急に組織的に。だからこその世界に挑戦するための課題~日本対エルサルバドル 分析~[キリンチャレンジカップ2019]

この試合の分析の前に、なんと久保建英がレアル移籍、という衝撃のニュースが出ました!これに関しては、かなり交渉の情報がメディアに漏れないように密に話を進めていたんだな、ということが分かりますが、僕はタイミングや、レアルマドリードというクラブを考えると、あまり良くない決断じゃなかったのかな、と思っています。ですが、レアルの下部組織でプレーしているピピこと中井卓大とトップで共演する姿を想像すると、今からワクワクしますよね。

では本題の日本代表について。永井の2ゴールでエルサルバドルに勝利した日本ですが、トリニダード・トバゴ戦以前と比較すると、かなり戦術面が進歩していました。今回の分析では、その改善されたポイントの分析、そして、新たに見えた課題について書いて行きます。

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ハイライトはこちら↓

前回のトリニダード・トバゴ戦の分析はこちら↓

日本代表分析マガジンはこちら↓

スコア 日本 2 : 0 エルサルバドル

日本 19’永井 41’永井

スターティングメンバー

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まずは日本代表のスタメンから見ていきます。橋本のところが後から修正したのがバレバレですが、後二枚ぐらいこうなってる画像がありますので、ご了承ください。前回のトリニダード・トバゴ戦からは、GK+3バックは一緒、2ボランチは柴崎、守田から小林、橋本に代わり、WBも酒井、長友から原口、伊東に。右シャドーは連続で堂安が務めますが、左シャドーは中島ではなく南野、CFは大迫ではなく札幌でプレーする鈴木が負傷したので、追加招集されたFC東京の永井が起用されました。

エルサルバドルに関しては、前回と同じく日本について書いて行くので、背番号のみにしています。今になってそれならポジションの名前書いた方が分かりやすかったかな、と思っておりますが、気にせず行きましょう。

第一章 なんて組織的なプレッシング

では試合の分析をしていきますが、まずは守備からです。

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5-4-1で、後方に多くの選手を置いている布陣ですが、攻撃的プレッシングで高い位置からプレッシングをかけていきます。CF永井が、FC東京でもやっていますが、先陣を切ってプレッシャーを相手CBにかけ、プレッシングのスイッチを入れる役を担っていました。

では、この試合の日本は、どのようなメカニズムのプレッシングを行っていたのでしょうか。まずは、トリニダード・トバゴ戦で起きていた現象を振り返ります。

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サムライブルー・アンビリーバボーと名付けた現象ですが、WBが担当マークを持たずに余ってしまっているという異様な現象。完全なゾーンディフェンスという守備ならば、CBがサイドまで出て行っていることがおかしいし、完全なゾーンではなく、CBが相手WGをマークするタスクを与えられていたならば、そのために他の選手のタスクが調整されていないことがおかしい。

このような現象が起きていたわけなのですが、今回の日本代表は、この大きな課題が修正されていました。では、そのメカニズムを分析していきましょう↓

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まずはステップ1。CF永井がプレッシングのスイッチを入れて相手CBにプレッシャーをかけ、フリーになっているCBがいるサイドの方のSH(左CBが空いていれば右SH。図では堂安)が前に出て、2CB両方プレッシャーをかけます。ここで、SHが出ていない方の相手SB(図では南野のサイドの右SB)にパスを相手が出せば、狙っているSH(図では南野)がそのまま潰せば良いわけですが、相手もわざと狙われている方にパスは出しませんので、前に出て行ったSH(図では堂安)の方のサイドのSB(左SB)にパスを誘導します。前にSHが出たサイドのSBは、SHがCBにプレッシャーをかけているためフリーになっていますので。

では次にステップ2

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ステップ1でSBにパスを誘導したら、WBが出て行ってダッシュで猛烈に寄せます。そして、サポートに入る相手IHにはボランチがマークし、アンカーに対しては、CF永井がプレスバックしてマーク。WGにはCBが出て行ってマークして、全体が連動してプレッシングをハメ込みます。

これから分かることは、相手SBにパスを出させ、WBがアタックしたところが、ボールの「奪いどころ」に設定されていたということです。

このメカニズムのプレッシングは、図で示したように右SH堂安が前に出て、相手左SBに誘導して右WB伊東が出る、という形で、何度も見られ、右サイドでハメ込むシーンが多く見られ、奪ったところから何度かショートカウンターを仕掛けるシーンもありました。

