戦術的に「強くなっている」バイエルン&久保のデビューをレポート ~バイエルン対レアル 分析~[ICC2019]

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今回は、欧州サッカーのプレシーズンから、バイエルン対レアルを分析していきます。この試合、ブンデスでの8連覇とCL優勝を目指すバイエルンがアザール、久保、ヨビッチといった新戦力が軒並みデビューを果たしたレアルを3-1で破りました。

この試合から、バイエルンが見せた攻守に渡る戦術的な魅力と、レアルの攻撃コンセプト、デビューしたアザール、久保、ヨビッチのレポートを書いて行きます。

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スコア バイエルン・ミュンヘン 3 : 1 レアル・マドリード

バイエルン・ミュンヘン 15'トリッソ 67'レバンドフスキ 69'ニャブリ

レアル・マドリード 84’ロドリゴ

序章 スターティングメンバー

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まず両チームのスタメンから。ほとんどの選手が途中で交代したので、一緒に交代出場した選手も書いておきました。レアルの方は、ベストメンバーと言える布陣。クルトワ、マルセロ、Sラモス、ヴァラン、カルバハル、モドリッチ、クロース、イスコ、アザール、アセンシオ、ベンゼマというワールドクラスの選手が名を連ねました。

バイエルンの方もアルプを除いてほぼベストメンバー。レバンドフスキがスタメンではありませんでしたが、ノイアー、キミッヒ、ティアゴ、ミュラー、コマンといったワールドクラスの選手が起用されました。

第一章 バイエルンの「ひし形」戦術を解剖。

ではまずこの第一章では、バイエルンの攻撃を分析。

では昨シーズンのバイエルンの説明から、今シーズンを迎えるまでの流れについて最初に書いておきます。

昨シーズンのバイエルンは、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、かなりガタガタでした。新監督に据えられたニコ・コバチが戦術に選手をハメ込むタイプの監督でして、且つビッグクラブを率いた経験が無かったので上手く選手をマネージメントできず、ハメスを中心にワールドクラスの選手から不満の声が。チームの成績も9-11月くらいまではとても低調でドルトムントに独走を許していましたので、本当に年末調子を上げるまでは「ニコ・コバチ解任」が現実味を帯びていました。そこから、クラブのレジェンドであるCEOルンメニゲ、会長ヘーネスからの助言もあって選手に合わせる形で何とかマイスターシャーレを防衛。リーグのタイトルを獲得する形になりました。

そして迎えた今シーズン、ロッベン、リベリーというベテランの大スターが退団して、不満分子になっていたハメスもバイエルンに今シーズンいないことは確実。そしてフンメルスも放出し、リュカ、パバールという若いDFを獲得して、フレッシュな陣容に整えました。それによって監督よりも権力を持っていそうだったり不満分子になっていた選手を放出したことで、コバチの色をより表現できるようなチームを作れるようにしたのかなと思います。

そのフレッシュな陣容になったことで、この試合でも昨シーズンよりもガッツリ戦術を落とし込んで、組織的なプレーをしようとしているのが感じられましたので、この章ではそのバイエルンの攻撃について。

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バイエルンは、基本は4-3-3のまま。しかしこれから説明するのですが場合によってSBはポジションを上げて幅を担い、WGはライン間IRに入っていきます。そして、CFもサイドに流れていくシーンが多く見られました。

レアルの方は、攻撃時にはトップ下を務めるイスコとCFベンゼマが横並びになり、4-4-2でプレッシングを行わず守備的プレッシング。それ以外に具体的なプレー原則は見られず、組織的な守備をしているわけではありません。というより、いかにアザールやイスコらの守備負担を減らし、他の選手が頑張るか、というのが主目的ですので4バックや2ボランチが何とかする、というような感じです。

では具体的なバイエルンの攻撃戦術について。ポイントは「ひし形」です。

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バイエルンは、ビルドアップのフェーズで主にWGがライン間IRに入り、WG,IH,SB,CBでひし形を形成していました。

