浦和の攻撃における良さ悪さ&鹿島の対3-4-2-1を検証~浦和対鹿島 レポート~[2019J1 第16節]

全文無料公開。面白いと感じていただければぜひ投げ銭150円お願いします。

フォロワー400人突破ありがとうございます。Twitter(@soccer39tactics)もやってます。

今回取り上げるのは、ACLの影響で延期になり、ミッドウィーク開催となった浦和対鹿島の埼玉スタジアム2002でのゲームです。浦和がボールを握り、鹿島が守備の時間が長くなりながらも耐え、ゲームが動かなかった中で、77分に鹿島が伊藤のヘッドでワンチャンスをモノにして先制。しかし、浦和も88分、山中の精度の高い左足のアーリークロスに、ファーサイドに逃げて相手の死角に入り、フリーになった興梠のヘッドで同点に。予定の2021年から前倒しにして鹿島に加入した上田の出場も終盤ありましたが、鹿島としては勝ち点2を失った形の1-1ドロー。

今回の分析では、主に浦和の攻撃、鹿島の守備にフォーカスし、浦和の攻撃における良い点と悪い点、鹿島の「対3-4-2-1」の守備戦術について書いて行きます。

もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!リクエストがあればツイッター(@soccer39tactics)のコメント、DM、この記事の下のコメントにでもお書きください。

ハイライトはこちら↓

Jリーグ分析マガジンはこちら↓

序章 スコア&スターティングメンバー

浦和レッズ 1 : 1 鹿島アントラーズ

浦和 88’興梠

鹿島 77’伊藤

画像1

では両チームのスターティングメンバーについて。ホームの浦和は、3-4-2-1で前節磐田戦(○3-1)の85分に二枚目のイエローで退場となった柴戸に代わって青木の相方にはエヴェルトンが起用されました。それ以外は前節と同じメンバーです。

アウェイの鹿島は伝統の4-4-2。GKは前節鳥栖戦(○2-1)では曽ヶ端が起用されましたが、レギュラーのクォンスンテがチョイスされました。こちらもこの一人の変更以外は同じメンバーを大岩監督が送り出しました。

第一章 伊藤の先制点を徹底分析

二章、三章の浦和攻撃、鹿島守備がメインとなりますのでこの章は短くなりますが、最初に浦和の守備について。

画像2

浦和は5-4-1で守備的プレッシング。プレッシングは全く行わず全体の重心を下げ、自陣に人口密度の高いブロックで鹿島を待ち受けます。完全なゾーンで、マンツーマンの要素は組み込まれていません。

一方で鹿島の方は、前後半通してボールを保持し、ビルドアップから攻撃を組み立てていく時間は短かったです。その中でハーフタイムに大岩監督は「距離感を近く」と指示を出したようですが、見事にその修正が効いていました。なので後半はボールを保持した時に近い距離間でボールを持っていない選手が保持者にサポートを提供していて、安定したボールポゼッションを築くことが出来ていました。

ではここから、77分の鹿島の先制点のシーンを分析します。

画像3

上図には書いていませんが、セルジ―ニョから土居にパスが入る前段階を紹介します。浦和のボランチのエヴェルトンは自分のゾーンに立てておらずライン間をケアできていなかったのでライン間左IRで土居がパスを受けており、土居からセルジ―ニョに渡って幅を取ることが出来ています。

そしてセルジ―ニョが幅を取ってボールを持った時に、浦和にとっての最初のミスは、左CB槙野が左IRをケアしていなかったこと。浦和は3枚CBがいますので、槙野が例えサイドに引っ張り出されても2枚CBが残っているので、充分にクロスに対応できるのですが、槙野は中央に留まり、スライドして左IRに立ち、スペースを潰すことが出来ず。なので、土居がフリーの状態でセルジ―ニョからライン間左IRでパスを受け、その後も槙野の寄せが遅れたのでドリブルでゴールラインギリギリをえぐって滞空時間の長いハイクロス。

そのクロスに、土居にパスが入った段階で橋岡の死角に入り込んでいた伊藤が完全なフリーでのヘディングシュートでネットを揺らしました。ここで浦和にとっての二つ目のミスは、逆サイドのWB宇賀神が絞りを怠ったことです。ここでもしも宇賀神がしっかりエリア内中央まで絞って伊藤をマークしていれば、宇賀神は伊藤に対してフィジカル能力で勝てる選手ではありませんが、何とかなったかもしれません。

というように、前段階も含めるなら、ボランチのライン間ケアのサボり、槙野の左IR埋め損ない、宇賀神の絞りを怠ったこと。この3つのミス、欠陥が生じたので失点を喫しました。この失点がなければ勝っていた可能性も勿論ありましたので浦和からすればとても勿体ない失点でした。

第二章 鹿島の「対3-4-2-1」守備戦術を分析

ではこの章では鹿島の「対3-4-2-1」守備戦術ということで、広島、浦和という3-4-2-1システムで攻撃する相手に対して一貫して採用された守備戦術を分析します。

