東京の守備戦術を徹底解剖&サッカーは配置ゲームではない。 ~FC東京対磐田 レポート~[2019J1リーグ第11節]

今回は、第11節からFC東京対ジュビロ磐田を取り上げます。今だリーグ戦無敗の首位・FC東京と、前節浦和戦で劇的なロドリゲスの決勝ゴールで勝利し、ルヴァンカップ松本戦にも勝利して、連勝。勢いがついてきたような感じのする状態のジュビロ磐田の一戦です。

久保のゴラッソももちろん素晴らしいですし、それ以外でも久保は素晴らしいプレーを見せていました。ですが、今回は、久保について掘り下げることはまた機会があればするとして、東京の守備戦術の分析、そしてジュビロ磐田の攻守共通の致命的な問題点を紹介します。

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スコア FC東京 1 : 0 ジュビロ磐田

FC東京 84’久保

スターティングメンバー

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まずは両チームのスタメンから。ホームの東京は、前節のアウェーガンバ戦からは、チャン・ヒョンス、小川、累積警告で出場停止の高萩に代わって、渡辺、室屋、大森がスタメンに起用され、東がボランチでプレーします。

アウェーの磐田は、前節アウェー浦和戦から、ロドリゲスに代わって中山がリーグ戦初先発です。

第一章 最悪な配置、サッカーでも、勝つことはできる。

では試合の分析をしていきます。

最初に磐田の攻撃から見ていきます。

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磐田は、そのままだったら3-4-2-1ですが、左ボランチの上原がDFラインに下りて、左右のCBがサイドに広がり、4バック化。3-4-2-1から4-1-5に可変します。

ですが、

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4バックに可変しても、数的優位を獲得した事にはなっていません。上図を見てもらえれば分かりますが、4バックだと、相手のCF+SHの4トッププレスを受けてしまい、逆にプレッシングをハメられてしまう可能性があります。なので、この「4バック化」で、相手の守備システムに対しての噛み合わせをずらし、攻撃を優位に進められることができていたわけではありませんでした。

では名波監督は、どんな目的でこの可変システムを採用したのでしょうか。

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上図のように、IRにポジショニングしているシャドー(図ではアダイウトン)が相手SB(図では太田)を引っ張り、相手SBにシャドーを気にさせて、WB(図では松本)へのアプローチをさせず、SB(実際は左右のCB。図では高橋)がパスを受けることで相手SHを引っ張り出す。

この二段階で、完全にWBをフリーにし、SBからWBにパス。そして、

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WB(図では松本)がフリーの状態でボールを持った時に、相手SB(図では太田)が寄せてきたら、フリーになったシャドー(図ではアダイウトン)がIR裏にランニングし、WBからのスルーパスで抜け出す。寄せてこなかったら、WBが運べばいい。

これは僕の考えですが、この通りでなくても、名波監督にこのような具体的な狙いがあったとは思えませんでした。4-1-5に可変したことは良いのですが、そこからそのシステムでどのように攻撃するのか、どのようにパスを繋いで前進し、東京の固い守備ブロックを崩すのか、というプランが無かった。

なので、東京があまりプレッシングをかけてこなかったので、ボールを保持することに苦労したわけではなかったのですが、そこから前進することができず、しびれを切らしてロングボールを蹴ってしまって相手にボールを渡す、というような展開になっていました。

ですがこの試合の名波監督は、後半に修正をしてきました。

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前半は、ボールを持っていない選手が止まっていて、動き出しが無いので、ボールが前に進みませんでした。

なのですが、後半は、そのボールを持っていない選手が積極的に動き、ボール保持者に対する連鎖的なサポートが得られるようになったので、ボール保持者からすると、次々と複数のパスコースが生み出されます。よってパス循環が良くなり、スムーズにショートパスで前進することができるようになりました。

ですが、良かったのはここまで。一番重要な部分が欠けていました。

それは、「ゾーン3でのプレー原則」です。

ここまで書いたように、ボール保持者に対する連鎖的なサポートが得られるようになったので、スムーズにボールを前に運ぶことはできるようになったわけです。ですが、サッカーは点を取らないと勝てません。なんで、ボールを前に運んだだけではなく、シュートを打って、ゴールネットを揺らさないといけないわけです。

ですが、そのゾーン3でどのようにプレーし、どのようにエリア内にボールを入れてシュートを打てる状況を作り出すのか、というプレー原則が無かったので、東京の強固な守備ブロックを崩すことは出来ず、決定的なシュートを打つまでには至りませんでした。そして、84分に久保のゴラッソで失点し、0-1敗戦。結局は久保のジャンピング左足ボレーという個人技にやられてしまったわけです。

