数的優位なわけですから。

ではここから、この試合で多く見られた札幌の攻撃の形を見ていきます。

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まず一つ目。左CB福森が相手2トップ脇から持ち運んで第一PLを突破し、フリーの状態で左シャドーのチャナティップに縦パスを打ち込む、というプレーです。また、ここがポイントで、チャナティップは、フリーで縦パスを受けていて、前を向くことができていました。

なぜチャナティップはフリーで縦パスを受けることができていたのでしょうか。図にも示しましたが、相手右SB(西)はサイドに張っている左WBの菅が気になります。なぜなら自分のポジションはサイドのバックですし、中のIRにポジショニングしている選手(シャドーのチャナティップ、荒野)に自分がアタックすれば、サイドにスペースが空いてしまい、自分のケアする範囲から崩されてしまいます。

そして、相手右CBは、中央レーンのCF鈴木が気になります。なぜなら、自分の外側と、内側にフリーの相手がいたとして、特別なタスクのない限り、どちらを優先してマークするべきかと言うと、絶対に内側の相手です。なぜなら、ゴールに近いのは内側だからです。ましてや、チームの守備ブロックの最後尾を務めるCBならば。サイドに出て行ってしまっては大変なことになります。且つ、CBはもう一人いる(左CB宮)ので、そっちにマークをしてもらえれば良い、と考えた方もいらっしゃったかもしれませんが、一番ゴールに近い相手のCFを、1対1にしてしまっては、自由に動かれてしまいますので、一人のCFに対して二人CBがいるなら、基本的に2対1の数的優位でCFに対応したい。なので、左CBの宮だけにCFのマークを託すのは避けたいです。

ですから、右CBダンクレーは、中央のCF鈴木を見ます。よって、IRの左シャドー・チャナティップがフリーになるわけです。そして、ボール保持者の福森は2トップ脇のスペースから3対2の数的優位を生かして持ち運び、フリーとなっていますし、福森ですので、確実に精度の高い縦パスを入れることができるわけです。

ここでチャナティップに縦パスが入って攻撃のスイッチが入り、スピードアップして打開を図ります。

続いて二つ目。

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この二つ目も、相手2トップ脇のスペースから福森が持ち運んでいる、ということは共通です。

そこから、一気に右WBのL・フェルナンデスにダイアゴナルのロングパスで展開します。

図にも示したように、CF鈴木、右シャドー荒野が左前に向かってランニングします。それによって、相手左CB、左SBを自分の方に引っ張ることができます。

なぜなら、先ほども書いたように、守備は、ゴールの近い内側優先です。なので、相手の左CB、左SBは、自分の担当マークである鈴木、荒野について行かなくてはなりません。そうでなければ、福森に裏へのロングボールを通されてしまい、決定機を献上してしまいます。そうすると、左CB、左SBが持ち場を離れて中央に絞ることになるので、神戸の左サイド、札幌からして右サイドにスペースが空きます。そのスペースをWBのL・フェルナンデスがランニングで突いて、福森からのロングパスを引き出します。

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そして、L・フェルナンデスが裏に抜け出してパスを受け、仕掛けてドリブル突破からクロスを折り返し、決定機を作り出す。L・フェルナンデスは、突破力がとても高く、相手を抜き去ってクロスを入れるところまでに到達する確率が非常に高い。

また、ワンタッチプレーでのコンビネーションを発揮するシーンもありました。

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そして、ここまで紹介した2パターン以外にも、福森からチャナティップに縦パスが入って、チャナティップからL・フェルナンデスにロングbパスが出て、L・フェルナンデスが仕掛けてクロスを入れる、という2つのパターンの合わせ技も何度かありました。

ではここまでの札幌の攻撃をまとめます。

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このように、神戸の第一PLに対する3対2の数的優位を生かして確実に第一PLを突破して、福森がフリーでボールを持つことができます。そして、チャナティップに縦パスが入るパターンの部分で書きましたが、相手第三PLに対して5対4の数的優位を獲得していることで、ライン間の受け手側がフリーになれる状況を作り出しているので、出し手がフリーで、受け手もフリーな状況なので、確実に、正確な縦パスをライン間に入れて、第二PLを突破することができるわけです。

なので、それは同時に、相手の4人並んでいる第二PLを完全に無力化することを意味します。

最初に紹介した、噛み合わせの図で示しましたが、相手の第一PL、第三PLに対して数的優位を獲得出来ているので、このように第二PLを無力化できるわけです。受け手がフリーの状態でライン間に縦パスを入れて、CF、シャドーの動きで右サイドにスペースを作り出して、L・フェルナンデスに展開してL・フェルナンデスの突破からクロスを入れて、決定機を生み出すことができるわけです。

