鳥栖対湘南 レポート ~山崎の近隣の変化&鳥栖はどっちにするのか~ [2019J1リーグ第9節][2019年4月マンスリー分析④]

湘南のマンスリー分析ラストの4試合目。今シーズン現役時代にクライフから直接指導を受けたカレーラス監督を招聘し、バルセロナでのプレー経験のあるクエンカも獲得し、ポゼッションサッカーでの上位進出を目指すものの、ここまで1勝1分け7敗でリーグ戦再開に沈むサガン鳥栖との駅前不動産スタジアムでのアウェーゲームです。

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ゴール サガン鳥栖 0 : 2 湘南ベルマーレ

湘南ベルマーレ:59'大橋 89’梅崎

スターティングメンバー

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まずはスタメンから。最初にホームの鳥栖から。直前のルヴァンカップ仙台戦からは、GKの大久保のみが変わり、フィールドプレーヤー10人は全員同じ。ベンチにトーレスや、金崎、イバルボが座っている、という豪華なキャスト。リーグ戦の前節松本戦からは、ガロヴィッチ、松岡、金崎、トーレスがスタメンから外れ、代わって藤田、原川、アン・ヨンウ、チョ・ドンゴンがスタメン入り。

アウェーの湘南は、直前のルヴァンカップマリノス戦からは6人変わり、リーグ戦の前節川崎戦からは、小野田、梅崎、武富に代わり、鈴木冬、大橋、鈴木国がスタメンに入りました。

鳥栖・守備 湘南・攻撃 ~いつもより単調だった理由~

まずは湘南の攻撃の分析から。

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最初に鳥栖の方は、5-4-1ブロックを組み、全くプレッシングをかけず、後方のスペース(DFライン裏、ライン間、ライン間のIR(インサイドレーン)など)を消すことに徹し、カウンターを狙う守備戦術です。

ではこの相手の守備の前提を踏まえて、この試合の湘南の攻撃スタイルについて。

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湘南は、いつもより後方でポゼッションせず、どんどん前線にロングボールを送り込んでいました。試合中継のピッチサイドリポーターの方も、前半曺貴裁監督が「もっと前に行け」という指示を出している、という情報を伝えられていたので、チームの攻撃戦術として、いつもより早いタイミングでロングボールを使う、という部分があったと思います。

ですが、相手の鳥栖は5-4-1で引いているわけなので、そんなに急いでロングボールを使わなくても良いわけです。じっくりパスを回してボールを保持して攻めればいい。まぁ、湘南がショートパスでビルドアップしていくチームではないことは分かっていますが。

ではなぜこの試合の湘南がいつもより早いタイミングでシンプルにロングボールを使って攻撃するプランでプレーしていたのでしょうか。

僕は、鳥栖のカウンターを受けるリスクを抑えるためだったのかな、と思います。無駄に後方でパスを回して、もしもそこで奪われたりしたら大ピンチとなります。なので、鳥栖のカウンターを受けないためには、後方でボールを保持する時間を減らして、より高い位置にボールを送り込み、相手を自陣のゴールからできるだけ遠ざけることが必要です。というわけで、鳥栖のカウンターを受けないためにいつもよりもロングボールを使って、シンプルに敵陣ゴール前に迫ろうとしていたのかな、と思います。

では、ここで一度ここまでの湘南の攻撃を振り返ります。主に3CBから何でも納めてくれる山崎にロングボールもしくは縦パスを入れて、山崎が納めたらスムーズにシャドーの武富や梅崎がサポートに入って落としを受ける。そしたらボランチの攻撃参加によって厚みを加え、コンビネーションで中央突破か、WBのオーバーラップを使ってクロス攻撃でゴールを狙う。このようなものでした。

しかし、この試合の湘南は、山崎が納めても、これまでのような迫力のある攻撃は見せることができていませんでした。

その大きな理由の一つが、メンバーの違いです。

この試合では、山崎の近くにポジショニングするシャドーが梅崎、武富ではなく、鈴木国、大橋でした。

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図のように山崎はいつも通りロングボールを納めることができていましたが、シャドーの鈴木国、大橋は、スムーズにサポートに入って、落としを受けるプレーができておらず、山崎との距離が遠かったです。

