Dynabookのどこにも技適(TELEC認証)マークが存在しない

ノートPCに技適マーク(TELEC認証)がない

自分は長らく東芝製(現在はSHARP傘下)のDynabookを使っていたが、そのスペック(CeleronでRAM 4GB)が貧弱で、電源を入れてからブラウザが開くまで数分、悪ければ十数分かかるなど作業時に支障が出ていた。
耐えかねて新しいラップトップを購入した後は、このDynabookは部屋の隅に放置されていたのだが、気になることがあり一度背面を開けて中を見ることにした。

Dynabookの背面カバーにはこのように技適マークがある。

Dynabookの背面

しかし、その下の番号はTから始まるものだけがある。
これは電波通信事業法に基づく通信機としての技術基準適合認定(いわゆるJATE認証)の登録番号である。
通常「技適」という言葉が意味しているのは電波法に基づくTELEC認証のほうだ。

PCのように電波を発する無線機部分とそれ以外の本体が容易に分離できるものに関しては、本体ではなく無線機だけの認証があれば十分とされる。
よって、本体にTELEC認証の技適マークが無くとも、内部にある無線モジュールに表示されていれば足りるはずである。

そう考えて、背面カバーを外したのだが、

無線カード

なんと、無線カードには技適マークが一切付いていなかった。

この無線カードはintel製Dual Band Wireless-AC 8265(型番 8265NGW)で、日本語サイトが存在する。

検索すると認証自体はされている。(なぜ同一の機器が120回も申請されているのかは謎)

8295ngwは工事設計認証登録済み


この状態は法的に問題が無いのだろうか。
電波法上の扱いを調べてみた。

(ただし、スマホのようにPCの画面上にマークを表示するようになっている可能性が残されている。デバイスマネージャーでは確認できなかったが。)

電波法上の扱い

技適制度の目的は、有限の資源である電波を効率的に利用するために、混信や妨害の危険性が無いように無線機器を管理することにある。
そのため、電波を発する機器は国が定める基準に適合していると確認されたものが使用を許可されている。

いわゆる「技適」と呼ばれている制度は以下の3つの認証の総称である。
技術基準適合証明 工事設計認証 技術基準適合自己確認
このうち、技術基準適合自己確認が行われるのは特殊なケースであり、一般的に流通、使用されている無線機器は前者二つのいずれかの認証を受けている。

技術基準適合証明
小ロットで販売される製品向け
検査時に申し込み設備から一部をサンプルとして抜き出す
(あるいは他機関で行った検査結果を提出する)
申請する台数に応じてサンプル数が増えていくので、大量申請の場合費用が高くなる
登録番号は個体ごとに発行される

第三十八条の二の二 小規模な無線局に使用するための無線設備であつて総務省令で定めるもの(以下「特定無線設備」という。)について、前章に定める技術基準に適合していることの証明(以下「技術基準適合証明」という。)の事業を行う者は、次に掲げる事業の区分(次項、第三十八条の五第一項、第三十八条の十、第三十八条の三十一第一項及び別表第三において単に「事業の区分」という。)ごとに、総務大臣の登録を受けることができる。
一 第四条第二号又は第三号に規定する無線局に係る特定無線設備について技術基準適合証明を行う事業
二 特定無線局(第二十七条の二第一号に掲げる無線局に係るものに限る。)に係る特定無線設備について技術基準適合証明を行う事業
三 前二号に掲げる特定無線設備以外の特定無線設備について技術基準適合証明を行う事業

TELECでの認証・検査費用https://www.telec.or.jp/services/tech/files/giteki_charge2.pdf


サンプル数(TELECの場合)

工事設計認証
サンプル(一つ?)と設計資料を提出して検査を行う
(あるいは他機関で検査を行い、その結果を提出する)
一般に大量に流通する製品(例:スマホ)は工事設計認証を取るのが基本
登録番号は同じモデルなら全個体に共通

