「10対11」を「10対10」にして見せた川崎の守備戦術~大分対川崎 レポート~[2019J1リーグ第13節]

Jリーグ第13節。大分トリニータ対川崎フロンターレの上位対決を取り上げます。昇格組ながら躍進している大分と、シーズン序盤は苦しんだものの、調子を上げてきた王者・川崎。この二チームの攻防を分析していきます。

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スコア 大分トリニータ 0 : 1 川崎フロンターレ

川崎フロンターレ 29’マギーニョ

序章 スターティングメンバー

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まずは両チームのスタメンから。ホームの大分は、前節の1-1で引き分けたホームの清水戦からは、星に代わって左WBを高畑が務める以外は、同じメンバーが起用されています。

アウェーの川崎は、前節のホーム、等々力での名古屋戦(1-1)からは5人メンバーが変わりました。右SBは馬渡ではなくマギーニョ、大島の相方は守田、二列目は阿部、中村に代わって家長、脇坂。CFは知念ではなくL・ダミアン。中村と、阿部はベンチにも入りませんでした。

第一章 大分の攻撃戦術とミシャ式の繋がり

まずは大分の攻撃、川崎の守備の攻防について分析していきます。

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大分は、ご存知の方も多いと思いますが、ビルドアップではGK高木が上がってDFラインに加わり、相手の第一PLに対して数的優位を獲得し、ショートパスを繋いで相手のプレッシングを突破することを狙います。

この試合では、リベロ鈴木の左横にGK高木が入って、右CB岩田が上がって幅を取り、右WBの松本が右IR(インサイドレーン)にポジショニング。オナイウがCR(センターレーン(中央レーン))に入って藤本と2トップになります。GKがDFラインに組み込まれていますので、3-2-6システムとなり、相手の10人の守備に対して11人をマッチアップさせている、ということになります。

では、その「GK上げ」によって大分は攻撃でどのようなことを狙っているのでしょうか。

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恐らく上図のようなものだと思います。高木がDFラインに加わることで、相手の第一PLと、第三PLに対して数的優位を獲得します。そして、相手第一PLに対しての数的優位を生かして相手のプレッシングを突破し、相手の守備を分断して、相手の第二PLの背後の、ライン間にいる前線の「6」の中でフリーになっている選手に縦パスを打ち込み、相手の第二PLを無力化。そして、次は第三PLに対して数的優位を生かし、スピードアップして崩す。

この攻撃戦術を見て僕が感じたのは、あるJ1のチームに似ているな、ということです。その「あるチーム」とは、北海道コンサドーレ札幌です。

このnoteの中でも札幌の攻撃戦術(対清水対神戸)は書いてきましたが、相手の第一PL、第三PLに対して数的優位を獲得し、まず第一PLに対する数的優位を活用してプレッシングを突破し、相手を分断して、中盤を経由せず第三PLに対して数的優位であることによって生まれるライン間での一人のフリーに一気に縦パスを打ち込む。そして相手のマークを乱し、数的優位を活用して崩す。

この中盤での優位性や支配を重要視せず、一気に相手第二PLを無力化してライン間に縦パスを送り込む攻撃戦術、という部分が共通しています。

また、ここでもう一つ興味深い点があります。

大分を率いる片野坂監督は、札幌を率いる「ミシャ」ことペドロビッチ監督から攻撃のアイデアを得ている、ということです。

サッカーダイジェストを出版している日本スポーツ企画出版社から発売されている今シーズンのJリーグ名鑑の片野坂監督のアンケートを読むと、「影響を受けた指導者」の欄に、

ペドロビッチ監督/攻撃のアイデア

と書かれていました。

ここで、今の大分の攻撃戦術と、その戦術が札幌と似ている、という部分がリンクされますね。たまたま片野坂監督とペドロビッチ監督の考え方が似ていたわけではなく、ペドロビッチ監督の攻撃戦術を参考にして片野坂監督の攻撃戦術が生まれた、ということです。

この似てるな、と思ったら真似してたんだ、というのがとても面白いなと思いました。

では次章ではこの大分の「ミシャ式型」攻撃戦術をこの試合で見事に抑えた、川崎の守備戦術を分析します。

第二章 「10対11」を「10対10」に。

ではこの章では川崎の守備について。

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まずは基本のコンセプトから。脇坂とL・ダミアンが並んで4-4-2で攻撃的プレッシングです。ですが、攻撃的プレッシングの強度は低く、ハメ込んで高い位置でボールを奪うことを狙っているようには見えませんでした。

ではどのようにして大分の「GK上げ」による10対11の数的不利を解消し、大分の攻撃を抑えたのか。

ボールのあるサイドによって守備の仕組みが違いましたので、まずは左サイドから見ていきます。

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左サイドの守備は、「SH長谷川が一人で二人をケア」する戦術です。

2トップ脇を使われそうになれば、SH長谷川竜が前に出て、牽制して相手右CBに持ち運ばせない。そして右WBにパスを出されたら、急いでプレスバックし、右WBにも寄せる。

