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ワーキングサンカとしてNYで働く


NY移住への経緯

3月末で2017年からNYへ移住してまる3年になろうとしている。先日無事O-1Bのapprovalが降りたので、もう3年をこちらで過ごす予定だ。全く思いもよらず、ちょうど3年目のこの時期、新型コロナウィルスで今年が激動の年となっているなんて誰が想像できただろうか?

色々ここに至る経緯は端折るが、数年前にインタビューされた記事が詳細にあたる。
一度35歳ぐらいの時に語学留学してから、言葉の壁を超えて普通に海外の会社で働いてみたかった、子育てを海外でという漠然とした思いがあった。夢というより普通のチャレンジでしかないが、ありがたいことに、日本のリモートの仕事も全く途切れず、なかなかこちらの仕事を探すのに本腰が入らず、先送りにしていたが、遂にVISAの更新のため、必要性が出てきた。
今でこそ日本でも当たり前だが、、リモートワーカーとして一人渡米していた時期や、日本の自宅も含めると4.5年経つ。自分でもよくやってきたなとは思うが、基本じっくり一人で集中してデザインしたり映像を作ったり、ビジュアルアーティストとしてアートワークを作るのが好きなので、非常に楽しんで出来ている。正直普段五人家族でいつも一緒に過ごしてるので、このひとりの時間は貴重。ただ、家に子供が三人いても割と集中できるようにまでなってしまった。
テレカンもスピーカーを自分が喋る以外オフにする作戦で、トランシーバーのように使ってるから、子供がハッスルしててもある程度いける。何度も言うが、これは自分の力ではなく支えてくれる会社*NON-GRIDや、社長、スタッフ、クライアントの力が非常に大きい。今の時世、様々なところにドメイン(領域)を持つことはとても重要なことだと思う。REP(クリエイターの代理業務)を受けるところや、プロジェクトを増やせれば、色んな場所で仕事をすることも可能だ。今回の思わぬ災害もそうだが、多拠点にし一ヶ所の依存を減らせれば、情報が増え、フットワークも軽やかになるはずだ。NYを拠点にしつつ仕事のベースを東京とNY、ビジュアルアーティストとしてLAの会社にREPを受けてるので、情報もその分多角的になった気がする。正直自分程度でいけるので、重い腰をあげれば本当に誰でも出来るはずだと思っている。勝手にこれをワーキングサンカと呼ぶ。サンカとは、縄文時代にいた集団で所謂ジプシーのことだ。詳しくはwikiで。定住をせず、いろんな場所を移動しつつ暮らしていく。私的所有権が無くなってきたこの時世ともマッチした温故知新の考え方だ。自分もそんなワーキングサンカを目指していたい。

NYでの仕事の取り方

さて話を戻すと、先ず、こちらの仕事を拡大するためにも、いろんな友人や知人に自分のポートフォリオを持ち込んで、紹介してもらい、オフィスやオンラインインタビューを受けてみた。中には、ポートフォリオも持ち込まず、向こうから*working not workingを通して連絡をしてきて、インタビューで気も合い一緒にやろうと良い関係を結べた矢先、コントラクトを結ぶ段階で全く連絡取れなくなった会社もあった。これは正直謎。窓口担当の子も良い子だったので本当謎。日本でも記事になってるファッションブランドだった。どうも後々から知った話、free-lanceと契約書を交わして仕事を始めるというのはほとんどないらしい。

しかし、それは必然だったのだと思う機会がやってきた。最近NYで目につく、明快で力強いデザインをやっていたデザインエージェンシーとインタビューする機会があり、改めて全ては、巡り合わせでしかないと思うことに。これも明らかに周りの人々のお陰。その機会を作ってくれたTylerは、逆パターンでNYから日本に移住するため仕事を紹介したことがあったが、当時はそんなこと全く考えてなかったので、なんだか不思議な気分だ。間違いなく情けは人の為ならず。ただし、その人が自分に価値があるかで判断するのはナンセンスで、どんな人にも、自分に余裕がある時は、惜しみなく情報をシェアしたり、手助けはするべきだと思う。それが結局はカウントオンしないでいても、必ず自分に返ってくるからだ。むしろアドラー的に言うと、貢献したことで自分の存在意義はすでに生まれている。余裕がない時は、これはしょうがない。。そして子供達、自分のやりたいこと、仕事と大体自分のことで目一杯だからなかなか、実行に移せず歯痒い。。