このシステムを全く変えないでプレーした東京が、久保のゴラッソで勝った、システムを可変させるも、そのシステムの使い方、活かし方が分かっていなかった磐田が負けた、という事から考えると、サッカーは配置を工夫したからといって勝てるゲームではない、ということが分かります。

結局は、(決して東京がそうだと言ってるわけではありません)なんの工夫もないシステムでも、サッカーでも、FWの選手をDFとして起用しても、失敗したクロスがたまたまゴールに入って勝ち点3ポイントを獲得することができるわけです。ゴールはゴールであることには変わりなく、どんなに美しいゴールでも1点ですし、それがサッカーなので。

ですが、そんな無茶苦茶なことをしていたら当然勝てる可能性は低いので、いかに勝てる可能性を高めるか、ということを考えて様々な監督たちは、相手を分析して、相手の穴を突くために、自チームの選手の特徴を最大限に生かすためにシステムを工夫し、可変させるわけです。

しかし、磐田の場合、名波監督の場合は、システムを変えるけれど、それが勝つ可能性を高めるためのものになっておらず、「並びだけ」「配置だけ」になっているということです。

このような現象は、この試合だけではなく、僕の見た他の試合でも見られていて、この試合だけたまたま上手くいかなかった、と言うわけではありません。

しかし、月刊誌サッカーマガジンで名波監督が自ら執筆している連載「名波浩のフットボール新論」の4月号を読むと、今シーズンの開幕前のプレシーズンキャンプで、今まで自分の練習は守備が多かったが、今回のキャンプでは、今までの攻撃練習と守備の練習のバランスを大きく変えて、8割方を攻撃に費やした、と書かれています。ですから、なんでそんなに攻撃練習に時間を使ったのにここまで点が取れないの(12節終了時点でリーグワースト3位)、停滞感があるの、と当然なりますよね。

ですが、それと同時に新里から川又へのクロスの感覚がとても川又にとって感覚が良かったらしいとも書かれていて、その川又が右肩関節脱臼によって6週間の離脱をしていることなどが影響しているのかもしれません。

とはいえ、今のところ、その8割方を費やした攻撃練習は実っておらず、このままいつまでも具体的なプレー原則が落とし込まれないのなら、得点力不足は解消されないでしょうし、川又が帰ってきたことで大きく変わることではないと思います。根本の原因は、川又の負傷では無いと思うので。

第二章 FC東京の守備が固く、カウンターが強烈な理由

続いて第二章では、FC東京の守備戦術を分析していきます。

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4-4-2の完全なゾーンディフェンスで、自陣にブロックを組んで構えるところから守備がスタートします。4-4-2のバランスは崩さず、常に保ちます。

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また、基本的にプレッシングはかけないのですが、CFの永井、ディエゴのどちらかが相手CBにプレッシャーをかければ、そこをスイッチとして連動してプレッシングをかけ、ハメ込んで奪うことを狙うシーンが時々あります。

ではここから、東京のプレッシングではなく、ブロックを組んで構えた時の、組織的守備のフェーズの守備戦術を分析していきます。

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まずは、中央を封鎖することを優先します。上図のように、SHが少し内側にポジショニングすることもあり、特に第二PLは選手間の距離を縮め、ライン間を封鎖します。

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そして、サイドには、スライドで対応します。

では次に押し込まれたときの守備戦術&カウンターを見ていきます。

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押し込まれると、ディエゴ、永井の2トップをカウンター要員として前残りさせ、4+4の2ラインはエリア手前までラインを下げます。なので、ライン間をとてもコンパクトにして、中央突破をさせない。4+4と2が大きく分離した形です。

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ライン間は、先ほども書いたようにとてもコンパクトにしているので、封鎖することができています。ですが、第二PLをだいぶ低い位置まで下げているので、ボランチ前に大きなスペースがあります。

そのボランチ前のスペースは、2ボランチの橋本、東が、相手が余裕を持つことができる中途半端なものではなく、相手から時間を奪ってライン間へのパスを出させないことができる強度で寄せることができるので、それでケア。

なので、ボランチ前のスペースからミドルシュートを打たれることもありません。

そして、サイドからクロスを入れられても、2CBの森重、渡辺(チャン・ヒョンス)が空中戦に勝つ確率が高く、ライン間がとてもコンパクトであるため、MFが近距離にいるので、セカンドボールを拾う確率も高い。