また、攻撃のスイッチが入った時に、ワンタッチプレーの連続のとても美しいコンビネーションを発揮するシーンがあって、それは全選手が同じ展開を描いて、共有しているからこそでしょう。論理的にもしっかり設計されていて、戦術では解決できない選手間のコンビネーションも素晴らしい。とても魅力的な攻撃をするチームです。

最後に、神戸からすれば、守備に関しては吉田監督は無策だったと思います。4-4-2で構えただけ。札幌が具体的な攻撃戦術が落とし込まれていて、とても脅威となる攻撃をするチームで、4-4-2に対して非常に強いシステムで攻撃するチームだ、ということは分かっていたはずですが、あまりにも具体性のない守備戦術でした。

札幌・守備 神戸・攻撃 ~狙いは良いがあと一歩~

続いて札幌の守備、神戸の攻撃について。

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札幌の方は、5-4-1で第一PLをハーフライン付近に設置し、プレッシングをかけずに構えます。時より左SHチャナティップが前に出て、相手2CBにCF鈴木と共に2対2を作り、CBの両方を消すシーンがあったとはいえ、重心は低く、後方に人数をかけてブロックを組みます。

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それに対して神戸は、SH+2CFが相手のDFラインに張り付き、4トップ化します。そして、相手の5人のDFラインを4人で引っ張り、ラインを押し下げ、ライン間を広げるタスクです。なので、4-4-2ではなく4-2-4の攻撃システムでした。

しかし、ここからが肝心なのですが...

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上図のように、4トップの動き出しがとても少なかったので、相手のDFラインを押し下げて、ライン間にスペースを作り出すことはできたのだけど、そこからスペースを作ったライン間を使うための4トップの動き出しが無いため、ライン間に縦パスを入れることができない。後方でSBやCB、ボランチが延々とパスを回すことになっていて、結局無理矢理縦パスを入れたりして奪われる、という展開になっていました。

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4トップの動き出しがあれば、上図のように、アタッカーがDFラインを押し下げてスペースを作り出したライン間で動き出して縦パスを引き出し、そこに縦パスが入って、SBの攻撃参加を使ってクロスを入れるか、CFに渡してゴールに直結するプレーを期待しよう、というような攻撃ができたわけです。

なので、吉田監督の4トップ化して相手の5人のDFラインに張り付いて押下げ、ライン間を広げてスペースを作り出す、という狙いは良かったのですが、それを実際に実行する部分が無く、配置だけだった、ということです。もう一歩でした。

後半 修正してきた吉田監督

先ほどの章で吉田監督の策は、配置だけになってしまっていて、実際に広げたライン間を使う部分が無かった、と書きました。

ですが後半、吉田監督は修正を施してきました。

それがこちら↓

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上図のように、SBが上がって高い位置を取り、WGがIRにポジショニングします。なので、前半は4-2-4のままでしたが、2-2-6となりました。

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それによって、SBが相手WBを張りつける役を担うようになったので、相手のWBは高い位置を取ったSBを気にします。そして2トップは前半から引き続き、相手の相手3CBに張り付いて、ラインを押し下げるタスクを請け負っているので、3CBは2トップが釘付けにしています。なので、IRにポジショニングしているWGの郷家、古橋がフリーになります。SB+SH+CFの6人で、相手の5バックに対して6対5の数的優位で一人のフリーを獲得し、2トップで3人を釘づけにしているのでさらにもう一人フリーを作り出す事ができる。6対5だけれど2人フリー、ということです。

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あと、書き忘れてましたが、左ボランチの山口が左SB-左CB間に下りて来てビルドアップします。

そして、

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SBを上げて、6トップ化してIRのWGをフリーにしたので、WGが縦パスを引き出して、そこからチャンスになりそうなシーンを作り出す事ができ、ペースを握ることができたような時間帯がありました。

ですが、このライン間のIRのWGに縦パスを入れて、チャンスを作る、というプレーが、あまり再現性高く行うことができず、決定機には持ち込めませんでした。なので、フリーのWGに縦パスを入れる、というのは良いのですが、縦パスを入れるまでのプロセスも、明確になっていればもっと良かったと思います。

また、吉田監督も試合中に指示を出していたみたいですが、2トップの田中、ビリャの動き出しが少なかった。確かに3CBに張り付いて、ラインを押し下げるというタスクを担っているのですが、張り付いてばかりではいけません。ラインを押し下げたところから動き出して、ライン間で縦パスを引き出さなければいけません。2トップを含め、4トップの動き出しが全然から前半は攻撃が停滞したわけなので。その2トップの動き出しも必要だったかな、と思います。

データ分析 ~データで見る札幌の攻撃ルート~

(データ引用元:Football LAB)

最後にデータ分析です。

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(一枚目が前半、二枚目が後半)