こっからはかなりスペシフィックな仕事の話であるので、この業界以外の人が読んでも?だと思うし、妻は全く興味を示さなかった。。
自分が働くことになった会社はGRETELというデザインエージェンシーだ。
総勢40名ほどの今を代表するクリエイティブディレクター、デザインディレクターが所属する、知る人ぞ知るニューヨーキッシュなデザインエージェンシーである。Netflixを立ち上げる際のNマークが多色で展開されるモーションアイデンティティなど、モーションを軸に印象的なブランディングを得意としている。
友人のJOHNのところで数年前インターンとして2ヶ月ほど席を用意してもらったことはあったが、これが初めてのfull timeになる。JOHNにはお世話になっていて、マイアミの博物館の仕事もリモートだが、一緒にやらせてもらった。こちらは今月末にローンチする予定だが、新型騒ぎでMiamiまで行く気になれない。。というかオープンするのかも謎。。GRETELの仕事は朝10時から夕方6時までの仕事で、日本を代表する大企業の一つの世界進出のためのブランディングに携わる。
正直、初めて名前を聞いた時は、鳥肌が立った。というのも自分の人生にとっては、最も思い入れのある企業の一つであるのは間違いないからだ。

ここまでの話をまとめると、偶然、自分の友人から紹介を受けた会社は、優れたデザインエージェンシーで、しかも日本の企業の仕事をちょうどキックオフするタイミングで、しかも自分がかなり詳しい分野の仕事だったというかなり運命的な仕事なのである。これはいろんな意味で漫画になる。
そう、偶然とは必然と隣り合わせなのだ。
全くの反意語ではなく、言い方さえ違えど同じ意味といっても過言ではない。そもそも地球に生命が産まれる偶然は必然だから。ちょっと言ってて意味が分かってない。

英語環境へ適応する役立つツール

さて、大体、3週間ほど前からインタビューを受けて、自分のポートフォリオをプレゼンテーションし、運良くジョインすることになった。日本でも割と沢山のグローバルブランドとの仕事ができていたのが響いたのだと思う。正直慣れない英語環境でfull timeで働くのは初めてなので、不安半分期待半分である。まさにfull timeは、前職の会社から8年ぶりじゃないか。。2年半も住んでいるも、英語力はそもそも大したことはない。住んでる人はなんとなく想像できるかもしれないが、一対一は割と会話が成立するも、複数人でのディスカッションや、ブレストなど、反射的なレスポンスが必要な会話は、ついていくのは至難の技である。あと、ギャグが通じない。割と日本語だと面白いこと言えるおじさんになってきたのに、全く面白いこと言えないので、心が折れる。そしてみんなが笑ってるギャグが分からない。やはり笑いは80%コミュニケーションの間なんだろうな。焼け石に水であったが、結構好きなバイリンガルニュースを寝る際と、通勤時には聞いて勉強しつつ、言い回しなどは、リアル英会話appで勉強しながら続けた。また、テクノロジーをうまく取り入れて仕事したかったので、otterというリアルタイム自動テキスト変換appを使うことにした。

業務内容と社内の雰囲気

初日は、企業背景と全体の進め方をシェアし、2種類のブランドの持つテリトリーのビジュアルのムードボードを作り始めた。主にリサーチが仕事だ。正直、自分にかなり親しい企業のCIなので、内容は把握出来たが、これが知らない企業だと考えるとゾッとした。
まぁ、アサインされた理由なんだが。。慣れない環境で、どっと疲労感を感じた。

ここで日本のstereotypeな意見で、海外ではみんな働く時間が短く、夕方5時にはみんなでお酒を飲んで楽しんでいる的なイメージがあると思うが、全く違う。みんな9時には出社して、夜10時過ぎまで毎日働いている。特にクリエイティブディレクターはすごく働く。日本の大手広告代理店のクリエイティブディレクターなんかは、立ち位置ばかり気にする様なイメージが強いが、誰よりも手を動かしてデザインし、誰よりもその仕事を考えていた。
もちろん収入はデザインディレクターで$120000から$150000がLinkdenのJOBアラートを見てると平均値なので、クリエイティブディレクターも$250000ぐらいが平均値となる。トップエージェンシーのスター選手となると1.2倍ぐらいの収入があり、日本のデザイナーとはだいぶ立場は違うはずだろう。ただし、最大37%(2018年度)に及ぶ税金を考えると高いのか低いのか?正直仕事が好きじゃないと計算が合わない。。結論として本当にニューヨーカーは仕事に真面目でよく働くと思う。

