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「いつまで同じような観察研究をしてるんだ、RCTをやらないか」

1-2年前に敗血症を凝固マーカーから4つのフェノタイプに分類し、その中の特定のフェノタイプのみにトロンボモジュリンが効果ありそうだから、ここをtargetとしたRCTを行うのが良いのではないか、とした論文と、その続きとして、実際の患者がtarget phenotypeかどうか判別するために、web appに凝固マーカーの値を入れたらその論文で同定したフェノタイプかどうかが分かる、という一連の論文を出版しました。ちなみにこれらの論文はたまに解釈違い?が生じているので、今度少し詳しく説明しようと思います。言いたいことは臨床応用しないで下さい、という点だけですが。

この一連の研究は、主任研究者の先生がJAMAの敗血症フェノタイプの論文を見て、「こういう研究がしたいが、手伝ってもらえないか?」と自分に声をかけてくれたのが始まりです。僕もこの論文の研究手法などは興味があったので、色々試行錯誤して解析し、当時所属長だった教授にも少し見ていただきました。

そこで教授からは「この研究自体は良いが、いつまで同じような観察研究をしてるんだ、いい加減RCTをやらないか」と言われました。いや自分に言われてもなと思いましたが…。

トロンボモジュリンやPMXが日本におけるガラパゴス的な医療で、日本からは多数の観察研究が出ている一方、国内から質の高いRCTによるエビデンスがない事は指摘されています。

小尾口邦彦
集中治療における日本独自治療の国内認可試験
日集中医誌 2023;30:163-9.

今いくつかのRCTに携わってますが、数百万円から数億円と幅がものすごい。お金はあるところにはあるなと思いますし、動かせる人のところにお金が集まる。そしてPIの負担もものすごい。お金を取ってきて、チームを管理・運営するので、起業するのと変わりないです。RCTをやった人はその後もRCTをやるように、最初のハードルが高くても次々会社を立ち上げる人と同じようなものでしょうか。

RCTをやる上で最も大事な点の一つに、『誰が対象なのか?』という点があります。個別化医療や精密医療が叫ばれるようになって久しいですが、起業で言うなら「ターゲットとニーズを明確にする」でしょうか。ビジネスと研究には多くの共通点があるので、その辺は面白いなと思って見ています。RCTに対する憧れは多くの研究者にあると思いますが、仮説とターゲットを明確にしないとリソースの無駄になりかねないのが難しいところでしょう。僕は上記研究後にRCTやるかなと思ったんですが、共著者の先生からはもう少し検討必要と言われました。

観察研究や既存のnegative RCTから回帰分析あるいは機械学習を用いてRCTのターゲットを決める中で、多くは観察研究で止まったままです。これは解析している人が現場のリーダーでは無い場合、RCTの現場としてのフィールドとの兼ね合いが難しいからというのもあるかもしれません。あるいはお金を取るのが難しい、そこまでのパワーがないというのもあるでしょうか。

大規模RCTのためにお金を取ってきてチームを作って物事を進めるスキルと純粋な?研究スキルは全く異なるものであり、研究スキルを学んだからできるというものではありません。むしろリーダーシップやマネジメント論であり、まだMBAとかの方が学べる気さえします。

また、集中治療みたいに横断的であるが故にheterogeneityが凄く、しかも刻一刻と時間によって変化する領域では、RCTはなかなか苦しいと思っています。先日の日本集中治療学会での僕の教育講演後の雑談で某理事長が同じようなことを仰っていました。同様に、海外でもdata drivenでの観察研究モデルから見出すべきだという意見もあります。ICUはデータ量が多く、観察研究が行いやすい環境ですし。例えば集中治療の大家であるVincentは昔から集中治療室でのRCTには懐疑的ですよね。。

場合によっては敗血症という概念そのものが混乱の原因なのではとすら思いますし、まあでもやってみたい&やってみないと分からないじゃんという気持ちもあり。

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