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注目奨学金!関西学院大学が学費の後払い奨学金を創設

関西学院大学(兵庫県西宮市)が、コロナ渦により経済支援を必要とする学生のために「関学ヘックス(HECS)型貸与奨学金」を創設したことがAERAで報じられました。

奨学金を緊急創設 「経済苦境による退学者は出さない」関西学院大副学長が語る(AERA 2020年12月14日号)

特別支給2020奨学金<関学ヘックス(HECS)型貸与奨学金>について(関西学院大学HP)

記事にあるように、関西学院大学はオーストラリアで導入されている、卒業後の所得に応じた学費の後払い制度を参考にしています。文部科学省でも海外の所得連動返還への取り組みについて調査されており、ここでは海外との取り組みについて考えてみたいと思います。

イギリスとオーストラリアの例

参考にするのは、海外の授業料と奨学金を調査した「諸外国の大学授業料と奨学金・第2版 2019.3.18」(国立国会図書館 調査及び立法考査局)です。

宗主国と植民地であったことでイギリスとオーストラリアは様々な分野で密接な関係を築いています。高等教育の費用対策となる所得連動返還についても同様なのでしょう。

イギリス(イングランド)とオーストラリアの所得連動返還制度の内容を見てみましょう。

イギリスでは現在給付型奨学金は廃止され、貸与型奨学金となっています。授業料相当額を貸与し、卒業後、年収が325万円以上となると返済を開始。年収超過分の9%が年間返済額となり、返済開始から30年経つと残額があっても返済免除となる。2015/16年度では、94%の学生が同制度を利用しているとのこと。

オーストラリアの国公立大生のほとんどが、連邦政府支援学生として所得連動返還型ローン(HECS-HELP)が利用でき、在学中の金銭負担はない。卒業後の年収が405万円(2018/19年度)を超えると、所得に応じて2~8%の額を毎年返済する、という内容です。

返済方法は両国ともに税務署を通じた徴収・返還方法がとられています。

イギリスとオーストラリアの所得連動返還の特徴

両国の所得連動返還の第一の特徴は、卒業後の収入が一定基準以上とならなければ返済義務が生じないという点です。

もうひとつが、一定期間を過ぎると残額が返済免除されるという点です。これはアメリカの学生ローンによる所得連動返還方式でも取り入れられている仕組みです。

日本と両国の制度との違いとは?

日本でも日本学生支援機構の無利子貸与の第一種奨学金に限り所得連動返還制度が導入されています。

しかし日本の場合は、イギリスやオーストラリアのように一定基準以下の場合は返済義務が生じない仕組みではなく、たとえ年収が0円であっても月額2000円の返済が必要となります。

さらに、返済期間による免除規定はなく、何があっても借りた金額分を返済しなければならない制度の建て付けとなっています。

所得連動返還は赤字を背負う覚悟が必要

所得連動返還は「学費後払い」「出世払い」制度とも置き換えられますが、まず注目すべきは制度の実施主体です。

イギリスやオーストラリアの制度の実施主体主は「政府」、つまり、国が当該制度の責任を負っているということですね。

イギリスでは、返済開始から30年で返済免除となるということは、政府が貸し付けた奨学金が回収できないことになります。

少し古い資料ですが、所得連動返還に関する両国の文科省の資料が検索できました。それによると所得連動返還による回収不能=赤字額の見込みが、イギリス約3兆円(2012年度末)、オーストラリア7000億円(2013年6月時点)とのことです。

卒業後に思うように収入を得られない人は当然でてきます。両国のような本格的な所得連動返還を導入するということは、回収不能分を前提とする覚悟が必要です。

関西学院大副学長が問いかけるもの

冨田宏治副学長は、保護者の収入要件をもとにした従来型の奨学金制度から、より柔軟に社会の実情に応じた仕組みを検討すべきと国に対してメッセージを投げかけています。

関学ヘックスは、コロナ渦による時限的な取り組みだろうと思います。というのも、貸し付けた奨学金の回収業務が大学にとって大きな負担となるからです。しかも、先に触れたように回収不能となるケースも出てきます。

大学独自の奨学金としては、受験前予約型給付奨学金の導入がようやく広がってきました。また、高等教育の修学支援新制度により低所得家庭の学生が大きく救われるようになりました。

今後の課題は多数を占める中間所得層への支援です。

大学独自の貸与型奨学金をとっても、これまでのように単純な無利子貸与だけでなく、学生と保護者の不安に寄り添った取り組みが求められています。

奨学金アドバイザー 久米忠史

公式サイト「奨学金なるほど相談所」
https://shogakukin.jp/
YouTubeチャンネル「奨学金なるほど相談所」
https://www.youtube.com/c/shogakukin



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