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夢もしくは白昼夢の話

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記事一覧

美しい国

美しい国

僕は仕事柄色んな国を旅していて、もう数十カ国を訪問しているのだけど、「一番奇妙な国はどこですか」と聞かれたら、ハピネと答えるだろう。人口200万人程度の都市国家だ。

ハピネの乳幼児死亡率は世界で一番低く、長寿でも知られている。治安も世界でとびきり高い。ハピネ以外の国で携帯電話を落とそうものなら、それを拾った誰かが携帯をネコババすることを覚悟しないといけないけど、ハピネでは必ずといっていいほど、数

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変質者シヴァの取り調べ

1900年代にパーティに出ていた燕尾服の紳士が2010年のパーティにやってきても大して違和感がないように、技術がいくら進歩しても変わらないものというのはあるらしい。2030年も過ぎた今日には全ての言語の同時通訳が全く問題なくなっていたし、人類の言語に飽き足らず動物言語(例えばカラスの鳴き声)までも完全に通訳できるような時代になっていたけれども、人間の住まう建物というのは変化がないままだ。

この山

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アフロディテとプロメテウス

天界から下界の人間たちを眺めながら、アフロディテとプロメテウスが話をしていました。美しいものが大好きなアフロディテが、貧しい国にいる人たちを眺めながら話します。

「ほら、彼らのあの眼を見てご覧なさいよ。あんなにキラキラしていて、何もなくても皆が折り目正しく日々を健やかに生きている。この笑顔の美しさといったら天界でもあまり見られないくらいだわ。
 それに較べて、豊かな国に暮らしている人たちの落ちぶ

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永遠の愛

ケンとアイは大学時代に出会い、10年間付き合った後に結婚したのですが、いつまでたってもお互いに対してときめくことを忘れない夫婦でした。「『一生愛し続ける』と今になっても言えるなんて、お前たちは本当にバカップルだな」と友人たちからは冷やかされ、それに対して二人とも照れくさいような、でも若干誇らしげな微笑みを返していました。

そんな二人を生涯変えてしまう出来事が起きたのは、東京でのオリンピックが終わ

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差別の起源

差別の起源

今の仕事をしていると色んな土地で見聞きすることが増えた。ある人に教えてもらった部族について書いておきたい。

彼女らはその土地にとても昔から住んでいる。少なくとも、いわゆる「◯◯人」という概念が生じたりするよりもずっと昔から存在している種族だ。王家のように種の歴史が長いことを誇りとするのであれば、やんごとなき由緒正しい種族ともいえる。

この人たちの食生活は現代人とはだいぶ違っている。胃腸の酵素が

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記憶

記憶

まさか自分にこんなことが振りかかるとは思っていなかったのだけど、ちょっとした抗争に巻き込まれたようで、腕に怪我をした。流れ弾が当たってしまったからだ。

銃を持った男のターゲットは50代くらいの品のいい紳士で、数発の銃弾を打ち込まれ、その場に倒れていた。後からパトカーや救急車がやってきて、お医者さんと思しき人が生存確認をしている。自分の腕も痛いが、それでもその光景を見ながら「そんな面倒なことをしな

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友だちに冗談で「なにか物語を聞かせてよ」とお願いしたら、こんな話をしてくれた。見た感じ至って心身ともに正常な感じがする彼から、こんな物語が紡がれるとは思わなかった。

★ ★ ★

もう昭和も60年を過ぎた頃のことでした。東京の西側に、40代を過ぎた中年夫婦が住んでいました。

生活は全て満ち足りていました。夫は若くして一流商社の役員候補でした。立派な一軒家に住み、特別な用事がない限り、夕食はいつ

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放棄

日本からずっと西で、キリストが生まれるよりも100年以上前に起きた出来事です。

その地域にはネメスポリスという国がありました。住んでいる人々は皆、浅黒い顔に頭巾をつけています。この頭巾の色は、その人達の地位を表すものともなっていました。王族は紫色の頭巾、貴族は赤色、平民は白、そして奴隷は黒というように。

シェンは、このメネスポリスの歴史の中でも最も人望の厚い王子でした。王子としての地位に加え、

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