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また、CFがライン間IRにポジショニングしてひし形の上頂点となることもありました。このように、最初にも書きましたが、CFが頻繁にサイドに流れて来てサイドでのプレーに絡み、ビルドアップの出口になったりするタスクを与えられていました。前半CFでプレーしていたミュラーだけでなく、レバンドフスキもそのプレーをしていましたので、このタスクをCFに与えてプレーさせるのは今シーズンの攻撃の変化の一つだと思います。

ではその「ひし形」を形成し、それをどのように活用するのか。

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ひし形を形成することにより、相手SBは幅を担うSBを気にしますし、相手2CBはCFを気にしますからライン間IRの上頂点が浮きます。そして、「浮いている上頂点を担う選手にパスを送り込み、ライン間IRに進入する」というのがバイエルンのビルドアップにおけるゲームモデルです。

ではそのゲームモデルを遂行するためのプレー原則↓

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上図のように、

①CBから幅を取っているSBにパスを出して相手SHのラインを突破。
②瞬間的に相手SBに対して幅を取って受けたSBとライン間IRにポジショニングしているWGで2対1の状況を作り出し、相手SBを引っ張り出してフリーとなるWGにパス→ライン間IR進入。

という2段階のプレー原則です。

このゲームモデル、プレー原則によってひし形を活用し、サイドからのパスワークでライン間IRに進入しようとしていました。

そしてライン間IRに進入することが出来たら、WGのドリブルや、SBとのコンビネーションで崩します。

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また、相手がマンツーマンでマークを当ててきたら、相手CB間が空きますから、そのやり方を相手がして来た時に、逆側のIHが飛び出して来て、一気にロングボールを引き出し、GKと1対1になるようなチャンスを作り出すプレー原則があると、もっと万能で効果的な攻撃戦術になると思います。

第二章 「最前線」がカギを握る4-1-4-1&銀河系の攻撃戦術

ではこの章ではワールドクラスのタレントを並べたレアルの攻撃戦術と、バイエルンの4-1-4-1守備戦術について。

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バイエルンは、4-1-4-1で自陣にブロックを組み、プレッシングをかけるわけではなく守備的プレッシング。

レアルは、基本的に4-2-3-1のままですが、ポジショニングに自由が与えられているのでSBがポジションを上げたり、SHが内側に入っていく。ボランチも上がったりする。

レアルの攻撃について書いた流れで久保、ヨビッチ、アザールのレビューに移った方がスムーズだと思うので先にバイエルンの守備戦術について。

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バイエルンはIHが相手ボランチを掴んで、その後方で余っているアンカーがライン間IR(自分の脇)でパスを受けようとする選手をマークする、という守備戦術でした。IHで相手ボランチに制限をかけて、ライン間IRへの縦パスを余っているアンカーがケアすることで、CBからのビルドアップの選択肢をサイドに限定し、外回りの攻撃で停滞させる、というような狙いがあったのかなと思います。

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しかし、CFのミュラーが相手CBへのプレッシャーを怠っており、CBにフリーでボールを持てる状態にしてしまっていたのでライン間IRへの縦パスを何度も入れさせてしまっていました。

でも、CBにプレッシャーがかかっていなくてもライン間IRで縦パスを受けようとする相手選手をアンカーがマークしようと思えば出来るわけです。ではなぜそれをしないのか、しないべきなのか。

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CBにプレッシャーがかかっておらず、フリーで持たれているのでCBは自由にパスを出すなり運ぶなりプレーを選択することが出来ます。その状況でアンカーがスライドしてライン間IRにポジショニングしている選手をマークすると、逆にIRよりもゴールに近い中央にスペースが空くので、そのスペースに縦パスを打ち込まれ、フリーで受けられて前を向かれてしまいます。なのでアンカーはスライドしてライン間IRの選手をマーク出来ないので、ライン間IRの選手にガンガン縦パスを通されていました。

というように図にも書きましたが、最前線のCFが守備を怠ると相手が自由になるので、後ろが連動した守備が出来ず、後手に回る守備になる。

なので、CFがプレッシャーをかけて中央への縦パスの選択肢を消して、サイドに向かってのプレーに選択肢を限定し、後ろが連動できるようにしなければならない。それが出来れば、中央への縦パスの可能性は無くなり、アンカーがスライドしてライン間IRにポジショニングする相手をマークすることが出来る。