最初にプレーエリアのヒートマップです。前半の札幌は自陣の左サイドが͡濃くなっていて、神戸は逆に敵陣側の右サイドが濃くなっています。

後半は、札幌の方は敵陣側の両サイドが濃くなっていまして、神戸の方は自陣の左サイドが濃くなっています。

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そして、こちらはFootball LABの15分ごとの主となる攻撃スタイルを示したデータを、グラフにしたものです。

これを見ると、札幌はセットプレイが一番チャンスになっていて、次はゾーン2,3からのカウンター。そして3番目に両サイドからの攻撃となっていて、敵陣の中央での攻撃は15分ごとに区切ったとして、全く主体となっていなかった、ということです。

今回は、僕はセットプレーのデータ分析ができるソフトを持っていないので、セットプレーのデータ分析は難しいです。なので、左の福森からチャナティップ経由も含めて一気に右のL・フェルナンデスに展開してクロス、というダイナミックな攻撃を見せた札幌のサイド攻撃を掘り下げてみたいと思います。

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まずは攻撃CBPのランキングから。このランキングを見ると、福森と、チャナティップと、L・フェルナンデスが上位5位に入っていまして、まさに僕の分析通りこの3人が好パフォーマンスを見せていてことが分かります。

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続いてパスCBP。ここでも先ほどの3人がランクインしています。そして、攻撃CBPと同じく、攻撃時はDFラインに下りてリベロとしてプレーした宮澤、そしてアンカーとしてプレーした深井がランクインしていまして、福森、チャナティップ、L・フェルナンデスに加えて、後方でビルドアップに参加した二人も高い数値を記録しています。

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続いてクロスCBP。ここでも福森、L・フェルナンデスがランクインしています。

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(一枚目が福森、二枚目はL・フェルナンデス、三枚目はチャナティップ)

ここに出した3枚の画像は、福森、L・フェルナンデス、チャナティップの今シーズンすべての試合のCBPポイントの表です。

これを見ると、最初の福森はドリブル、クロス、攻撃のCBPがシーズンの中でトップクラスの数字で、L・フェルナンデスは、攻撃、パス、ドリブル、パスレシーブの4部門のCBPポイントがシーズンの中でトップクラス。そして、クロスのポイントは精度が高ければポイントがつくわけではないのでシーズンの中で6位タイですが、何度も仕掛けて突破してクロスを入れ、シュートに繋げていました。チャナティップは、シーズンの中でトップクラスの数字は出していないものの、この試合の中では攻撃、パスCBPポイントはトップクラスで、パスCBPは一番なわけで。この試合において突出したパフォーマンスはしたわけです。

そして、左WBの菅は、攻撃、パス、クロスのポイントが高くありません。

なので、福森→L・フェルナンデス&福森→チャナティップ→L・フェルナンデスという攻撃ルートが確立されていた、ということが言える、ということを今回のデータ分析の結論としたいと思います。

総括

札幌 攻撃時、ボランチの宮澤が下りてリベロを務めて、4-1-5システムに可変。そして、2トップ脇のスペースから持ち運んだ福森から数多くのチャンスが構築された。相手の4人のDFラインに対する5対4の数的優位を生かしてIRの左シャドー・チャナティップがフリーの状態を作り出してチャナティップに縦パスを入れ、チャナティップが前を向いてスイッチが入ってからの打開であったり、福森が持った時にCF鈴木、右シャドーの荒野が左斜め前に向かってランニングして左CB、左SBを左斜め前に引っ張って右サイドにスペースを生み出し、L・フェルナンデスがそのスペースにランニングしてロングパスを受けて抜け出して仕掛けてクロス。

それだけでなく、全選手が同じ絵を描けているから故のワンタッチプレーの連続のコンビネーションを発揮して崩すシーンもあった。

神戸 SH+CFが相手の5枚のDFラインに張り付いてラインを押し下げ、ライン間を広げてスペースを生み出す、というプランだったが、4トップが張り付いたままで、動き出しがなく、せっかく作り出したライン間のスペースを活用できず、後方からボールが前進せず、攻撃が停滞。

しかし、後半は吉田監督が修正を施す。SBを上げて、6トップ化。SB+CFの4人で相手の5バックを張りつけ、IRのWGをフリーにする。そしてフリーのWGに縦パスが入ってチャンスになりそうになるシーンを作り出すことができたが、あまり再現性が高くなく、縦パスをいれるまでのプロセスまで明確になっていれば、もっとチャンスを作る事ができたはず。また、2トップが吉田監督も指示を出していたみたいだが、動き出しが無く、あまり存在感が無かった。

そして守備では、4-4-2の守備的プレッシングで構える、というプランだったが、あまりにも単調で、札幌が得意とする4-4-2システムであるのに加えて、具体的な対策のない守備戦術だった。

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