第三十八条の二十四 登録証明機関は、特定無線設備を取り扱うことを業とする者から求めがあつた場合には、その特定無線設備を、前章に定める技術基準に適合するものとして、その工事設計(当該工事設計に合致することの確認の方法を含む。)について認証(以下「工事設計認証」という。)する。
2 登録証明機関は、その登録に係る工事設計認証の求めがあつた場合には、総務省令で定めるところにより審査を行い、当該求めに係る工事設計が前章に定める技術基準に適合するものであり、かつ、当該工事設計に基づく特定無線設備のいずれもが当該工事設計に合致するものとなることを確保することができると認めるときに限り、工事設計認証を行うものとする。

TELECでの認証・検査費用例

https://www.telec.or.jp/services/tech/files/ninsho_charge2.pdf

Dynabookに使われている無線モジュールは大量に流通しているものであるため、工事設計認証での技適申請がなされている。


技適マークについて
技術基準適合認証と工事設計認証では技適マークの表示についての記述が異なっている。


技術基準適合証明の表示は義務(第三十八条の七)

第三十八条の七 登録証明機関は、その登録に係る技術基準適合証明をしたときは、総務省令で定めるところにより、その特定無線設備に技術基準適合証明をした旨の表示を付さなければならない。

工事設計認証の表示は任意(同二十六)

第三十八条の二十六 認証取扱業者は、認証工事設計に基づく特定無線設備について、前条第二項の規定による義務を履行したときは、当該特定無線設備に総務省令で定める表示を付することができる。

この二つでは表示する主体が異なる。
記述基準適合証明では登録証明機関が、工事設計認証では認証取扱業者が行う。
認証取扱業者とは、すなわち端末のメーカーのことである。

第三十八条の二十五 登録証明機関による工事設計認証を受けた者(以下「認証取扱業者」という。)は、当該工事設計認証に係る工事設計(以下「認証工事設計」という。)に基づく特定無線設備を取り扱う場合においては、当該特定無線設備を当該認証工事設計に合致するようにしなければならない。
 認証取扱業者は、工事設計認証に係る確認の方法に従い、その取扱いに係る前項の特定無線設備について検査を行い、総務省令で定めるところにより、その検査記録を作成し、これを保存しなければならない。

この違いは単なる表記揺れであったり、あるいは工事設計認証でも技術基準適合証明と同じ扱いであることが暗黙の了解である可能性はないだろうか。

第三十八条の二十九では(技術基準適合証明での表示を義務づける)第三十八条の七を工事設計認証に関して準用する旨の記述が存在しない。
それどころか、(工事設計認証での任意表示を示した)第三十八条の二十六で読み替えるとされる。
よって、工事設計認証には第三十八条の七は適用されない。
「表示を付することができる」という文面がそのまま当てはまる。

第三十八条の二十九 第三十八条の六第三項及び第三十八条の二十から第三十八条の二十二までの規定は認証取扱業者について、第三十八条の二十三の規定は認証工事設計に基づく特定無線設備について準用する。この場合において、第三十八条の六第三項中「前項第一号」とあるのは「第三十八条の二十四第三項において準用する前項第一号又は第三号」と、第三十八条の二十第一項中「技術基準適合証明に」とあるのは「認証取扱業者が受けた工事設計認証に」と、第三十八条の二十二第一項中「登録証明機関による技術基準適合証明を受けた」とあるのは「認証工事設計に基づく」と、同項及び第三十八条の二十三第一項中「第三十八条の七第一項」とあるのは「第三十八条の二十六」と、第三十八条の二十二第一項中「は、当該」とあるのは「は、当該認証工事設計に係る」と読み替えるものとする。

そして、技適マークがないことによる罰則はここでは示されていない。
あるのは、認められた主体(登録証明機関或いは認証取扱業者)以外が技適マークや似た表示を付けた場合に罰則が下されるという記述である。