このCFの相手CBに対しての守備が今後の課題です。

ではここからレアルの攻撃戦術について。

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レアルは、CBのSラモス&ヴァラン、2ボランチのクロース&モドリッチが高精度のサイドチェンジを配給することが出来ます。そしてレアルはそのサイドチェンジを有効活用した攻撃をします。

片側サイドでポゼッションして相手をそのサイドに寄せて、サイドチェンジを配給。

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そしてサイドチェンジが通れば、相手がスライドを完了させてブロックを整え切る前にコンビネーションや、個人技で崩す。

この試合のバイエルンは、プレシーズンだからということもあると思いますが、そこまで逆サイドにサイドチェンジをされたときのスライドが速くなかったので、レアルがサイドチェンジをしたときに時間・空間がある状態でボールを持てました。なのでアタッカーが個性を解放し、チャンスを作り出すことが出来ていました。

そして、イスコやアザールは自由にポジショニングし、前述の様にボランチも時には攻撃参加し、SBマルセロ&カルバハルもSHとのコンビネーションが良好ですので、レアルらしい自由奔放な攻撃をしていました。

第三章 久保、ヨビッチ、アザールをレビュー

レアルはこの試合でメンディ―、ロドリゴ、久保、ヨビッチ、アザールがデビュー。その5選手のレビューしようと思うと長くなってしまうので今回は久保、ヨビッチ、アザールの3人に絞ります。

まずは久保のレビューからしていきたいと思います。

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久保の良さに関しては前回の多摩川クラシコの分析でも書いたのですがJリーグで見せていたプレーがこの舞台でも見られました。あまりパスが来なくても下がって受けに行かず、ライン間IRにポジショニングし、縦パスを引き出して「半身」で受けてダイレクトに前を向く。この部分は久保建英の様々な長所の中で、一番と言ってよいほど特に優れている長所だと思っています。実際今の東京は、久保のような半身でパスを受けてダイレクトに前を向くことが出来る選手がいないので攻撃が停滞しているわけで。

上図の右側に書いたように、縦パスを受けるときにゴールに背を向けて後ろ向きだと前を向くのに2タッチが必要になりますし、後ろ向きなので相手DFに背中から狙い撃ちされ、潰されてしまうかもしれません。ですが、半身の状態でパスを受けると、前方への視野を確保できますし、流れるように1タッチで前を向ける。トラップしてからターンする必要がない。Jリーグとレアル、バイエルンのレベルが違うことは明白なのですが、Jよりレベルの高いチームとの試合でJで見せたパフォーマンスをそのまま発揮できていました。

チームメイトもパスを出してくれていて、信頼されているようなので、このパフォーマンスが維持されればシーズンが始まってからのトップチームでのプレーも期待できるなと思います。

続いてヨビッチのパフォーマンスについて。

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まずヨビッチはベンゼマとは全く違うタイプの選手で、エリア内で勝負するボックスストライカーです。ベンゼマのようにサイドや低い位置に下りてビルドアップに参加したりスペースメイクをするのではなく、崩しの局面以外は関わらず両足、頭での豊富なシュートパターンを武器にフィニッシュで勝負する選手です。縦パスを受けてもシンプルにプレーし、エリア内でも動き回るわけではなく中央にドシッと構える。

この試合でもビルドアップの段階ではほとんどパスを引き出しませんし、CFポジションに留まって虎視眈々とゴールを狙っていて、シュートを打てるシチュエーションが到来するまでは、あえて消えているようなプレーでした。また、守備時のプレーについてですが、ほとんど守備には貢献していませんでした。他の選手がプレッシングをかけていても、ヨビッチは連動していませんでしたし「とりあえずやってる」感じでした。

長谷部がインタビューで語っていたのですが、長谷部が「若いんだからゴール運べ」と言っても、全く応じず、ボールの方に向かい、他の選手が運んでいる途中のゴールに向かってシュートを打ったりするらしいので我を貫く選手なんだろうな、と思います。