画像4

4-4-2の完全ゾーンで守備的プレッシング。こちらも浦和と同じく敵陣でのプレッシングは行わず、自陣にバランスが担保される4-4-2でブロックを組んで構えます。

では以下で具体的に見ていきましょう↓

画像5

鹿島は第一PLは二人ですので、相手3バックに対して2対3の数的不利の状態に陥っています。その2トップの脇で相手サイドCBにボールを持たれるとボール側のSHが前に出てプレッシャーをかけ、2トップ+SHで局地的に3対3で相手3バックに対応します。

画像6

また、第一PLに対する数的不利は上記の方法で解決していますが、4-4-2対3-4-2-1では、第三PLに対しても4対5の数的不利が生じています。では鹿島はこちらの数的不利はどう解決するのでしょうか。

画像7

上図のように、サイドにボールがある時(サイドCBが持っている時も当てはまる)ボール側のボランチが斜め後ろに下がり、相手シャドーをマークすることで第三PL4人+片側ボランチの5人で相手5トップに対応し、数的不利を解消していました。

しかし、この守備メカニズムには大きな弱点があります。

画像8

ボール側のボランチが下がって相手シャドーをマークするため、本来ボランチがマークを担当していた相手のボール側ボランチがフリーに。その相手ボランチにパスを通されると、そこからマークがずれたり、フリーでボールを持たれてチャンスを作られてしまいます。この弱点が17節広島戦では露呈し、フリーになるボランチから打開されていました。

では今回の浦和戦ではどうだったでしょう。

画像9

次章で言及する浦和の攻撃に触れる形になりますが、浦和は頻繁に左ボランチの青木が下りて4バック化していました。それによって鹿島からすればよりマークが明確になっただけでなく、

画像10

相手が1ボランチになりましたので鹿島のボール側のボランチが相手シャドーをマークしても、中央に残った方のボランチと相手ボランチが1対1ですので浮くことは無く、弱点を利用されてピンチとなるシーンはありませんでした。

浦和の攻撃の話になりますが、この視点から見て、青木のDFラインに下りる動きは無意味であり、必要が無かったことが分かります。

ですがこれは相手の必要のないプレーによって弱点を使われなかっただけであり、鹿島がこの弱点に対する戦術的修正を落とし込まれた状態で試合に臨んだので弱点が隠れていたわけではありません。

ですので、ここからはその鹿島の守備の修正案を提示したいと思います。

画像11

今採用されているボール側ボランチがシャドーをマークして第三PLの5トップに対する数的不利を解消するプレー原則は継続し、中央に残っている逆側のボランチが思い切ってスライドしてフリーになる相手のボール側ボランチをマーク。逆サイドのSHが絞ってもう片方の相手ボランチをマーク。SHは逆サイドCBにパスが出れば、そこから前に出て対応すればよいわけであまりSHポジションからの出て行く守備と運動量は変わりません(頭脳の運動量は増えますが、それが勝つには必要です)。そして広島と対戦した時のDヴィエイラのようなターゲットマンタイプのCFならあまり気にならないと思いますが、この試合の興梠相手では露呈した(この点に関しては次章で詳しく書きます)ようにCBはゾーンを強調し過ぎず、相手CFが下りて行き、縦パスを受けられてしまいそうな場面では食いついて行って自由にさせないことも必要だと思います。

今の段階の鹿島の守備はボール側ボランチが相手シャドーをマークして第三PLの数的不利を解消するところまでは良いものの、それによって生まれるスペース、フリーの選手を消す段階までは落とし込まれていないので僕が提示した方法でなくても、しっかり「その場しのぎ」のような状態にならない守備戦術が落とし込まれれば、より強固な守備ブロックになるな、と思っています。

第三章 興梠と武藤の相互作用&改善されない個人技依存による非効率

ではこの第三章では浦和の攻撃について分析していきます。浦和の攻撃は浦和対仙台のレポートでも書いているので、そちらのレポートもぜひ参考にしてください。今回の鹿島戦からはその仙台戦とは別の視点で浦和の攻撃を分析します。仙台戦のレポートでは言及しなかった良い部分についても書いて行きます。

画像12

まず鹿島の守備ですが、前章で言及したようにボランチはサイドに流れてシャドーをマークしますので、常に中央にポジショニングしてライン間をケアしているわけではなく、CBはとてもゾーンを強調していて前に出る守備はしません。なので、ライン間にスペースが無いわけではなく、CF興梠や左シャドー武藤が少し下りて縦パスを受け、そこからスイッチが入って連係で打開することが何度かできていました。

このポイントに関して、ただ単に縦パスが入っていただけでなく、興梠と武藤が素晴らしい連係を見せ、相互作用によって縦パスをうまく引き出していたのでその興梠、武藤の連係について。

画像13

上図に示したように興梠が裏に飛び出して相手第三PLを引っ張って第三PLの意識を後ろに下げさせ、武藤が下りる動きでライン間で浮き、縦パスを引き出す。この逆のシーンもありましたが、興梠と武藤が前後反対の動き出しをして相手の重心の逆を突き、片方が相手の重心を後ろに重心を向けさせてから、もう片方が下りて相手の「前」で縦パスを受ける。この連係を何度も見せていまして興梠と武藤の阿吽の呼吸を感じさせました。