しかし、鈴木国も、大橋も、二人とも今シーズンリーグ戦初スタメンです。今までは、武富と梅崎がシャドー2枠の一番手として山崎とトリオでプレーしていました。なので、鈴木国と、大橋は、山崎との連携が確立できていないんだと思います。湘南のトレーニングを見ているわけではないので分かりませんが、基本的にトレーニングの中でのミニゲームなどでも、山崎と組んでいるのは梅崎や武富なんじゃないかな、と思います。

ここ最近チームが勝てておらず、曺貴裁監督も新しい風を吹かせようとして、鈴木国、大橋を起用したのかもしれません。結果だけで言うと、大橋は先制ゴールを決めているので、この起用は当たったと言えます。ですが、その得点シーン以外のプレーはあまり良くありませんでした。

ということで、ここまでの試合で見せたような、山崎が納めたところを起点にスピードアップして、ボランチの松田や斎藤が攻撃参加してコンビネーションで崩したり、WBのオーバーラップを使ってクロス攻撃、というようなシーンは見られず、単調な攻撃になっていました。

しかし、そうなったことで、僕が推している山崎の良い面が目立っていました。

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この図のように、相手を背負った状態から、ターンして前を向き、独力でドリブルからシュートまで持っていくシーンが複数見られました。

どんなロングボールでも縦パスでも納められて、落としも正確で、高さがあってスピードを生かしてスペースに飛び出すこともできて、独力でシュートに持ち込むこともできる。とても素晴らしいプレーヤーじゃないですか。しかし、ストライカーなので、ゴールが無いのは致命的な欠点ですけど。前にも書いたのですが、本当にゴールをたくさん取れていれば、日本代表のストライカーになれる、大迫の代役になれる選手です。

カウンターに繋げられない鳥栖の守備

湘南の分析ですが、湘南だけでなく、Jリーグのチームの戦術を紹介する意味も含めて書いているので、鳥栖の守備戦術の問題点についても書いて行きたいと思います。

5-4-1で引いて、スペースを消し、ロングカウンターを狙う守備戦術でプレーした鳥栖ですが、あまり上手くボールを奪ってカウンターに繋げることができていませんでした。

まず、先ほども書きましたが全くプレッシングをかけません。その代わりに9人という多くの人数を割いて、相手が守備を崩すために重点となるスペースを消しているので、相手がその消しているスペースに入ってきたときに、迎え撃って奪い、カウンターを狙いたいわけです。なのですが、そのスペースに入ってきたときの迎撃守備ができていませんでした。

その理由がこちら↓

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図にも書いたように、プレッシングをかけていないので、ロングボールを蹴られるのは仕方ありません。というか、相手がロングボールを蹴って来たときに迎え撃って奪うのが目的なのが迎撃守備です。

ですが、相手のロングボールの受け手となる山崎にCBの3人が競り勝つことができなかった。なので、奪える場所に相手が来たのに、その包囲網を個人技で破壊された、ということです。

また、「5-4-1で引く」というのは明確なのですが、どの場所でどうやって相手を追い込んでどう奪うのか、そして奪ったらどうカウンターに繋げるのか、というプレー原則が見えにくかったです。要は、「引く」だけ、ということです。

なので、ボールの奪いどころがなく、ズルズル下がって、ボールを奪う場所はいつも自陣ゴール前なので、カウンターに移行したいけど敵陣ゴールがめっちゃ遠い。めっちゃ遠いので、アバウトなロングボールを蹴るしかなく、すぐに奪い返される、という繰り返しでした。

なので、「引く」にしても、「どうやって引くのか」、というプレー原則は必ず必要です。効果的なロングカウンターを仕掛けるために「引く」わけなので。

例えば、ロングボールを蹴られるのは許容範囲で、納められても4人の第二PL(プレッシャーライン)がリトリートして圧縮し、第三PL(DFライン)と2ラインで挟み込んで奪い取る、というプレー原則を徹底するとか。

シンプルなものでも全然良いので、「どうやって引くのか」というプレー原則が落とし込まれれば、より良くなると思います。

鳥栖・攻撃 湘南・守備 ~プレッシングハメるのは容易だった~

次に湘南の守備の分析。

鳥栖は、3-4-2-1で攻撃するので、5-4-1で守る湘南とはミラーゲーム。なので、湘南はプレッシングがハメやすくなっていました。

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この図のように、ミラーゲームですから、各選手のマークが非常にはっきりしている。なので、簡単にプレッシングをハメて、ロングボールを蹴らせることが何度もできていました。