ビルドアップには絡みませんので、ヨビッチを活躍させるためには、どれくらい精度の高いクロスをエリア内に入れることが出来るかがとても重要になりますし、ベンゼマと共存させるならウイングで起用するのではなく2トップが良いと思います。2トップならジダンが以前使っていたような中盤がダイヤモンド型となる4-3-1-2システムが最適でしょう(イスコ、アザールなどの誰かが出れなくなりますが)。

最後にアザールのプレーについて。

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まず、ドリブルのキレは健在で、チェルシー時代よりもよっぽど自由なポジショニングを取っていて、逆の右サイドまで顔を出すシーンもありまして、サッリの率いたチェルシーではそのような自由に動くことは許されていませんでしたが、レアルに入っていきなりレアル色に染まっていました。そして守備に関してはやはりあまり多くを求められていないようです。

その中で、ライン間左IRに入っていって縦パスを受けて、ベンゼマやイスコと近い距離間でプレーするというトップ下的なプレーを見せていました。それが上図の①。そして②は、アザールが張って受けてカットインを仕掛け、それに合わせてSBマルセロがオーバーラップしていく。③は逆にアザールが縦方向に仕掛けて、マルセロがインナーラップでIR裏にランニング。

①のように中央でプレーしてコンビネーションを発揮することが出来ているし、②、③のようにアザールが仕掛ける方向に合わせてSBのマルセロが持ち前のサッカーIQでランニングのタイプを切り替えており、そのマルセロと連係してチャンスを作り出していた。縦関係となるマルセロと良い関係を構築していることが読み取れました。

しかし、マルセロは対談の噂も囁かれているのでシーズンを通してマルセロとのコンビでプレーするかはわかりません。メンディ―との連係も気になるところです。

終章 総括

バイエルン
・攻撃ではショートパスにこだわってプレーする。
・WG,IH,SB,CBもしくはCF,WG,IH,CBでひし形を形成。
・幅を担っている選手に経由して相手SBを迷わせ、ライン間IRの上頂点となっている選手にパスを送り込みプレッシング突破。
・CFは昨シーズンよりもサイドでのプレーに絡んでいくタスクを与えられている。
・相手がマンツーマンで人を当ててきた時に、CB間をIH等のランニングで突くことが出来たら、より様々な形からゴールを狙える。
・守備では、4-1-4-1ブロックで守備的プレッシング。
・IHが相手ボランチを掴み、ライン間IRで縦パスを引き出す選手をアンカーが捕まえ、外から攻撃させる、という守備戦術。
・しかし、最前線のCFが相手CBにプレッシャーをかけていなかったので、後ろの選手が連動できず。なのでアンカーがライン間IRの選手を捕まえれず、何度も縦パスを受けられてしまっていた。
レアル
・守備ではトップ下のイスコとCFベンゼマが並んで4-4-2。プレッシングは行わない。
・どうやってアタッカーの負担を軽減するかに重きが置かれているので、ボールを奪うのは後ろの4バック+2ボランチに頼っている部分が大きい。
・攻撃では、アタッカーのポジショニングに自由が与えられており、ワールドクラスのアタッカーたちの個性を尊重。
・自由を尊重する中で攻撃のゲームモデルを言うなら「サイドチェンジ攻撃」。
・CBのSラモス&ヴァラン、ボランチのクロース&モドリッチは、正確なサイドチェンジを配給することが出来る。
・片側サイドでポゼッションして相手をボール側サイドに寄せて、サイドチェンジ→相手がスライドを完了し、陣形を整える前に個人技、連係で崩しきる。
・久保は、東京で見せていたようなプレーをこの舞台でも発揮。ポジショニングセンスは光っているし、半身で縦パスを受けることでダイレクトに前を向いていた。
・ヨビッチは、ビルドアップには参加せず、パスを受けても極力シンプルにプレーし、エリア内で勝負。エリア内でも動き回るわけではなく、ドッシリと構える。守備ではプレッシャーの強度が低く、あまり参加意識は高くない。
・アザールは、ドリブルにキレがあった。そして中央でのトップ下的なプレーも見せたし、縦関係を築いているマルセロとも好連係。しかし、マルセロは退団するかもしれないのでメンディ―との連係も重要。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!リクエストがあればツイッター(@soccer39tactics)のコメント、DM、下のコメントにでもお書きください。全部やるとは限りませんのでご了承ください。

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