このように、ライン間がコンパクトで、中央突破をさせず、ボランチ前のスペースは2ボランチの寄せの強度でケアしているので、引く場合の弱点であるミドルシュートも打たれない。そして、サイドアタックからクロスを入れられても、CBは空中戦に強く、MFが近距離にいるのでセカンドボールも拾いやすい。どんな攻め方をされても対応でき、失点をしないようなとても強固で、素晴らしい守備だと思います。

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そしてその固いブロックからボールを奪う事ができたら、シンプルに前線に残っている永井、ディエゴにロングボールを送り込みます。そしてセカンドボールを拾って、一気にロングカウンターを仕掛けます。永井の圧倒的なスピード、ディエゴのフィジカル、突破力、上がってくる久保のパスセンスを活用してのカウンターアタックは、相手にとったらとてつもない脅威となります。

ここまでのように、どんな攻め方をされても守るようなとても素晴らしい守備ブロックがあり、奪えば爆発的な破壊力を持つロングカウンターが襲い掛かってくる。まさにこれが東京の強さの理由でしょう。

第三章 磐田、守備戦術も「配置だけ」

ではこの章では、磐田の守備戦術について書いて行きます。

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磐田は、5-4-1でブロックを組み、全くプレッシングを行わずに引き込みます。東京は、常にSBが高い位置を取っていたわけではなく、タイミングを計ってオーバーラップし、攻撃参加する、というスタンスで、右SHの久保は、内側に入ってのプレーをするシーンも多かったです。

では前提を抑えたところで、ここから磐田の守備を3つのエリアに分けて分析します。

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まずはエリアA。磐田はプレッシングをかけず、引く守備をするので、このエリアで相手に自由にボールを持たれるのは仕方ありません。そしてエリアBは、ライン間のことを言っていますが、このエリアには、引いて、コンパクトにして、且つ人数をかけていますので、進入されはいけません。そしてエリアCは、エリアBと同じく、ラインを下げてスペースを消しているので、突かれてはいけません。

磐田のように5-4-1で引く守備をする場合、横に三分割したエリアでの意識はこのようになっているということです。

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なのですが、上図のように、エリアAでボールを持たれたときに、第二PLがライン間へのパスコースをバックマークで消す事ができていなかったことに加え、CBが相手CFに対してマンツーマン方式のハードマークをしていませんでした。

なので、ボール保持者からライン間へのパスコースが空く、受け手側のCFはパスを受けることが難しい状態ではない、ということになり、簡単にライン間のCFに縦パスを入れられ、納められる、というシーンが多く見られました。そしてCBと同様に磐田は他の選手もマンツーマン方式の守備をする、というタスクを担っておらず、ゾーンで守っていたので、中に入ってくる久保や、もう片方のCFに対してのマークが追いつかず、フリーで落としを受けられ、コンビネーションで崩され、エリアCにスルーパスを出され、決定機を作られることになっていました。

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この図のように、しっかりボランチがバックマークでエリアB へのパスコースを消し、CBが相手CFに対してハードマークして、仮に縦パスを入れられても潰せる、プレーの精度を落とさせることが必要でした。

これから分かることは、磐田は守備でも「配置だけ」だった、ということです。

5-4-1で引いて、ゴール前のスペースを消す、という守備戦術だったわけですが、エリアB(ライン間)へのパスコースが消せておらず、CBも相手CFをハードマークしていなかったので、簡単にエリアBに縦パスを入れられ、崩されることになっていた。要するに、引いたけど、消しているはずのスペースをガンガン使われた、ということです。5+4で9人もゴール前に人を配置しているのに、その人数の多さを生かした守備が出来なかった。まさに「配置だけ」です。

それによって押し込まれ、奪う位置がとても低くなり、相手の東京のようにディエゴと永井と久保がいるわけではなく、攻め残りしているのは中山の一人だけなので、効果的なロングカウンターを仕掛けることもできませんでした。

第四章 データ分析

(データ引用元:Football LAB)

最後にデータ分析。

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(下のグラフは、上が東京、下が磐田)

まず前半のプレーエリアのヒートマップ、ゴールの可能性です。東京は、左サイドがとても濃くなっており、左サイドに比重を置いて攻撃をしていいたことが分かります。ゴールへの可能性を示す下のグラフを見ると、長い時間押し込み、惜しいシーンを作り出していたわけではなく、所々で可能性の高い時間があった、という感じです。

磐田の方は、ゾーン2が幅広く濃くなっている感じで、前半はほとんどの時間でゴールへの可能性が低く、チャンスを作れていなかったことが分かります。

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そしてこちらは後半のものです。後半は、磐田の方が敵陣のサイドが濃くなっていて、それに伴ってFC東京は自陣のサイドが濃くなっている。

