郊外のラビュリントス

 俺ほどまぬけな泥棒がいるだろうか。
 空き巣に入って間もなく、急に家主が帰宅した。窓の無い納戸を物色中で脱出できず、慌ててクローゼットの中に隠れた。
 大丈夫、家主が風呂かトイレにでも入ってくれればその隙に、と思っていると、重い足音が近づき納戸の扉が開いた。
 クローゼットは閉めた状態でもわずかに隙間があり、俺は目を近づけた。
 家主はまるで相撲取りだ。ガリチビの自分の3倍は体重があるだろう。元より居直り強盗をする勇気も無いが。
 頼むからすぐに出てってくれと祈っていると、家主は持っていた鞄の中からボーリングの玉のようなものを、いや違う、あれは……嘘だろ。
 俺は何とか吐き気を飲み込んだが、失禁をこらえるのは失敗した。クローゼットの中にゆっくりとアンモニア臭が漂っていく。この悪臭が外に漏れたら終わりだと思うと再び失禁。
 家主が取り出しのは、人間の頭部だった。小さなナイフで肉片をこそぎ取って、食い始めたのだ。

【続く】

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