このように浦和はFWが下りて行って縦パスを引き出すプレーをしていたので、鹿島はCBがゾーンを強調し過ぎていることによる問題が生じていました。なので前章の修正案の中に「CBが時に食いつく」を組み込みました。

画像14

また前半はほとんどWBを使って幅を取る攻撃は見せませんでしたが、後半はWBを使ってWBのドリブル突破でチャンスメークするシーンが増えたのでこの点については大槻監督がハーフタイムに修正を施したのかもしれません。

ですが、実は修正を施していたとしても中途半端な修正ですし、根本的な大問題は全く解決されていませんでした。

ではその大問題とは何なのか!

画像15

大問題とは「個人能力への依存」です。興梠と武藤の連係はとても素晴らしいんですがそこに縦パスを入れるのは完全にCBの個人能力に頼っていて、全てはCBがどれだけ縦パスを通せるか、に懸かっているので依存してしまっている状態です。

画像16

相手の守備戦術をしっかり分析して相手の弱点を明確にし、トレーニングでその相手の弱点を活用して効果的に、有利に攻撃する方法、プレー原則を落とし込み、ピッチ上でそれを再現する必要があります。例えば今回の鹿島戦ならば、「鹿島のボール側ボランチがシャドーをマークすることによってフリーになるこちらのボール側ボランチを使って攻撃」です。

前述の様に現時点の浦和の攻撃は個人技任せになっていて、CBの縦パス一つを見ても、「CBが縦パスを入れれそうなタイミングで入れる時に入れる」になっている。その時より、例えば「片側のサイドCBが保持して相手を片側サイドに引っ張ってひとつ飛ばしのパスで逆サイドCBにパスを送り込み、相手のスライドが間に合わない時間を利用し、フリーの状態で縦パスを打ち込む」というチームとして組織的なプレー原則を落とし込んでプレーし、その状況を再現性高く作り出すだけで大きく効率は高まり、CBが「縦パスを入れれそうなタイミング」というのは生まれやすくなります。

個人能力が最終的にプレーにおける成功・失敗を決めるんですが、それでもただ単に個人能力任せでプレーするのではなく、何らかのプレー原則をチームの中で設定して全体が共有し、落とし込まれるだけで個人能力の成功の確率が上がり、縦パスに関してはより多く縦パスが入り、効率的にチャンスを作り出すことに繋がるわけで。

このようにこのブログの中では何度も書いていますが、プレー原則が落とし込まれて、ピッチ上でそれが再現できるようになるだけで大きくチームとして効率が良くなり、よりチャンスの数を増やすことが出来る。仙台戦のレポートではゾーン3の崩しの局面の視点からプレー原則の重要性について書いていますが、浦和はビルドアップについても共通で。そこが浦和の今シーズンの低迷から抜け出せるかを決めます。

終章 総括

浦和
・守備では完全ゾーンの5-4-1ブロックでプレッシングは行わない。
・3つの勿体ない欠陥から、橋岡の。死角に入り込んでフリーになった伊藤にヘディングシュートを決められて失点。
・攻撃では、興梠と武藤が前後反対の動き出しをすることで相手の重心の逆を突いて縦パスを引き出す、という素晴らしい相互作用を見せた。
・CBの縦パスにしても完全に個人能力に依存していて、その個人能力が成功する可能性を上げ、より効率的にチャンスを作り出すためのプレー原則が落とし込まれていないので、非効率な攻撃になっている。
・プレー原則がチーム内に落とし込まれ、効率的にプレー出来るか、出来ないかが今シーズンの成績を決める。
鹿島
・攻撃では、大岩監督のハーフタイムの指示からボールポゼッションが改善された。
・追いつかれてしまったものの、土居の頭の良いスペースアタックから良い動き出しでフリーになった伊藤のヘッドで先制。見事にワンチャンスを生かした。
・守備では4-4-2で守備的プレッシング。プレッシングをかけず自陣に構える。
・2トップ脇を相手サイドCBに使われそうになるとボール側SHが前に出て対応し、局地的に3対3の同数を作り出す。
・また、サイドにボールがある時にボール側ボランチが相手シャドーを斜め後ろに下がってマークすることで第三PLの5トップに対する数的不利を解消。
・第三PLに対する数的不利を解消するところまでは良いが、それによって生じる副作用をどうするのか、までは落とし込まれておらず、その弱点が広島戦では露呈。
・↑のように弱点は明確だが、この試合では相手が必要のない4バック化をしていたので弱点を利用されることは無かった。
・しかし、しっかりと相手からの外的要因では無くて自分達がその副作用をケアするプレー原則を落とし込み、自ら弱点を隠す必要がある。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!リクエストがあればツイッター(@soccer39tactics)のコメント、DM、下のコメントにでもお書きください。全部やるとは限りませんのでご了承ください。

ここから先は

112字

¥ 150

ご支援いただいたお金は、サッカー監督になるための勉強費に使わせていただきます。