第百十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第三十八条の七第三項又は第四項の規定に違反した者

第三十八条の七
3 何人も、第一項(第三十八条の三十一第四項において準用する場合を含む。)、前項、第三十八条の二十六(第三十八条の三十一第六項において準用する場合を含む。)、第三十八条の三十五又は第三十八条の四十四第三項の規定により表示を付する場合を除くほか、国内において無線設備又は無線設備を組み込んだ製品にこれらの表示又はこれらと紛らわしい表示を付してはならない。

それでは、上のDynabookのように工事設計認証を取得した無線機(を組み込んだ機器)には技適マークが無くても法的に問題ないのだろうか。

実はそうではないというのが現状での結論である。


適合表示無線設備

そもそも「技適違反」という名称は正式なものではないのだろう。
正しく言うならば「免許違反」である。
電波法上では無線局を開設・運用する際は総務省から免許もしくは登録を受けなくてはならないとされる。
免許が無い機器では電波を発してはならない。

第四条 無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を受けなければならない。ただし、次の各号に掲げる無線局については、この限りでない。

以下の図は技適を受けた機器が開設に至るまでのプロセスを示したものである。
技適を受けた機器は、免許や登録申請をしたのちに開設できる。
そして技適マークはこのプロセスの簡略化に必要となる。


技適マークが表示されている機器は「適合表示無線設備」と呼ばれる。
(第四条)

 二十六・九メガヘルツから二十七・二メガヘルツまでの周波数の電波を使用し、かつ、空中線電力が〇・五ワット以下である無線局のうち総務省令で定めるものであつて、第三十八条の七第一項(第三十八条の三十一第四項において準用する場合を含む。)、第三十八条の二十六(第三十八条の三十一第六項において準用する場合を含む。)若しくは第三十八条の三十五又は   第三十八条の四十四第三項の規定により表示が付されている無線設備(第三十八条の二十三第一項(第三十八条の二十九、第三十八条の三十一第四項及び第六項並びに第三十八条の三十八において準用する場合を含む。)の規定により表示が付されていないものとみなされたものを除く。以下「適合表示無線設備」という。)のみを使用するもの

適合表示無線設備は免許申請の手続きが簡略化される。

第十五条 第十三条第一項ただし書の再免許及び適合表示無線設備のみを使用する無線局その他総務省令で定める無線局の免許については、第六条及び第八条から第十二条までの規定にかかわらず、総務省令で定める簡易な手続によることができる。

また、適合無線設備は包括して免許を取得することが可能。

第二十七条の二 次の各号のいずれかに掲げる無線局であつて、適合表示無線設備のみを使用するもの(以下「特定無線局」という。)を二以上開設しようとする者は、その特定無線局が目的、通信の相手方、電波の型式及び周波数並びに無線設備の規格(総務省令で定めるものに限る。)を同じくするものである限りにおいて、次条から第二十七条の十一までに規定するところにより、これらの特定無線局を包括して対象とする免許を申請することができる。
 移動する無線局であつて、通信の相手方である無線局からの電波を受けることによつて自動的に選択される周波数の電波のみを発射するもののうち、総務省令で定める無線局
 電気通信業務を行うことを目的として陸上に開設する移動しない無線局であつて、移動する無線局を通信の相手方とするもののうち、無線設備の設置場所、空中線電力等を勘案して総務省令で定める無線局

つまり、技適マークが無ければ適合無線設備として見做されないため、包括免許の対象外となる可能性がある。
この状態で電波を発した場合、免許がないのに無線局を開設・運用したとして第百条に基づく刑罰が下される可能性がある。

第百十条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
 第四条の規定による免許又は第二十七条の十八第一項の規定による登録がないのに、無線局を開設した者
 第四条の規定による免許又は第二十七条の十八第一項の規定による登録がないのに、かつ、第七十条の七第一項、第七十条の八第一項又は第七十条の九第一項の規定によらないで、無線局を運用した者

実際に技適マークが無い製品が流通している以上、東芝の対応がおかしいのか、この解釈が誤りであるか、或いは運用上は緩い判断が下されている可能性がある。

自分が調べた限りでの結論なので、指摘等あればご教示いただきたい。

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