デザインディレクションの行程

自分のチームは、デザインチームが自分を含めて4人、ストラテジーチームが6人の大所帯チームである。6人のストラテジーチームは、その企業をとことん掘り下げる。そしてどんなパーソナリティなのか徹底的にヒアリング、議論し合い、最適なグローバル戦略を考えていく。もちろん我々のチームも一緒に議論していく。デザインチームは、本当にフラットに意見を言い合え、かなりウェルカミングなパーソナリティの集まりだった。ここは英語圏の特性で、敬語がない分か、クリエイティブディレクターだからといって萎縮することもなく、デザインに対してのエキサイティングな気持ちを素直にぶつけられる。我々のクリエイティブディレクターは、非常にポジティブな性格かつ、本当にいろんな知識を持っていて仕事が楽しく感じた。いわゆる自分もデザインオタクだが、彼女はさらに上を行くというか、小さなデザイン事務所の仕事すら把握していて、驚愕した。自分も欧文書体には一定の知識があったが、彼女を筆頭に全員流石にみんな造詣が深い。
そして書体メーカーに勤務する友達が多いらしく、その辺はかなり頼もしかった。このデザインチームの他の二人も、一人はPrattというアートスクールで教えてるデザイナーで、もう一人もW+Kで実践を積んできたかなり頼もしいチームだ。

GRETELでは、プレゼンテーションデックをかなり重要視しており、クライアント、チームがディレクションを深度まで共有できるよう何度も再考し、美しいフォーマットで組まれた最適化された戦略デックが作り出されていく。keynoteで全てを共有しながらデックを仕上げでいく。これは日本で某会社のお手伝いをした際に慣れていたので、馴染み深く、非常にやりやすかった。もちろんこの戦略は実際のデザインにも大いに貢献してくれ、必然的にその中に沢山のビジュアルヒントがたくさん含まれている。あの力強いデザインの数々は、ただのフィーリングから生まれてるのではなく、時間を納得いくまでかけて作られた必然的資産からなのだ。もちろんそれができるのは、莫大な予算とクライアント側の要望の高さからだろう。

一人のスターデザイナー任せの作家性の強いデザインや、フィーリングに任せたディレクションからは遠い行程がそこにはある。チーム一丸となって挑むのに長けてるのは日本人の特性だと思っていたがそれもstereotypeだと感じた。徐々に戦略がクリアになっていく行程は非常にエキサイティングだった。もちろん、作家性の強い造形力を元にした工程は、ビジュアルアーティストでもある自分的には非常に実験的で好きだ。のちにAIなどが発達した際、どちらのデザインディレクションが人の手から生み出されるか、想像は容易だが、どちらもとても興味深く勉強になる。

ここで良く見る単語を一つ。ドイツ語だか非常に良くストラテジーに出てくる。
zeitgeist 時代思潮
まさにこれを掴むためのヒアリング、リサーチなのだ。どのブランドにもこの思想が反映されるためプロジェクトの目的も似てくる。ただし個々のブランドの戦略のアウトプットはユニークさを見出さないとならない。とはいえ、やはり大手企業のブランディングが似通うのは、この時代思潮によるものだろう。

まとめ

さて、世界戦略を考える日本企業の手助けだが、ここまで時間と思考を巡らせて導くCIは、単純に言ってもGRETELに頼んで大正解だったろうなと思った。初めのプレゼンテーションを終えて、企業のパーソナリティを定めた所で、ようやく本格的なデザインのスタディが始まった。スケッチから、アウトプットまでさまざまな戦略的デザインを持ち込むが、時間も限られた中、出来る限りのスタディの後3案をベースに展開例、モーショングラフィックを含めたデックを作り上げた。感慨もひとしおで年末までみんな本当によく一丸となって働いたなーと。最後は、感謝の言葉をみんなに送って2019年を終えた。

翌年2020年も手伝う予定で参加したのだが、自分は、別の日本からのプロジェクトが手一杯入ってきてしまい、この初めのプレゼンテーションで離れることになったが、非常に成長できる仕事であった。

そしてまた、USで別の企業のブランディングの手伝いが、この新型コロナの影響を受けなければ始まる泣。正直このスタイルでさまざまな会社で働くことになれば、デザインの思考の仕方や、プレゼンテーションの仕方など、いろんな知見も増えて非常に勉強になるし、経済的にも助かる。こちらの経験も以後、またまとめてみたいと思う。

漫画で語るタイポグラフィーの話

あと、一つデザインのエピソードを3pの漫画にしてみたので、有料ですが興味がある人は読んでみてください。グラフィックデザイナーでない限り全く面白味ないマニアックなエピソードで、妻は1ページ読んだらつまんねーwといって辞めてました泣。なので、本当タイポグラフィや、デザインに興味ある人のみ推奨。昨今の嫌儲騒ぎ考えるとタダでも良いんですが、無料はいろんな意味でも文化にとってほんとに怖いですよね。。

早くこの激動が少しでもみんなの糧となり、平穏な日常として、より自分らしく生活できるのを祈っています。


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