前回のトリニダード・トバゴ戦と比較すると、一気に戦術的な具体性が増し、組織的なプレッシングになっていますよね。はっきり言って、僕の予想以上のものでした。このプレッシングができれば、欧州や南米などの強豪相手にも、好きなように攻められて、ボコボコにされることは無いと思います。

では次に例外的ではありますが、もう一つのパターンがあったので、それも紹介しておきます。

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このように、CF永井が最初からアンカーをマークして、両SHが前に出て、SH南野、堂安で2CBにプレッシャーをかけ、両WBが相手SBへのパスを狙う、という形です。

ですが、組織的なプレッシングができたからこそ、新たに見えた課題が二つありました。まずは「デュエル」について。

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前述のように、CF永井からスタートして、SH、WB、ボランチ、サイドCBが連動してハメ込もうとしても、相手IHにパスが出た時、ボランチがアタックして潰そうとするのですが、そのIHとのデュエルに勝てず、交わされてしまってプレッシングを突破されてしまうシーンが結構見られました。

今回のエルサルバドルには、IHにプレッシングを突破されたところから決定的なシーンを作り出されることは無かったのですが、もっとレベルの高い、W杯のベスト16、8で対戦するような強い相手だと、事前に日本のボランチがデュエルに強くなく、そのボランチのポイントでプレッシングを突破されている、ということがしっかりスカウティングされて、ボランチが狙われ、ボランチのところでプレッシングを突破し、日本の守備を崩す、というプレー原則を落とし込まれてしまいます。

せっかく組織的なプレッシングが出来るようになったのだから、個人の弱さでそのプレッシングを突破されてしまうこともないようにしなければなりません。なので、2ボランチに起用される選手には、絶対にデュエルに負けないような選手が必要だな、と思いました。

この試合ではデュエルに勝てず、無理矢理ファウルで止めるシーンがあった小林、そして柴崎など、パスでゲームを組み立てる選手も当然必要ですが、小林柴崎も、デュエルに強くなることは十分可能です。柴崎なんかは、まさに戦士と言うような選手が集まり、固い守備を構築して今シーズンのラ・リーガで躍進を遂げたヘタフェでプレーしているわけですし。世界を見ても、例えばバルセロナのビダルのようなモヒカンのタトゥー戦士だけがデュエルに強いわけではないですし、同じバルセロナに所属しているラキティッチも、セビージャ時代は王様タイプの選手でしたが、バルセロナに来てから、主役はメッシやスアレスに譲り、黒子に徹するようになりました。トッテナムのエリクセンも、相手の急所となるスペースに入り込んで決定的な仕事が出来ながらも、献身的にチームに尽くして、走ります。なので、まだまだ日本のボランチでも期待です。

では二つ目の課題について。こちらは「連係によるマークの管理」

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畠中-原口の間で相手右WGのマークの管理ができておらず、どっちがマークするわけでもなく畠中の死角でフリーにしてしまっていて、その右WGにダイアゴナルランで畠中の裏に走られ、ロングボールが通り、あわや決定機、というシーンが2回ありました。

この場合、畠中からすれば、死角に右WGがいるので、原口からのコーチングが無ければ、右WGに気づきません。なので、原口は、畠中に右WGのマークを任せるのなら、コーチングで畠中に指示を送らなければなりませんし、そうでないならば自分が下がってマークしなければならない。なので、どっちにしろ原口の行動が大事であったわけなのですが、それが欠けていたので、畠中、原口どちらがマークするのか定まらず、フリーにしてしまっていました。

この現象なんかも、今回は失点になりませんでしたが、GKと1対1になる可能性もありますし、もっとレベルの高いチームを対戦すれば、確実に仕留められ、失点を喫してしまいます。ですが、恐らく畠中と原口がコンビを組んだのは初めてのことだと思いますので、改善の余地はあります。

第二章 組織的なアイデアはまだ成長過程

では攻撃の分析をしていきましょう。

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まずエルサルバドルですが、4-1-4-1のブロックを組み、プレッシングはかけず自陣に構えます。