この試合に関しては、湘南の守備に関してあまり言及することはありません。なぜなら、いつも通りのプレッシングで、しかもミラーゲームだったので、問題なくプレッシングをかけることができていたからです。なので、その湘南のプレッシングについては、これまでのレポート記事をご覧ください(マガジンのリンクを最初に貼ってます)。

ということで、守備の章に続き、サガン鳥栖について触れます。

鳥栖の攻撃戦術 ~繋ぐのか、繋がないのか~

最初にも書いたのですが、今シーズンの鳥栖は、カレーラス監督を招聘し、クエンカも獲って、ポゼッションサッカーをやろうとしていたわけです。また、僕の持っているJリーグ名鑑のカレーラス監督のアンケートにも、クライフから様々なことを学び、ボールに多く触る、コンビネーションスタイルを志向。そして、ポジショナルプレーを浸透させることで、鳥栖はさらに良いチームになる、と書かれていました。

今シーズンのプランは明確だったわけですが、開幕戦で名古屋に0-4で負けたところ(その試合のレポートを書いています。鳥栖対名古屋)から、なが~いトンネルに迷い込んでしまい、9試合で1勝1分け7敗。

結局現在は引いて、ロングカウンターを狙う形になってしまっています。

そこで、鳥栖の現在の攻撃戦術を分析していきます。

しかし、前半から71分まではひたすらにロングボールを蹴っていて、チームとしての攻撃時の配置やプレー原則を読み取る事ができる時間がなかったので、71分にイバルボが投入され、4-3-3にシステムが変わった後の配置で話をしていこうと思います。

ちなみに4-3-3で誰がどこに配置されたかと言うと、右から小林、原、高橋裕、三丸の4バック、アンカーに原川、右IH高橋秀、左IHクエンカの3MF、左WGイバルボ、右WGアン・ヨンウ、CFトーレスという3トップの4-3-3です。

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このように、5レーンをバランスよく埋めることができているシーンも確かにありました。特にトーレスやクエンカはできていました。まぁそれは、二人ともスペイン人で、ワールドクラスのクラブでのプレー経験があり、クエンカはバルセロナでプレーしていたわけですよ。なので、サガン鳥栖以前の、その選手の戦術メモリーによるものだと思います。

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しかし、この図のように5レーンをバランスよく埋めることができていないシーンも結構ありました。4-3-3になってからだと、右IR(右から2つ目のレーン)にポジショニングしている選手がいないシーンが多かったです。

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前述のように、5レーンをバランスよく埋めることができていないので、後ろに人が多すぎる。普通、欧州のチームなどもそうですが、後方には4.5人をカウンター対策として残します。ですが、この試合は相手が湘南で、5バック。なので、相手が後ろに人数を割いているので、後方に残すのは4人でも良いぐらいです。なのに、2CBと、高い位置を取らない3MF、右SBという6人もの選手が後方に残っている。後ろが重たくなっています。

後ろが重いので、どうしても後ろにいる選手ちょこまか短いパスを回してしまい、ボールを前に運べない。

このように、後ろに人が多すぎるのけど、トーレスやクエンカだけでなく、他の選手もライン間のIRにポジショニングできているシーンもあるわけです。できている部分もあるけど、できてない部分も明確。それが何故なのかを、僕なりに考えました。

僕の考えた中途半端である理由:カレーラス監督の志向するスタイル通り、プレシーズン期間で、多少ポジショナルプレーが仕込まれている。しかし、低迷に陥っているチーム状況により、守備を重視し、カウンターを狙う戦い方を選択せざるを得ないので、ポジショナルプレーの細かい部分は落とし込み切れていない。なので、できてる部分も少しあるが、後ろに人が下りてき過ぎる、という大きな問題点がある。

こんな感じです。

ポジショナルプレーをやろうとしたけど、勝てないからカウンターに切り替えて、中途半端になっている。

また、ポゼッションサッカーではなく、カウンターサッカーをやるにしても、守備の章で書いたように、守備の時のボールの奪いどころがなく、ズルズル下がってしまって、ボールを奪っても敵陣ゴールへの距離が遠いので、ラフなロングボールを蹴るしかない。なので、精度の高いパスがアタッカーに入るわけではないので、すぐに奪い返されてしまう。