ですが、磐田の方は、肝心のゾーン3、ゴール前は全く濃くなっていません。磐田の攻撃の分析でも書いたように、パス循環が良くなり、スムーズに前進できるようになったとはいえ、やはりゾーン3でのプレーは良くなかったことが分かります。

そして東京の方は、ゴールも決まった終盤にゴールの可能性が高くなっています。それと同時に、シュート数も、75-90分が一番多く、7本シュートが放たれていて、90分トータルのシュート数が15本なので、約半分を占めています。

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続いて攻撃CBP。久保が一位で、ディエゴが二位、永井も良い数字を記録していたのですが、磐田のCF中山は、スタメンの中でGKカミンスキーを除いて最下位。いかにプレーに絡んでいなかったかが分かりますし、東京の2トップ、永井とディエゴと大きな差がついています。

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次にパスCBP。ここでは、両チーム共CBよりもボランチの方がとても高い数字を出していまして、攻撃、パス両方のCBPポイントにおいて両チームのボランチは高い数字を記録していたことが分かります。そして磐田の方は、ここでもCF中山の数字が低く、2人のシャドーともポイントが離れています。

また、CFでは珍しいのですが、ディエゴが5位にランクインしていて、ボールに絡むシーンがCFながらも多かったということです。

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そしてこのスタッツを見ると、やはり敵陣ゴール前に進入した回数は東京の方がとても多い。東京は二つ合わせて69回、磐田は48回。21回も多く敵陣ゴール前に進入していたのです。

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これは奪取CBPポイント。ここで東が一位となっていて、東は、攻撃、パスというボール保持時のCBPポイントでも上位なのですが、ボール非保持のポイントも高く、攻守に渡って活躍していたということが読み取る事ができます。また、東は、普段からボランチでプレーしている選手ではなく、普段はSHでプレーしてる攻撃的な選手なのですが、自分の守備がSH以上に重要になるボランチでのプレーをこなすことができ、闘える選手だということが分かります。

ここまでのデータ分析をまとめると、東京のアタッカーが攻撃、パスCBPにおいて高い数字を記録しているのに対し、磐田のアタッカーは東京に比べて低い数字となっていて、CF中山はその中でも特に低く、いかに攻撃に絡んでいなかったかということが分かり、チーム全体を見ても敵陣ゴール前に進入した回数に大きな差が出ている。

そして普段はSHでプレーする攻撃的な選手である東が、ボランチで起用されると奪取ポイントで一位となり、攻守に渡って存在感を示した。

総括

東京 守備では、4-4-2で守備的プレッシング。基本的にプレッシングを行わず、選手間の距離を縮め、中央を閉めることを優先。押し込まれたときには2トップが前残りし、4+4の2ラインをエリア手前まで下げ、ライン間をとてもコンパクトにする。そうすることでライン間を封鎖し、中央突破をさせない。そして、ボランチ前のスペースは2ボランチの相手から時間を奪う強度の高い寄せでケアしてミドルシュートを打たせず、サイドからクロスを入れられてもCBが空中戦に強く、2ラインをコンパクトしているのでMFが近距離にいるので、セカンドボールも拾える確率が高い。どんな攻め方をされても守れるような素晴らしい守備ブロックから、奪えばシンプルに前残りしている2トップにロングボールを送り込み、2トップ+久保の爆発的な破壊力を持つロングカウンターで相手ゴールに襲い掛かる。

攻撃では、磐田の守備戦術に問題点があったので、簡単にライン間に縦パスを入れて、コンビネーションで崩す事ができていて、84分に左CKのこぼれを久保の左足ボレーで勝利。

磐田 攻撃では、3-4-2-1から4-1-5に可変するが、4バック化しても数的優位を獲得出来たわけではなく、逆に相手のプレッシングにハメ込まれる可能性があった。また、後半に改善が見られたものの、ゾーン3でボールを持って押し込み、崩してゴールを奪うには至らず。後半はボール保持者に対する連鎖的なサポートが得られるようにはなったが、ゾーン3での「どうゴールを奪うか」というプレー原則が必要。これでは「配置だけ」の攻撃である。

守備では、5-4-1でゴール前に人数を割いて自陣に引き込むが、エリアB(ライン間)へのパスコースを消せておらず、CBが相手CFに対してハードマークをしていないので、簡単に縦パスを入れられ、納められ、コンビネーションで崩されていた。人数をかけているが、その人数の多さを生かした守備ができず、守備でも「配置だけ」になっていた。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、僕のnoteのフォロー、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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