【クソ小説を書こう : 友人Yからのお題】問3 泉ピン子が登場する短い小説を、以下の3つのワードを使って、お書きください。 「煙草」「鬼」「クソ」



『シックス・パラグラフス。』

「いい、あなた、耳かっぽじってよく聞きなさいよ!これ、真水じゃないわよ!!」

「ずばり言うわよ!これは真水じゃないわよ!あなた地獄に落ちるわよ!ずばり、ずばり言うわよ!」

「見て、あれ。いつまで続けんだろうね…。」みんなが呆れ果てて遠巻きに眺めているのに気づきもせず、やけに小さなスコップを片手に、地面を掘っている笹塚が、煙草枯れの声で、色んなパターンの真水発見を模索している。「そりゃそうだ。須磨海岸から真水は出るまい。」とみんなの顔にも書いてあるが、本人は無頓着を絵に書いたような顔をして、何とか真水を見つけようとしている。

「ピクニックに行こう!」と笹塚が言い出したのは、約1週間前の演劇部の定期練習の後である。もうすぐ本番となる我が演劇部オリジナル作品『渡る世間は細木数子ばかり』の稽古が進んでいく中で、物語後半の「真水を求めて手持ちのアイテムでサハラ砂漠を手当たり次第に掘り返す細木数子」という一番の盛り上がりシーンの自分の演技に、どうしても納得がいかず、一度本気で砂漠から真水を見つけたいので付き合って欲しいと、部のメンバーに依頼があったのであった。「そういうのはピクニックとは呼ばないんじゃないか。」と思ったのだが、鬼に親の首を取られたように必死の形相でお願いしてくる笹塚の顔を見ていると、「気乗りはしないが馬鹿には協力してあげよう。だって馬鹿なんだもん。」という気持ちに、みながなったようで、今、ここ須磨海岸で、笹塚の真水発見トライアルに付き合っているのである。

「んー、もう、真水でないなぁ…リンダ困っちゃう!」 笹塚もいい加減飽きてきているようだ。細木から山本にトランスフォームが起きてきている。そりゃそうだ、もう2時間近くもクソ寒い冬の須磨海岸で、チマチマと無駄な真水探しをしているのだ。飽きてこない方が気が狂ってると言えよう。そして、それを見ている演劇部の暇な連中(私もその一人だが)も確実に気が狂ってると言えるのだろう。みな帰ればいいのに、安物のコートやダウンに、セーター&マフラーという出来る限りの防寒装備で、笹塚を見守っている。日がな一日というやつだ。変化もイベントも事件もチャンスもピンチも無い。

「こ、これは…ま、真水が出た!本当に真水が出たよ!」 さっきとは別の場所を掘っていた笹塚がひときわ大きな声を上げた。細木でも山本でもない、笹塚自身の声だ。まさかとは思ったが、近づいて、笹塚が掘り返した穴の中の液体を見る。そして、ゆっくりと穴の底に溜まっている液体を手のひらに掬って、恐る恐る口に運ぶ。「…甘い。そして何よりシュワシュワする。」 なぜ、笹塚が三ツ矢サイダーを持っていたのか、それを穴に注いだのか、それを真水と言ったのか、みんなにそれを伝えようと思ったのか。…分からない。分からないことだらけで、それが分からない。そんな私たちの脳内に「混沌じゃないか!」と、えなりの声が木霊している。


(終わり)

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