サガン鳥栖は、どっちをやるのか決めるべきでしょう。ポジショナルプレーを続けてポゼッションをするのか、割り切って引いて、カウンターをするのか。

決めたら、シーズンの最後までやる。ポジショナルプレーをやるなら、絶対にシーズン途中でカレーラス監督を解任しない。そして、ポジショナルプレーをやるなら、高い位置からガンガンハイプレスをかけていって良いと思います。また、カウンターをやるなら、徹底して守って、セットプレーも準備するなど。ということは、どっちをやるにしても割り切って貫かないといけない、ということですね。

そこで、問題点の指摘だけでなく、僕の考えた改善案を紹介します。

ポジショナルプレーをやる場合として、71分からの攻撃的なメンバーで考えました。

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まず配置から。この試合の湘南が5-4-1ということで、相手が5-4-1であると想定した場合の改善案です。SBが高い位置を取り、右はWGアン・ヨンウが右IRに入り、左はWGのイバルボは中央Rに入ってトーレスと2トップとなり、左IHクエンカが左IRに埋める。そして後方には2CBと2ボランチの4人が残る。2-2-6システムです。

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続いて上図は2-2-6システムに基づいて配置されたうえでのビルドアップにおけるプレー原則です。

まず2トップで、相手3CBを釘づけにし、相手CF脇から、CBが持ち運び、第一PLを突破。そうすることで、相手のボランチを引っ張り出し、ライン間にスペースを生み出す。そして持ち運んだCBから直接でも全然良いのですが、ボランチがサポートして、そのボランチを中継点として経由し、相手ボランチの背後のスペースのアタッカーにパスを入れ、ライン間進入。そしたらアタッカー同士のコンビネーションで崩す。

これは一例ですが、ポジショナルプレーをやるなら、リスクを負って徹底して攻撃的なサッカーをしなければなりません。

カウンターをやるとしても、監督がカウンターをやる監督じゃないですし、豊田がいれば変わるのかもしれませんが、トーレスを取って来た意味もない。あんまり上手くいきそうな感じはしません。

データ分析 ~両チームのとてもダイレクトなプレー~

では最後にデータ分析です。

(データ引用元:Football LAB)

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(上が前半、下が後半)

最初にプレーエリアです。前半は湘南が右サイドに偏って攻撃していて、サガン鳥栖が左サイドで押し込まれていることが分かり、後半は湘南が押し込まれていて、サガン鳥栖の方が高い位置で攻撃ができるようになっていたことが分かります。

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(上が鳥栖、下が湘南で、一枚目が前半)

上のグラフはゴールへの可能性が高かった時間帯を示すグラフです。鳥栖の方は、断続的にはありますが、継続して特別可能性の高い時間帯、押し込んでチャンスを作っていた時間帯は無かったことが示されています。湘南の方も、特別鳥栖と変わっている部分はなく、湘南の方がゴールに近づいていましたが、断続的です。

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(左が鳥栖で右が湘南)

続いてパスに関するデータ。両チーム共あまりパス本数が多くないことに加え、成功率が低い。鳥栖が68.2%で、湘南は64.4%ほとんど成功することが分かっているような後方でのパスが少なかったことが読み取れます。

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そしてこのアクチュアルプレーイングタイムというデータは、実際にプレーしていた時間を示しています。なので、細かい定義は分かりませんが、90分の中で、プレーが止まっていた時間などが差し引かれたプレー時間ということです。その時間が、なんと42分58秒ですよ。90分の半分にも至らない約43分!先ほどのパスのデータと、このアクチュアルプレーイングタイムの2つのデータから、どれだけ後方でパスを回している時間が短く、ダイレクトなサッカーをしていたのか、が分かります。

今回のデータ分析はここまで。いつもより短くなりましたが、この試合の両チームのスタイルがよくわかるデータだったと思います。

総括 ~湘南のゲームモデル~

この鳥栖戦のレポートで、湘南のマンスリー分析は終わりです。なので、最後に僕の作ったサッカーを4局面に分け、各局面ごとのプレー原則を円グラフにまとめたもので湘南分析の総括としたいと思います。

In possession = ボール保持時

Out of possession = ボール非保持時

Attacking transition = 守→攻の切り替え(ポジティブトランジション)

Defensive transition = 攻→守の切り替え(ネガティブトランジション)


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最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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