見出し画像

【CES2023】基調講演から デジタル技術で変わるユーザー体験とAR

世界最大規模のデジタル技術見本市CES2023が米ラスベガスで5日に開幕した。とはいえ個人的な事情から土壇場で現地に行けなくなったので、オンラインで基調講演を視聴することに。日本にいながらにして、リアルタイムで遠く離れた現地の様子を知ることができるのもデジタル技術のおかげで、非常にありがたい次第だが、そんなことなどお構いなしにテクノロジーは未来に向けて疾走し続ける。
*上の写真はBMW iVision Dee(BMW Groupのウェブサイトから)

手術ロボットを支える半導体

オープニングの基調講演に登壇したのは、毎回お馴染みとなっている米半導体大手AMDのリサ・スー(Lisa Su)CEO。それこそ、AI(人工知能)からゲーム、PC、ヘルスケア、産業用、航空宇宙、高性能コンピューティング(HPC)といった用途に使われる先端半導体デバイスの新製品を立板に水のごとく、ばっさばっさと紹介していく。そうした中でより記憶に残ったのが医療分野での協業相手だ。

手術支援ロボット「ダヴィンチ(da Vinci)」で有名な米インテュイティブ・サージカル(Intuitive Surgical)は、AMD子会社でもある米ザイリンクス(Xilinx)のユーザーという。Xilinxが提供するFPGAを使い、短期間でシステム用途にマッチした組み込みシステムを構築するアダプティブコンピューティングを活用する。

同社のボブ・デサンティス(Bob DeSantis)EVP & Chief Product Officerは「(手術支援ロボットの)動作制御やビジュアリゼーション、安全機構について、リアルタイムのコンピューティングと低遅延がカギになる」とし、手術支援ロボットにおける半導体性能の重要性を強調した。

さらに、手術支援ロボットの発展形として同社が開発する「アイオンプラットフォーム(Ion Platform)」は、患者の体に対して最小限の負担(侵襲)で肺の気管支の深い部分にまでカテーテルを挿入し、生体組織サンプルを採取できる。その結果、これまで数カ月から数年かかっていた肺がんの診断・治療期間の短縮や安全性の向上につなげられるという。

手術室で使えるARヘッドセット

もう1社、AMDのパートナーとして登壇したのがAR(拡張現実)ヘッドセットを開発する米マジックリープ(Magic Leap)のペギー・ジョンソン(Peggy Johnson) CEOだ。Su氏が「ヘルスケアはARにとって最も前途有望な分野の一つ」と話すように、個人の手技や経験に頼ってきた手術は、ARやロボットなどのデジタル技術の支援により標準化や成果の向上が図りやすい分野かもしれない。

Johnson氏によれば、米SentiARとの協業による先進的なユースケースでは、Magic Leap 2を通し医師に対して患者のライブの臨床データを提供したり、患者の3次元血管マップや心臓カテーテルの位置の映像をリアルタイムで眼前に示しながら手術を進めたりできるという。「これは業界にとって全くのゲームチェンジになる」とJohnson氏は話し、関連するソフトウエアを含めてMagic Leap 2はIEC60601の認証を取得する見通し。手術室で使える初のARデバイスになるとしている。

医療分野で使われるMagic Leap 2(Magic Leapのウェブサイトから)

アップル参入でどうなる?

AR/VR(仮想現実)ヘッドセットは仮想空間のメタバース人気と相まって市場拡大が期待され、今年後半には満を持しての米Appleの市場参入も囁かれている。そのため急増する需要の一方でメーカー同士の競争が激しさを増すのは間違いなく、既存メーカーは最大手の米Metaを含めてAppleの登場に戦々恐々としているのではないだろうか。

しかも1月3日のThe Informationの報道によると、Appleが開発中のヘッドセットは、装置右側の物理的なダイアルを手で回転させるとそれに応じてグラスの色の透過度が変化し、周囲の現実世界と仮想世界の見える割合を変えられるという。ただし、iPhoneで物理的なボタンを排除する方向に向かっているAppleにしてはApple Watchでの竜頭代わりのDigital Crown同様、機能性を優先しアナログ的なインターフェースを検討しているようだ。

車の色もUXも自在に変化

CESの基調講演に話を戻せば、独BMWのオリバー・ジプセ(Oliver Zipse)CEOは「モビリティーの未来は電気(EV)、サーキュラー(循環型)、そしてデジタルだ」と断言した。前の2つの要素はどの車メーカーも以前から取り組んでおり、3つ目のデジタル技術を駆使したユーザー体験(UX)が今後の差別化要因になるという見立てだ。

そんなわけで、世界に向けて同日披露した「BMW iVision Dee(アイビジョンディー)」のコンセプト車では、eインクによりカメレオンのように車体の色が元の白から黄色、赤、青、紫などと模様も含めて自在に変わるUXが楽しめる。ちなみにDeeとは「感情に訴えるデジタル体験(Digital emotional experience)」の頭文字。昨年発表したコンセプト車が白黒だけの変化だったのに対し、今度は世界で初めて色が変わる車になるという。

運転者や同乗者が過ごす車内のUXにも工夫が凝らしてある。車内の運転席にあるスライドバーを軽くなでることでMR(複合現実)のレベルを4段階で調整可能。車のウインドウを使ったARディスプレーの表示がその段階に応じて変化する。また車内での体験も単なる運転から、メールや電話による友達との交流、映画やエンタメ、それに完全な仮想世界まで4段階で変化する。音声認識機能を持つAIアシスタントまで付いていて「最高の仲間(Ultimate Companion)」のような車になるという。次世代EVの「Neue Klasse(ノイエクラッセ = 新しいクラス)」とともに、iVision Deeも2025年に生産に入る予定だ。

現実と仮想現実のはざまで

このiVision Deeのスライドバー機能は、偶然にもアップルのARヘッドセットのダイアルと方向性が似ているような感じがする。というより、人間はやはりメタバースのVR空間に入り浸ったきりではなく、現実と仮想現実との間を自分の意志で行ったり来たりする体験をより欲している、との分析に基づいた設定だろう。この辺りをデジタル技術でどう魅力的にデザインするかが、もしかすると今後のVR/ARの競争軸の一つになるのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?