長谷川竜が二人分のマークを担うことで、左SBの登里はIRにポジショニングしている松本をマークすることでき、相手のサイドアタックに対して2対2の数的同数で対応することができます。

このように、左サイドでは長谷川竜の守備によって、10対11の数的不利を解消していました。

次に右サイド。

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右サイドでは、SH家長が最初から前に出て、2トップ+家長の3トップで相手3CBにプレッシングを行います。そうすることで、数的同数で対応し、第一PLを持ち運びによって突破されることを防ぐ。

そして、WBにパスを出されると、SBマギーニョが出て寄せます。そうすると、2CBのジョジエウ、谷口が、相手の左シャドー、2CFとマッチアップすることになり、2対3の数的不利に陥ります。ですが、ボランチの大島が下がって左シャドーをマークし、CBのジョジエウ、谷口が2CFの対応に専念することができ、マークのずれを無くし、守備を明確にします。

そうすると、大島が見ていた相手左ボランチがフリーになりますが、その左ボランチにパスが行けば大島がマークを受け渡して寄せます。

なので、右サイドでは、ボランチの大島が、相手左シャドーと左ボランチの二人の対応を請け負うことで、10対11の数的不利を解消していた、ということですね。

ここまでのように、左SH長谷川竜、右ボランチ大島が一人で二人分をケアする守備戦術で、大分の攻撃を抑え、「10対11」を「10対10」にして見せました。

第三章 大分の守備を破壊し、得点を演出した脇坂泰人

ではこの章かた大分の守備、川崎の守備の分析に移ります。

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大分は、基本の並びとしては、5-4-1です。そして、自陣にブロックを組んで守備的プレッシングです。

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なのですが、右SHオナイウが前に出て、藤本と2トップのようになり、右WB松本が相手左SBに対して出ていってプレッシャーをかけ、右CB岩田は相手左SH長谷川竜をマークします。

5-4-1ですが、あまり5-4-1の並びで守備をした時間はありませんでした。

この大分の守備に対する川崎ですが、守備と同じく見事に攻略して見せました。

この試合で何度も見られたシチュエーションがこちら↓

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上図のように、トップ下の脇坂が下りて来て顔を出し、ライン間で縦パスを引き出す、というシーンです。

脇坂が下りる動きに、大分のCBがついて行くことができていませんでしたので、脇坂はフリーになることができ、第二PLの背後、ライン間でパスコースを作り出し、受けて、大分の守備を分断し、チャンスに繋げていました。

冒頭にリンクを貼っているハイライトでご覧いただけると分かるのですが、29分のマギーニョの得点シーンも、脇坂が下りて来てライン間で縦パスを受けて前を向き、左の長谷川竜に渡して長谷川竜が右足クロス。大外から入ってきたマギーニョがシュート、という流れで生まれています。

この脇坂の動きは、大分のプレッシングにハメられそうになった時にはプレッシングを突破するルートとして活用されていましたし、得点シーンのようにチャンスをきっかけにもなっていて、攻撃における様々なケースで効果をもたらしていました。

ではその脇坂のプレー起点に決勝点となる先制点を決めたマギーニョですが、開幕戦から今だ改善されていない課題がありますのでその課題を紹介します。

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上図のように、課題というのはポジショニングです。SHの家長は、内側に入ってプレーすることが多くあります。そうなると、SBのマギーニョが高い位置を取って、幅を取る必要があります。

ですが、図に示したように、マギーニョは高い位置を取ることができていません。その高い位置という定義は、ライン間のOR。ライン間という事は、第二PLの背後、第二PLと第三PLの間。その大外レーンということは、ピッチを縦にご分割したうちの両サイドのタッチライン際のレーンですね。そのライン間のORにポジショニングして、パスを受けることができれば、相手はWB/SBが寄せなければならなくなります。

前回の大阪ダービーの分析を読んで頂ければ分かっていただけると思いますが、SB/WBに寄せさせることで、IRを広げることができます。そうすると、家長がそのIRでフリーでパスを受けることができてチャンスメークしてくれますし、相手SB/WBに対してSBマギーニョ、SH家長の二人で数的優位を作り出してコンビネーションで打開することもできます。

しかし、マギーニョはそのライン間のORにポジショニングできず、低い位置でパスを受けてしまっていたので、相手はSHが寄せる事ができ、IRのスペースが広がらず、効果的な攻撃ができない。

この試合に関してだけ言えば、相手は5バックで、WBを引っ張り出してもCBが3枚いますので、IRをCBに埋められてしまうので、IRにパスを出してからが肝心なのですが、J1のチーム全部が5バックを採用しているわけでは当然ありませんし、4バックのチームも多い。

まぁ相手が4バックか5バックかは関係なしに、マギーニョのポジショニングは、開幕戦の東京戦からの課題となっています。マギーニョのポジショニングが改善されると、右サイドも幅を使った攻撃ができるようになり、サイドアタックが活性化すると思います。