ではまず前半に何度か見られ、選手の個性を生かしていたこちらから↓

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上図のように、左サイドでボールを保持し、相手の陣形を左サイドに寄せて、一本のサイドチェンジで逆サイドのタッチライン際に張っていて、あえてアイソレーション(孤立)しているWBにパスを送る。そして、スペースがある中でWBの突破力でチャンスメーク、というプレーアイデアです。これは、序盤に何度か見られたのみだったので、チームで落とし込まれたプレー原則では無かったと思いますが、とても良いシーンでした。この試合でWBに起用された伊東、原口は、スピードと縦への突破力の両方を兼ね備えていて、DFとの1対1に強みを持っているので、この「アイソレーション」した状況に置くには最適なプレーヤーです。

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次に冨安からのロングフィードも、攻撃において存在感を示していました。冨安がボールを持った時に、相手が寄せてこなかったこともあって、冨安から、動き出したアタッカーへ何本も精度の高いロングフィードが配給され、その一本のパスで決定機に持ち込むシーンを作り出していました。実際に永井の1点目は、中央から右に向かってランニングした永井に冨安からグラウンダーのスルーパスが出て、永井が見事な切り返しで二人を振り切り、左足でシュートを決めました。

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では次にボランチからのゲームメークについて。ボランチの橋本、小林に対しても、冨安と同じく相手はあまりプレッシャーをかけてこなかったので、フリーで時間的余裕がある状態でボールを持つことができました。なので、橋本はグラウンダーのライン間への縦パス、小林は創造性のある浮き球のパスでゲームメイクをしていました。小林は、元々パスが持ち味の選手ですが、橋本のような守備的なボランチも配給ができる、というのは好材料ですね。

ですが、ここで読者の皆様に考えていただきたいのは、アイソレーションしたWBへのサイドチェンジを除いて、冨安、小林、橋本のゲームメイクは、どれも相手がプレッシャーをかけてこなかったことで時間的余裕が得られたからこそです。今回は、それでチャンスを作り出すことができたのですが、何度も出ている話ですが、やはり気になるのはもっとレベルの高いチームに対して「これでいける」と思っていると、絶対に上手くいかない、ということです。なぜなら、相手がもっと強ければ、当然この試合のように何度もフリーでボールを持たせてくれるわけではありません。確実にビルドアップに制限をかけてくるか、パスが出た場所に対して、包囲網を構築してボールを奪うようなメカニズムを持っていて、そのメカニズムで日本の攻撃を封じに来ます。

ですが、この試合では、その相手ありきのものではない、どの相手を対戦しても効果を得られる攻撃のためのプレー原則は見られませんでした。

そのどの相手と対戦しても効果を得られるプレー原則とは、「一発で崩す」のではなく、「ジワジワと相手の陣形を壊して崩す」プレー原則です。

その代表格がこちら↓

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幅を使ってIRを広げてから使うプレー原則です。いきなりライン間への縦パスを入れるのではなく、ライン間のORにポジショニングしているWBを使って相手SBを引っ張り出し、IRのスペースを広げて、スペース、時間がある状態でアタッカーにパスを送り、パスワークなり、カットインシュートなりで崩す。

先に紹介した、アイソレーションしたWBにサイドチェンジを送り込んでWBの個人技で打開するのも、良いプレー原則です。ですが、その場合は、スペースのあるサイドにボールを送るということは、奪われてしまうと、相手にその広大なスペースを使われ、カウンターを仕掛けられてしまうので、しっかりリスク管理のメカニズムも落とし込んである必要があります。

ですが、これらのプレー原則を今すぐ落とし込め、というわけではありません。W杯最終予選や、W杯本戦でそれらのプレー原則が落とし込まれている状態にあれば良いのです。ですので、今回は守備が向上しましたので、次は攻撃の向上に期待です。

第三章 4-2-3-1と久保建英と

では次に4-2-3-1になった後について。67分から投入された久保のプレーを分析していきます。

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(図は伊東に代わって伊東になってますが、本当は伊東→室屋です)

59分、67分、80分の3回で交代カード6枚を使ったのですが、59分に永井、畠中、伊東を下げ、大迫、山中、室屋を投入した時点で、3-4-2-1から、4-2-3-1にシステムが変わりました。山中、昌子、冨安、室屋の4バック、橋本、柴崎の2ボランチ、左SH中島、右SH堂安、トップ下久保、CF大迫。6枚全部の交代カードが切られた状態で書いて行きます。

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久保は、トップ下で起用されたのですが、FC東京でのプレーを同じように、右サイドに寄ってプレーしていました。

