君は友達。
「○○君!バレー部入らない!?」
高校2年生になって初めての移動教室、スクールジャージだとまだ少し肌寒い渡り廊下を歩いていた僕の肩をいきなり抱き、そう言ってきたのはたしか自己紹介の時にバレー部のキャプテンやってますと言っていた男子生徒。
飛びつかれた衝撃で少しよろめきながら、((え…何?こわ…初めましての会話で激しめのボディタッチ&部活の勧誘…?これが陽キャ…恐ろしい…てかやばこの子名前なんだっけ…))などとごちゃごちゃ考えていたら
「どう?どう!?楽しいよ!!?一緒にやろ??」
ともう一度聞いてきた。
「いや〜バイトとかもあるしできないかな…」
僕は普通に断った。そう、やりたくなかったのである。めんどいし、お前誰だし、だいたい2年生になってから未経験者が始めるのはハードルが高すぎる。それに特別運動が好きだった訳でも得意だった訳でもないからまぁ当然だろう。
「んな〜おれ!諦めねぇから!!」
その子はゲームに負け駄々をこねる子供みたいな声で言い、一足先に化学実験室へと消えていった。
これが、僕が後に初めて好きになる男の子との、初めての会話だった。
結局僕はバレー部に入ることなく卒業してしまったのだが、その後も本当に続いた勧誘をずっと断っていたのを今でも覚えている。
この時はこの子を好きになることはおろか、仲良くなるとも思っていなかった、それはあまりにも生きている世界も、好きな物も異なっていたから、だけどいつの間にか教室で1番話す子になっていた。
ここではその子のことはSと呼ぼう。
Sはとにかくコミュ力が高く、どんどん話しかけてきてくれた。体力測定ではペアを組み、まだ寒いのにこんなことやらすなと文句を言いながらもどちらがいい点を取れるかを競った。とはいえ片や運動部のキャプテン、片や帰宅部のバ畜では明らかに運動能力に差があり、僕が勝てていたのは身長と柔軟性くらいだった気がする。
ただ勉強は僕の方が得意で、テスト前は2人でわざわざ時間を作り、図書館、地区セン、サイゼ、スタバなどに集まり勉強会をした。英語は壊滅的だったので1からSに教わっていたが、それ以外の科目は分からないところがあったら教えてあげるなど助け合っていた。
前期の中間テストが終わり落ち着いてきたら、少しずつ汗ばむ空気に僕は気持ち悪さを覚えつつも2人で自転車に乗りラウワンへ行ったり、それぞれが早起きして作ったお弁当のアレンジ卵焼きを交換こしたり、他の友達を集めて休み時間に噴水フルーツポンチを作って風情だね〜とはしゃいだり、学校に他の友達が勝手に持ってきたガスコンロで先生にバレないようにサイコロステーキを焼いて食べたり、馬鹿みたいに楽しく笑える高校生活を過ごさせてくれた。まぁ実際馬鹿なんだけど。
僕らはなんだってできる。そんな気分でいた。
もしかしたらSもそう思っていたかもしれない、そうだったらいいな。
その時には、ただ暑苦しくて嫌いだった夏も少しは好きになっていた。僕は完全に冬派だが。
夏休みに入り、毎日Sと顔を合わせなくなってからふとこう思った。
もしかしたら、僕はSが好きなのかもしれない
それを意識してしまってからは早かった。
Sに会いたい、Sは今何してるんだろう、Sはこのドラマみたかな、Sにこれあげたら喜びそうだな、そう思う度に確信に近づいていった。
僕はSが好きなんだ。
それを自覚した時、僕は正直
絶望した。
元々、恋愛的にも性的にも人を好きになることがあまりなかった僕は、突然明確に自分がゲイであるという答えを突きつけられ、そしてノンケに対するこの恋が叶わないことを理解したからである。
前言撤回する。
やっぱり夏は嫌いだ。
そこから現実を受け入れるのには少し時間がかかった。夏休みに入れていたSとの予定も心の底からは楽しめなかった。何か、自分が、人の皮を被った化け物のように思えてきてとても辛く苦しかった。
Sと距離を置こうとも考えたが、いきなり対応を変えるのも失礼だし変な話だ。
だから僕は覚悟を決めた。
Sとは友達でいよう。
この気持ちを悟られぬように、ずっと隠して生きていこう。それ以上でもそれ以下でもない友達。そして大人になってから遊んだ時、Sに「こいつはめちゃくちゃいい友達」って紹介してもらえるような人になろうと思った。自分にそう言い聞かせて生きていくことにした。
Sの恋愛相談に積極的に乗ったり、僕も女の子とも遊んだりするようにした。でもやっぱりどこかで後悔や未練はあったのだろう。でなければこんなに繊細に覚えていないような気もする。
季節は変わり冬になった。
冬はとても好きだ。寒いけど苦しさまでは感じないし。
僕は、Sが好きだと言っていた女の子とも仲良くなっていた、その女の子が好きな色や欲しがっているものをそれとなく聞きだしSに伝える。Sの幸せを願って。
数日後、いきなりLINE通話がかかってきた
「おれ!○○と付き合うことになった!」
Sからの、以前好きだと言っていた女の子と無事付き合うことができたという報告だった。
「おおおお!!まじ!?おめでとう!!!よかったじゃん!!!!」
きっと僕は上手くリアクションできたと思う。ただの男友達として、ちょっとばかし不自然なオーバーリアクションになってしまったかもしれないが、きっと通話越しならバレてない。
「まじまじ!ありがとな〜!ストーリーにあげる前にちゃんと連絡したくて!マフラーもめっちゃ喜んでくれた!」
スマホから聞こえる幸せそうな暖かい声に、僕は上の空な反応しかできなかった。
通話を切った後
これでよかったと、寒空の下、体も冷えきった自分に言い聞かせる。
自分の気持ちを伝えなかったことも。
プレゼント選びを手伝ったことも。
ちゃんと2人の祝福をしたことも。
何も間違っていない。
バレー部、入っときゃよかったかな。
あんまり遊ばないようにしときゃよかったかな。
いや違う。
Sは友達として僕のことを大切に思ってくれている。
それに僕も友達だって割り切ったはずだ。
これが正解、最初から分かりきっていたこと。
だから、これでよかったって。
だけどやっぱり思っちゃったんだ。
友達なんかになりたくなかった。
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