しかし、馬渡もいますので、マギーニョのポジションぐがいつまで経っても改善されないのなら、マギーニョを使わず、馬渡を使う、という選択肢はもちろんあります。すでにそうなってる感じもしますが。

後半の攻防

この章の最後に、後半は、完全に川崎が試合を支配しました。川崎はリードしているので、余裕があります。得点を取らなければならない大分がプレッシングをかけて、ボールを奪いに来れば、個々人の落ち着き、技術の高さや、的確なポジショニング、パスコースの創出でプレッシングを交わし、大分がそれを嫌って構えれば、後方でパスを回して時間を経過させる。相手のプレーによって柔軟に対応を変え、大分を出し抜きました。

第四章 データ分析

データ引用元:Football LAB

ではデータを見ていきましょう。

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(二つ目のグラフは、上が大分、下が川崎。)

まず最初に、前半のヒートマップと、ゴールへの可能性を示すグラフ。

ヒートマップを見ると、大分の方は自陣が濃くなっていまして、攻撃時には中々ボールを前に運べず、守備時は押し込まれていたことが分かり、敵陣ゴール前にはほとんど進入できていない。

川崎の方は、20分後半から40分辺りまでの時間が特にゴールに近づいていて、大分の方は、単発で25分過ぎ頃にゴールに迫ったシーンがあったことはわかりますが、それ以外の40分ほどはチャンスを作れていない。

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こちらは後半のものです。後半も、前半の展開とあまり変わっておらず、大分は自陣が濃くなっていて、大分陣内で試合が進んでいる。川崎は敵陣のサイドが濃くなっています。

しかし、後半は川崎の方が大分よりも大きくゴールに近づいていたわけではないことがグラフを見ると分かります。どちらかと言えば大分の方がゴールに近づいています。

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では次にシュートのデータ。

大分はシュートはわずか4本しか打てておらず、しかも全てエリアの外からのシュート。一方で川崎の方は、10本シュートを打っており、6本がエリア内から放たれています。

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そして、チャンス構築率も大分より川崎の方が2.5倍高く、

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ペナルティエリア進入回数は同じぐらいですが、30mライン進入、つまりゾーン3、敵陣深くにボールを運んだ回数は大きく差が出ており、15回多い。

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そして、川崎の方は6本のクロスの内、33.3%が成功していますが、大分はその倍の12本のクロスを送り込みながら、成功率は0.0%。全く成功していない、ということです。

ここまでのシュート、チャンス構築率、30mライン&エリア内進入、クロスの5つのデータを見ると、ボールポゼッションはほとんど変わっていない(大分49.6%、川崎50.4%)ですし、川崎が一方的に押し込んだ展開ではない中、攻撃の質は大きな違いが出ており、川崎が大きく上回っていました。大分の攻撃は、チャンスを多く作る事ができず、川崎の守備に抑え込まれてしまいました。

終章 総括

大分 攻撃
・GK高木をDFラインに上げて、3-2-6システムで攻撃
・相手の第一PLと第三PLに対して数的優位を獲得し、第一PLをショートパスを繋いで突破して、中盤を経由せずに一気にライン間に縦パスを入れ、第三PLに対して数的優位を活用して崩す、という攻撃戦術。
・この攻撃戦術は、片野坂監督が札幌を率いるペドロビッチ監督からアイデアを得ていて、「ミシャ式」と同じコンセプトになっている。
川崎 守備
・4-4-2で強度は低いが攻撃的プレッシング。
・左サイドは、SH長谷川竜が相手右CB、右WBの二人を走力でケア。
・右サイドは、右ボランチの大島が相手左ボランチと、相手左WBにパスが入った時には相手左シャドーをマーク。
・左SH長谷川竜、右ボランチ大島が一人で二人をケアすることで、「10対11」を「10対10」に見せ、大分の攻撃を封じ込んだ
大分 守備
・5-4-1で守備的プレッシング。自陣にブロックを組む。
・スタートの並びは5-4-1だが、右SHオナイウが前に出て、CF藤本と2トップのようになり、それに連動してマークをスライドさせていく。
・相手トップ下の脇坂を掴むことができず、守備を攻略される。
川崎 攻撃
・トップ下の脇坂が下りて来て第二PLの背後(ライン間)に顔を出し、縦パスを引き出す。
・脇坂のプレーで、プレッシングを受ければそのプレッシングを交わし、相手が構えている状況ではチャンス創出。
・マギーニョは、開幕戦から、今だライン間のORにポジショニングすることができておらず、幅を使う事ができていない。
・リードした後半は、相手が奪いに来たら抜群のパスワークでプレッシングを交わし、相手が逆に構えれば後方で保持して時間を使う、というように大分を出し抜いた。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、僕のnoteのフォロー、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

来週からは頑張って週二回に復帰します!

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