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そして、室屋がライン間ORでボールを持ち、幅を取った時に、IRランでスルーパスを引き出すシーンが複数ありました。それによって、久保があまりに良いポジショニングをするので、堂安は自分の持ち場から追い出された感がありましたね。中島なんかは、久保のポジショニングが良いので右にばっかりボールが行くので、ほとんどボールに触ることができませんでした。ここまでの森保JAPANの中心選手をも上回るパフォーマンスでした。

また、久保はIRランだけでなく、ボールを持てばスルーパスでチャンスメークしますし、カウンターになるとスペースに飛び出してパスを受け、2人の間をカットインで抜けてシュートを打つシーンもありました。久保は、FC東京でディエゴ、永井らとロングカウンターを繰り出しているので、そのチームスタイルによってオフ・ザ・ボールが元々できていた部分もあると思いますが、より磨かれたのかな、と思います。それによって、久保のオフ・ザ・ボールはとても優れています。足元でパスを受けるだけでなく、スペースへのランニングもできる、プレーの幅が広い選手です。

では、次に久保の守備についても分析します。

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まずは、相手アンカーを消すバックマークプレスをCBにかけ、SBにパスを誘導する、永井がやっていた守備をしっかりこなしていました。このバックマークプレスは、久保の中では当然のようにできています。

それだけではありません。

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これは72分1秒のシーンなのですが、左SBにパスを誘導した後、そのまま強度を落とさず左SBにプレッシャーをかけ、室屋、堂安と3人で囲い込んでバックパスをカットし、相手の攻撃を遮断することもありました。

また、

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何分何秒のシーンかは覚えていませんが、こちらも左SBにパスを誘導した後、プレスバックしてボールを保持しているSBからアンカーへのパスコースに入って、苦し紛れに出したアンカーへのパスをカットし、カウンターの起点となるシーンもありました。

これらのように、久保は、攻撃だけでなく、守備でも頭が良い、IQが高い。守備でも大きく貢献していることが分かります。

もうレアル移籍が決まり、Jリーグでプレーを見れることはわずかになってしまいましたが、攻撃でもただ単にテクニックがとてもあるだけでなく、ポジショニングが上手いし、オフ・ザ・ボールの動き出しにも優れているし、守備をサボるわけではなく、逆にとても頭の良い守備で大きくチームに貢献している、という本当の意味で「上手い」、サッカーへの理解が深い選手が出てきたことは、日本サッカーにとってとても嬉しいことです。

終章 総括

守備
・5-4-1で攻撃的プレッシング。永井がプレッシングのスイッチを入れる。
・CF永井+片方のSHで2CBにプレッシャーをかけ、SBにパスを誘導し、WBがその相手SBにアタック。全体でハメ込み、相手SBに対するWBのアタックがボールの奪いどころ。
・ハメ込んだ中で、ボランチがデュエルに勝てず、プレッシングを突破されるシーンがあった。
・畠中-原口の間のマークの管理ができておらず、WGをフリーにしてあわや決定機となるシーンを作られた。
・ボランチのデュエル、畠中-原口の連係は課題。
攻撃
・片方のサイドに相手の陣形を寄せて、アイソレーションした逆サイドのWBにサイドチェンジを送り込んで、WBの個人技をスペースがある状態で生かす
・冨安が何本も正確なロングフィードを配給してチャンスメーク。
・橋本はライン間への縦パス、小林は創造性のある浮き球のパスでゲームメイク。
・冨安、橋本、小林によるチャンス創出は、全て相手がプレッシャーをかけてこなくて、時間的余裕がある状態でボールを持てたからこそ。
・もっとレベルの高いチームであれば、封じられるか、もっと数を抑えられてしまう。なので、どの相手に対しても効果を得られる、「ジワジワと相手の陣形を壊して崩す」プレー原則が必要。
・「ジワジワと相手の陣形を壊して崩す」プレー原則の代表は、幅を使ってIRを広げ、時間的余裕、スペースがある状態でアタッカーにボールを届けること。
4-2-3-1と久保建英
・トップ下で起用されたが、右サイドに寄ってプレー。
・室屋が幅を取ればIRランでスルーパスを引き出し、足元で受ければ創造性のあるスルーパスやカットインシュートでインパクトを与えた。
・ポジショニングもとても良いし、オフ・ザ・ボールにもとても優れている。
・守備では、アンカーを消すバックマークプレスを遂行。
・バックマークプレスだけでなく、プレスバックをしての囲い込みや、パスカットでカウンターの起点となり、守備でも大きく貢献。

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