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知人の論文の査読依頼が回ってきた

結構、いやかなりセンシティブな話なので書くか迷いましたが、実際に結構あるので思うところを少し書いてみようかと(そのための個人note)。実際のところ数十本以上論文を書く、あるいは論文を数多く書いている人達と論文を書けば、査読で回ってきた論文の共著者の一人が自分の共同研究者だった、なんていう事はざらにあります。最近では、共同研究はしたことないけどSNSで仲良くしている人の論文なんかも査読に回ってきます。

基本的にそのような査読は全部お断りしています(査読は面倒くさいから丁度良い断る理由があったラッキーなんて思っている訳ではないです)。

国内所属学会誌からの査読依頼

ある程度受けざるを得ないのが国内の所属学会からの査読依頼。僕はあまり学会とかに貢献している人間ではないのですが、査読だけは受けています。

日本Q〇医学会とかからきた査読なんかは、大抵依頼してきたassociate editorが知り合いだったりするし、国内雑誌はインパクトファクターがついていないorそんなに高くないことが多く、『なんとかこの雑誌でアクセプトが欲しい…』なんて思ってsubmitしていることもあると思います。気持ちは痛いほどわかります。

もちろん僕は『この論文の主なターゲットは日本の〇〇医だから』という理由でその雑誌に出しています。はい。

四大誌やその姉妹誌(B○J Open除く)の査読だったら僕も即OK出しますが、そうではない雑誌の査読者が昨今の現状で見つかりにくいであろうことは想像に難くないし、自分がeditorだったら胃がキリキリしてなんならもう自分の部下にやらせる…なんて事にもなるかもしれません。

そんな背景で知人の論文の査読を行なった結論としては、やっぱりフェアに査読するのは不可能であるということ。いかに中立かつ客観的な立場にいようと思っても、意識的にあるいは無意識的に影響されます。そもそも中立でいようとすること自体が客観的ではないです。

知人の論文の査読依頼を受けてはいけないのか?

これは所謂利益相反(conflict of interest, COI)のうち、non-financial COIと呼ばれるものですが、メンター・メンティーとか、明らかに公私共に仲が良い人の論文は流石にお断りすべきでしょう。しかし微妙な知り合いに関して、なんか指針とかないのかなーと思って調べてみたところCOPE(Committee on Publication Ethics, 出版規範委員会)のガイドラインが一番明記されていて、国際指針なので従いやすいと思います。COIに関するところを引用すると下記のような感じ。

『あなたが現在、著者と同じ機関に勤務している場合、または最近(例えば過去3年以内)メンター、メンティー、親しい共同研究者、共同研究助成金保有者であった場合は、査読に同意すべきではありません。』

結構具体的でありがたい。とりあえずめちゃくちゃ親しい人と現在進行形でグラント出してるような共同研究者は断れ、それ以外は申告して相談しろ、って事でしょうか。僕はとりあえず受けて査読コメント書いて、エディターへのコメントに「知人なのでCOIあります」的な事を書いて送っています。

それなら最初から受けるなよ、って思うかもしれませんが、今の査読の現状は終わってるので、受けない訳にもいかない。なので、自分にやれることだけやって後は編集者に任せています。査読すれば多少お金がもらえるならやる人もいるでしょうが。

結局のところ、許すまじエル○ビア。

あと、いくつかの雑誌を眺めていてその通りだと思ったのは、Scientific ReportsのGuide to refereesに書いてあったこの部分。

"We recognize, however, that competing interests are not always clear-cut, and the above circumstances need not automatically undermine the validity of a report. Indeed, the people best-qualified to evaluate a paper are often those closest to the field, and a sceptical attitude towards a particular claim does not mean that a referee cannot be persuaded by new evidence. Editorial Board Members try to take these factors into account when weighing referees' reports."

COIって言ってもクリアカットじゃないし、COIがある=査読がダメってわけでもないです。そして研究内容をちゃんと評価できる人は当然同じような研究領域にいるわけで。これは論文にも言えることですが。

Scientific Committeeと呼ばれるような学術団体は結局横の繋がりがあるし、人間関係で成り立っています。研究フィールドなんていくら大きくても、ある程度のコミュニティが存在するので、査読において知人の論文を受けない、と言っていたらほとんどの論文が受けられない分野だってあるでしょう。

まあやっぱり学会のお偉いさんはその雑誌に掲載されやすいですよね。これを僕のメンターは信頼と言ってましたが、まあそういうものかなと。少なくとも知ってる人の論文を落とすということはかなりやりにくいがやるしかない、という感じ。

あと、『先生の論文実は私が査読したんだよ』系の発言は、事後であってもトラブルの元になるので避けるべきとは思います。出版後だし問題ないだろうと思って言いたくなる気持ちもわかりますが、少なくとも、発言が残るような場所では絶対に控えるべき。上記COPEにも秘密にすべきとあります。

ちなみに『査読を受ける?受けない?』に関しては良いフローチャートが上記COPEから出版されていたので貼っておきます。そのうち論文マニュアルにも掲載します。

https://publicationethics.org/sites/default/files/considerations-for-peer-review-cope-flowchart.pdf

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